上院・大統領制・警察を廃止? 会員12万人に拡大した米国「DSA」とは

上院・大統領制・警察を廃止? 会員12万人に拡大した米国「DSA」とは

何が起きた?

アメリカの政治団体「Democratic Socialists of America(DSA、アメリカ民主社会主義者)」が2026年7月、新しい全国プログラム「Workers Deserve More」を正式に発表しました。

内容を見ると、かなり大胆です。

  • 上院の廃止
  • 現在の大統領制の廃止
  • 現在の最高裁の置き換え

そして、

最終的な警察・刑務所制度の完全廃止

まで掲げています。

これは一部メンバーが個人的に主張しているものではありません。

プログラムは2025年のDSA全国大会で決められた手続きに基づき、2026年4~6月に委員会が作成。その後、DSAの全国指導部であるNational Political Committee(NPC)が修正・最終承認したものです。

一方、DSAそのものも急速に大きくなっています。

DSAは2026年7月4日、会員数が過去最多の12万人に達したと発表しました。8月には、全米に約200の支部があるとしています。

2025年には民主社会主義者のゾーラン・マムダニ氏がニューヨーク市長選に勝利し、2026年1月に市長へ就任しました。2026年の予備選でも、DSA推薦候補が民主党内で勝利する例が出ています。

では、DSAとはそもそも何者なのでしょうか。

そして11月3日の中間選挙で、アメリカ政治を大きく変えるほど勢力を伸ばすのでしょうか。

簡単にいうと

まず日本人には少し分かりにくいのですが、現在のDSAは政党ではありません。

DSA自身も、

「政治・活動組織であり、政党ではない」

と説明しています。

加入しても、それだけで有権者登録上の民主党員・共和党員などの扱いが変わるわけではありません。

日本でたとえるなら、

全国規模の政治運動
+ 選挙支援組織
+ 活動家ネットワーク

を組み合わせたような存在です。

アメリカでは民主党と共和党の二大政党が極めて強いため、DSA推薦候補の多くは「DSA党」から立候補するのではなく、民主党の予備選に出て民主党候補の座を争います。

したがって、

共和党 vs 民主党 vs DSA

という三つ巴ではありません。

現在はむしろ、民主党の中やその周辺から、より左派的・社会主義的な政策を実現しようとしている政治運動と考えると分かりやすいでしょう。

ただしDSAは、将来的には独立した大衆社会主義政党を作ることも目標に掲げています。現在は政党ではないものの、永久に現在の形を続けると決めているわけでもありません。

DSAは1982年に結成されましたが、長い間アメリカ政治では小さな存在でした。

大きな転機となったのが、2016年のバーニー・サンダース氏の大統領選です。

サンダース氏自身はDSA会員ではありませんが、その選挙によって「民主社会主義」が全国的に知られるようになり、DSAも急速に存在感を高めました。

それで何が変わる?

DSAが注目されている最大の理由は、単に急進的な政策を掲げているからではありません。

実際の選挙で勝つようになってきたことです。

象徴的なのがニューヨークです。

ゾーラン・マムダニ氏は、

  • 家賃
  • 公共交通
  • 子育て
  • 生活費

といった身近な問題を前面に出し、2025年のニューヨーク市長選に勝利しました。2026年1月の就任時にも、家賃凍結、無料バス、子育て支援などを掲げています。

2026年の民主党予備選でも、DSA推薦候補や民主社会主義系候補による勝利が相次ぎました。

ここで重要なのは、有権者がDSAの全国プログラムをすべて読んで、

「上院も大統領制も警察も廃止しよう」

と思って投票しているとは限らないことです。

Reutersが黒人有権者への支持拡大を分析した記事でも、住宅、医療、物価などの経済・生活問題が重要だと報じています。

つまりDSAには、

最終的に目指す政治制度はかなり急進的

である一方、

選挙で支持を集める入口は家賃・医療費・賃金など極めて身近

という二つの顔があります。

本当に「上院・大統領制・警察を廃止」するの?

結論からいうと、公式プログラムに実際に書かれています。

ただし、言葉だけを見ると誤解しやすいため、それぞれ何を意味しているのか分けて見る必要があります。

上院廃止 → 本当

DSAは現在の米上院を廃止し、下院を拡大したうえで比例代表制や順位選択投票を導入する一院制の議会への移行を掲げています。

DSAが問題視しているのは、人口に関係なく各州から上院議員が2人ずつ選ばれる現在の制度です。

人口数千万人の州でも、人口100万人に満たない州でも同じ2議席です。

DSAは、これが「一人一票」に基づく民主主義をゆがめていると考えています。

一方、現在の制度には、人口の少ない州にも連邦政治で発言力を持たせることで、州の連合体であるアメリカのバランスを守るという考え方があります。

つまりDSA案は、アメリカ建国以来の連邦制度そのものを大きく変更する構想です。

大統領制廃止 → 本当。ただし選挙をなくすわけではない

大統領制そのものの廃止を掲げています。

DSAの公式プログラムは、現在の大統領を、

議会によって選ばれ、議会に従属する行政機関

へ置き換えるとしています。

DSA系媒体もこれを、議院内閣制への移行と大統領制の廃止と説明しています。

また選挙人団の廃止も掲げています。

したがって、

「選挙をやめる」

という意味ではありません。

むしろ、

国民が議員を選び、その議会が行政トップを選ぶ

という制度へ変える構想です。

日本の「国民が国会議員を選び、国会が首相を選ぶ」という仕組みに近い部分があります。

最高裁の置き換え → 本当

さらにDSAは、現在の最高裁を、

議会が選び、議会に従属する司法機関

へ置き換えることも掲げています。

DSA側は、選挙で選ばれていない最高裁判事が、国民の選んだ議会による政策を覆せる現在の制度を民主的ではないと考えています。

一方、現在のアメリカでは、

  • 議会
  • 大統領
  • 司法

を互いに独立させ、権力を監視させる三権分立が重視されています。

大統領と最高裁をともに議会へ従属させ、上院もなくすDSA案では、一院制議会に非常に大きな権力が集まることになります。

DSA側はこれを民主化と考えていますが、逆に「議会多数派を誰が止めるのか」という批判が生じるのも当然でしょう。

警察・刑務所廃止 → 本当。ただし最終目標

これも単なる言葉のあやではありません。

DSAの公式プログラムには、

  • 警察の非軍事化
  • 警察組合の力の縮小
  • 警察予算を公共サービスへ移す

ことを段階として進め、

最終的に警察・刑務所制度を完全に廃止すると書かれています。

つまり「明日すべての警察署を閉鎖する」という政策ではなく、段階的に現在の警察制度を縮小し、最終的にはなくすという構想です。

その代わりに、薬物依存や精神疾患を犯罪ではなく医療の問題として扱い、福祉や公共サービスへ資金を移すことなどを掲げています。

一方で、

  • 武装した強盗
  • 殺人
  • 重大な暴力犯罪

などに対して、最終的に誰が強制力を行使して安全を確保するのかについては、今回の全国プログラムだけでは具体的な制度設計までは示されていません。

ここは警察廃止政策を評価するうえで大きな論点になります。

でも、本当に実現できるの?

上院、大統領、最高裁は、普通の法律を1本通せばなくせる制度ではありません。

現在のアメリカ憲法そのものに組み込まれています。

DSAもそれは分かっており、今回の公式プログラムでは最終的に、

「新しい憲法を作り、民主社会主義共和国を作る」

ことを目標として掲げています。

つまり、

2026年の中間選挙でDSA推薦候補が何十人か当選する

上院や大統領がなくなる

という話ではありません。

現在の憲法を前提とする限り、大統領職や最高裁の抜本的な変更には憲法改正が必要になります。

さらに上院は特にハードルが高く、憲法第5条には、各州の同意なしに上院での平等な議決権を奪えないという特別な規定まであります。

そのため、「上院廃止」は現在の政治状況で近く実現しそうな政策というより、DSAが最終的にどのような国家制度を目指しているかを示す長期的な政治目標と見る方が正確です。

次の中間選挙でDSAは躍進する?

2026年11月3日にはアメリカの中間選挙が行われます。

大統領選はありませんが、連邦下院の全議席と上院の一部などが改選されます。

ではDSAはここで大躍進するのでしょうか。

現時点では、

「勢力は伸びている。しかし全米規模ではまだ限定的」

というのが最も近い答えです。

Brookings Institutionは、2026年選挙で地方支部を含むDSA組織から推薦を受けた候補を282人確認しました。

しかし内訳を見ると、印象がかなり変わります。

  • 全国DSAによる推薦:29人
  • 地方公職:99人
  • 州議会:104人

でした。

282人の半数以上が、地方または州議会レベルの候補です。

さらに地域的な偏りもあります。

  • カリフォルニア州:90人
  • ニューヨーク州:21人

で、DSA推薦候補の多くはもともと民主党の強い地域に集中しています。

州全体や連邦議会を争ったDSA推薦候補は、予備選で半数未満しか勝っていません。

Brookingsも、DSAの2026年の躍進について、

「注目度は高いが、現時点での広がりは限定的」

と分析しています。

つまり、

ニューヨークなど民主党の非常に強い地域で、民主党主流派をDSA推薦候補が倒す

という現象は確かに起きています。

しかし、

共和党と民主党が競り合う全米の激戦区で、DSA推薦候補が次々勝っている

わけではありません。

ここが11月の大きな試金石になります。

Reutersは9月1日、DSA系勢力の次の課題として、民主党にとって重要な黒人有権者へ支持を広げられるかを挙げています。

特に年齢が高い黒人有権者では穏健派への支持も強く、住宅、医療、生活費など、身近な経済問題をどこまで訴えられるかが重要になっています。

DSA推薦候補が都市部や若者だけでなく、郊外や黒人有権者、そして民主・共和が競り合う地域まで支持を広げられれば、民主党内の一勢力から、より大きな政治勢力へ成長する可能性があります。

逆に激戦区で敗北が続けば、

「民主党の強い大都市では勝てるが、全米では勝ちにくい」

という評価が強まるでしょう。

その意味で2026年中間選挙は、

「アメリカが社会主義国家になるか」を決める選挙

ではありません。

むしろ、

「DSAがニューヨークなど一部の大都市を超えて通用する政治勢力なのか」

を測る選挙と見る方が正確です。

10年前には小さな政治団体だったDSAは、現在では会員12万人を抱え、ニューヨーク市長をはじめ実際の公職にも影響力を持つようになりました。

一方、その公式プログラムが最終的に目指すのは、福祉政策を少し拡大する程度ではなく、

  • 資本主義そのものの転換
  • 新憲法
  • 一院制議会
  • 大統領制の廃止

などを含む大規模な制度改革です。

DSAを見るときには、

「家賃を下げる」「医療費を抑える」といった日常的な政策

と、

「アメリカの政治・経済制度そのものを作り替える」という長期的な目標

の両方を見る必要があります。

この二つを組み合わせた政治運動がどこまで支持を広げられるのか。

それが2026年中間選挙以降のアメリカ政治を見るうえで、かなり興味深いポイントになりそうです。

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