ロシアがウクライナ攻撃拡大を検討 戦術核は「準備兆候なし」、それでも消えないリスク

何が起きた?

ロシアのプーチン政権が、ウクライナへの攻撃をさらに拡大する可能性があると、米ブルームバーグが8月26日に報じました。

報道によると、ロシア政府に近い関係者は、米国が仲介する和平交渉が行き詰まったとみており、首都キーウへの弾道ミサイル攻撃や、各地のインフラへの攻撃を強めることを検討しているとしています。

さらに、ロシア当局者の間では、戦争が一段と激しくなった場合、プーチン大統領が最終的に戦術核兵器の使用に踏み切る可能性を考える人が増えているとも報じられました。

ただし、ここは特に注意が必要です。

現時点でロシアが戦術核兵器を使用する準備を進めている兆候は確認されていません。 ブルームバーグの報道でも、この点は明確にされています。ロシア情勢を分析するカーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのアレクサンダー・ガブエフ氏も、核使用の可能性は「極めて低い」と評価しています。

また、8月25日には米CIAのジョン・ラトクリフ長官がモスクワを異例の訪問をしました。

ロシア側も会談が行われたことを認めていますが、内容は公表されていません。米メディアは、ラトクリフ氏がロシアによるNATO加盟国への攻撃を警告したと報じていますが、米露政府がその内容を公式に確認したわけではありません。

簡単にいうと

戦術核兵器は、都市を丸ごと破壊するような「世界規模の核戦争」だけを想定した兵器ではなく、戦場など比較的限定された範囲で使うことを想定した核兵器です。

ただし、「戦術」という名前でも安全な小型爆弾という意味ではありません。

イメージとしては、普通の武器より強力な「最後の切り札」というよりも、押した瞬間に戦争そのもののルールを変えてしまう非常ボタンに近いものです。

1発でも実戦で使えば、第二次世界大戦以来続いてきた「核兵器を戦争で使わない」という大きな一線を越えることになります。

そのためロシアにとっても、単純に「通常兵器で勝てないから核を使う」と判断できるものではありません。

それで何が変わる?

まず現実的に警戒すべきなのは、核攻撃そのものよりも、通常兵器によるウクライナへの攻撃がさらに激しくなることです。

ブルームバーグが報じた情報では、キーウへの弾道ミサイル攻撃や、電力・交通など都市インフラへの攻撃拡大が検討されています。

米国家情報長官室(ODNI)が2026年に公表した脅威評価でも、ロシアは戦場で優位にあると判断し、戦闘を続ければ自国に有利な条件で和平を迫れると考えている可能性が高いと分析しています。

つまり現在のロシアには、核兵器を使わなくても、ミサイルやドローン、兵力の増強などによって戦争をさらに激しくする手段が残っています。

その意味でも、「攻撃拡大」と「戦術核使用」は同じ確率で起きる話ではありません。攻撃拡大の方がはるかに現実的なシナリオです。

プーチン氏は本当に戦術核を使うのか?

現時点では、可能性は低いと考えるのが妥当です。ただしゼロとは言えません。

理由の一つは、ロシア自身が核兵器を使える条件を以前より広げていることです。

ロシアは2024年11月に核抑止政策を改定し、通常兵器による攻撃であっても、ロシアや同盟国ベラルーシの「主権や領土保全への重大な脅威」が生じた場合、核兵器を使用する可能性を認めました。以前の基準だった「国家そのものの存続が脅かされる場合」よりも幅広い表現です。

さらに、核保有国から支援を受けた非核保有国による攻撃についても、ロシアは共同攻撃として扱う考えを示しています。

これは、米国や英国などの兵器・情報を使ってロシア領を攻撃するウクライナを意識した内容と考えられています。

一方、核使用を思いとどまらせる要因も非常に大きいと考えられます。

核兵器を使えば、米国やNATOがどのように反応するか分かりません。ウクライナを支援している国々だけでなく、ロシアと関係を維持している国々との外交関係にも大きな打撃となります。

そして何より、現在のロシア軍が戦場で完全に追い詰められているわけではありません。

専門家の分析でも、ロシアが通常兵器で戦争を継続できる状況では、核兵器よりもミサイル・ドローン攻撃や破壊工作などによる段階的なエスカレーションの方が可能性が高いとみられています。

何が起きたら危険度が上がる?

過去に核使用への懸念が最も高まったのは2022年秋でした。

当時、ウクライナ軍がハルキウやヘルソン周辺で大規模な反攻に成功し、ロシア軍が急速に後退しました。元CIA長官のウィリアム・バーンズ氏は後に、この時期にはロシアが戦術核兵器を使用する「本物のリスク」があったと振り返っています。

つまり危険度が大きく上がりやすいのは、ロシアが単に攻撃を受けたときではなく、プーチン政権が「通常兵器のままでは重大な敗北を避けられない」と判断するような状況です。

例えば、ロシア軍の大規模な敗走や、ロシアが極めて重要とみなす地域の喪失、あるいはロシア指導部が国家や政権の存続に関わる脅威だと認識する事態が起きれば、核使用リスクは現在より高くなると考えられます。

反対に現在のように、ロシアが通常兵器で攻撃を拡大する能力を持ち、戦場でも一定の優位を維持している間は、戦術核を使う軍事的な必要性は比較的小さいと考えられます。

したがって今回の報道は、「プーチン氏が核攻撃を決めた」というニュースではありません。

より正確には、

和平交渉が停滞するなか、ロシアが通常攻撃をさらに強める可能性があり、その先にある最悪のエスカレーションとして戦術核の使用までロシア内部で意識され始めている

というニュースです。

戦術核については過度に恐れる必要はありませんが、「準備兆候が確認されていない」という現在の状況が変わるかどうかは、今後の重要な判断材料になります。

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