ソニー、PS Storeの「購入」表示を巡る訴訟で反論 デジタルゲームは「所有」ではなくライセンス

ソニー、PS Storeの「購入」表示を巡る訴訟で反論 デジタルゲームは「所有」ではなくライセンス

何が起きた?

PlayStation Storeで「購入」したデジタルゲームは、本当に「自分のもの」なのでしょうか。

米カリフォルニア州のPlayStationユーザー4人が2026年6月、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)などを相手に訴訟を起こしました。

問題になっているのは、PS Storeで「Buy Now(今すぐ購入)」「Confirm Purchase(購入を確定)」などと表示している一方、利用者が契約上得るのはゲームそのものの所有権ではなく、一定の条件のもとで利用するライセンスだという点です。

ソニーは8月21日に提出した書面で、PlayStationの利用規約やソフトウェア使用許諾契約には、デジタル商品が所有ではなくライセンスであることがすでに明記されており、「合理的な消費者」が所有権を得たと誤解するとは考えにくい、という趣旨の反論をしました。

ソニーはさらに、今回の請求を集団訴訟として進めるのではなく、利用規約に基づく個別の仲裁手続きへ移すことなども求めています。

ただし、現時点で裁判所がソニーまたは原告側の主張を認めたわけではありません。

簡単にいうと

普通の「本を買う」場合と比べると分かりやすいでしょう。

書店で小説を1冊買っても、その小説の著作権まで自分のものになるわけではありません。

しかし、買った本という物そのものは自分の所有物です。中古で売ったり、人に貸したりできます。

デジタルゲームでは事情が違います。

PS Storeで代金を払い「購入」しても、PlayStationの規約上はゲームそのものの所有権を受け取るのではなく、

「このゲームを決められた条件で利用してよい」という権利

を受け取ります。

米国向けPlayStation利用規約には、PS Storeの商品を購入すると「個人的に利用するライセンス」を得るのであって、商品そのものを所有するわけではないと明記されています。

さらにコンテンツは原則として、個人的・非商用利用のための非独占的かつ撤回可能なライセンスとして提供されます。

つまり、

画面上では「購入」

でも、

契約上は「所有権の取得」ではなく「利用ライセンスの取得」

という仕組みです。

それで何が変わる?

今回の裁判で争われているのは、「デジタルゲームがライセンスなのは違法だ」という話ではありません。

中心となっているのは、

それならPS Storeは、購入する前にそのことを十分分かりやすく説明しているのか

という問題です。

カリフォルニア州では2025年から、ゲーム、映画、電子書籍などのデジタル商品について、「buy」「purchase」など、所有を連想させる言葉を使用する場合のルールが強化されました。

販売者は、利用者から「これはライセンスである」と明示的な確認を取るか、購入手続きの前に、

「購入とはライセンスを取得することです」

と平易な言葉で、明瞭かつ目立つ形で表示する必要があります。

さらに、詳しいライセンス条件へアクセスできるリンクなども提示しなければなりません。

この表示は、一般的な利用規約などとは明確に分けて表示する必要があります。

つまり、この法律は「buy」という言葉そのものを禁止しているわけではありません。

「buyと表示するなら、実際にはライセンスであることを購入前にはっきり知らせてください」

というルールです。

原告側は、PS Storeがそこまで明瞭に説明していないと主張しています。

一方のソニーは、PS Storeからアクセスできる利用規約やライセンス契約には、所有ではないことが明記されているため、消費者を誤解させてはいないと反論しています。

裁判所が原告側の主張を認めれば、PlayStationだけでなく、ゲーム、映画、電子書籍などを販売するデジタルストアで、「購入」の意味をより目立つ形で表示する流れにつながる可能性があります。

ソニーの理屈はなぜ違和感を持たれている?

今回特に話題になったのが、ソニーが裁判書面で挙げた『Resident Evil Requiem』の例です。

原告のJason Mendoza氏は2026年2月14日に同作を購入し、別の原告Edward Heycock氏も11日後の2月25日に69.99ドルで同じ作品を購入しました。

ソニー側は、

最初の購入者がゲームを本当に「所有」したのであれば、その後に別の人が同じゲームを購入できるという考え方は成り立たない

という趣旨の主張をしています。実際の書面でも、デジタル時代に合理的な消費者がゲームの「所有権」を得たと考えるのは現実的ではない、という論理にこの例を使っています。

ただ、この説明に違和感を覚える人がいる理由も分かります。

たとえば100人が同じ小説を買っても、100人それぞれが自分が買った1冊を所有できます。

誰も「小説という作品そのもの」や著作権を独占的に所有したとは考えません。

デジタルゲームでも、消費者が、

「買ったゲームは自分のもの」

と考える場合、

「ゲームという作品全体を独占的に所有した」

という意味ではなく、

「自分が代金を払って取得したコピーやアクセス権を、継続して使える」

という感覚に近いでしょう。

そのためソニーの例は、作品そのものの排他的な所有と、消費者が考える「購入したコピーを自分のものとして使える」という所有感を同じように扱っているように読めるところが、議論を呼んでいます。

これは裁判所の判断ではなく、ソニーの主張をどう評価するかという問題です。

そして興味深いことに、カリフォルニア州が今回の法律を作った背景には、まさにこうした消費者側の認識があります。

州議会の審議資料では、デジタル商品が物理商品と同程度、あるいはそれ以上の価格で販売され、「buy」という表現も使われている一方、企業側の事情によって後からアクセスできなくなる事例が問題視されています。

そして、消費者が購入したデジタル商品を所有していると考えている可能性を前提に、より明確な説明が必要だとしています。

つまり今回の裁判では、

ソニー:「合理的な消費者ならライセンスだと理解できる」

という考えと、

原告側:「購入と表示されたら所有に近い権利を得たと思う消費者もいる」

という考えがぶつかっているわけです。

日本版PSN規約でも「購入=所有権移転」ではない

この問題は、アメリカだけの話でもありません。

日本向けのPlayStationオンラインサービス利用規約でも、オンラインサービス上のコンテンツなどは、

個人的・非営利目的で利用するための「非独占的かつ撤回可能な形式」のライセンス

として提供されるとされています。

さらに日本版の規約には、

「購入」「販売」「売る」「買う」

といった言葉を使っていても、それによってSIEなどから利用者へ知的財産権、所有権その他の権利が移転することを意味しないと明記されています。

ただし、「撤回可能」と書かれているからといって、ソニーが理由もなく購入済みゲームをいつでも自由に消せる、と単純に理解するのも正確ではありません。

実際の利用権は、規約への違反、アカウントの状態、そのゲームに適用される個別条件、権利関係など、さまざまな条件に左右されます。

また、ストアで新規販売が終了したゲームでも、購入済みユーザーが引き続きダウンロード・利用できる場合はあります。

今回の問題の核心は、

「デジタル商品をライセンスとして提供してよいか」

だけではありません。

むしろ、

「実際には条件付きのライセンスなのに、店頭では『購入』という非常に強い言葉を使ってよいのか。その場合、どこまで分かりやすく説明する必要があるのか」

という消費者保護の問題です。

ソニーの規約上の説明には根拠があります。

一方で、カリフォルニア州がわざわざ新しい法律を作ったこと自体、「合理的な消費者なら当然ライセンスだと分かっている」と簡単には言えないことも示しています。

デジタル販売が当たり前になった今、

企業が契約上意味する「購入」と、消費者が日常語として受け取る「購入」

のズレを、どのように埋めるのかが問われています。

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