クマよけ鈴は本当に効く? 行政は推奨、研究では「クマが逃げる効果」を確認できず

クマよけ鈴は本当に効く? 行政は推奨、研究では「クマが逃げる効果」を確認できず

何が起きた?

クマの市街地への出没や人身被害への不安が高まるなか、「クマよけ鈴」の需要が急増しています。

栃木県鹿沼市の大森鋳造所が製造する「熊に金棒」は、職人が一つずつ鋳造する真鍮製の鈴です。共同通信によると、2024年には多い時期で月約2千点だった注文が、2025年秋には月約5千点まで増えました。

とちぎテレビによると、2025年には年間約3万点を製造し、2026年は5万点以上を予定しています。

では、そもそもクマよけ鈴は本当にクマ対策として効果があるのでしょうか。

結論からいうと、一定の意味はあるものの、「鈴を付ければクマが逃げてくれる」と考えるのは危険です。

簡単にいうと

クマよけ鈴は、クマを追い払うための道具ではありません。

本来の目的は、

「人間が近づいています」と先にクマへ知らせること

です。

たとえば、見通しの悪い山道の曲がり角で「人が通ります」と声をかけるようなものです。

クマが人間の存在に早めに気付き、自分から離れてくれれば、至近距離で突然鉢合わせする危険を減らせる可能性があります。

実際、環境省は2026年8月時点でも、クマに遭遇しないための対策として、複数人で行動することや出没情報を確認することと並び、ラジオや鈴を鳴らし続けることを挙げています。

ただし、これは「鈴を聞いたクマは必ず逃げる」という意味ではありません。

それで何が変わる?

クマよけ鈴を持つこと自体をやめる必要はありません。

問題なのは、

「鈴を付けているから大丈夫」と安心してしまうことです。

米国立公園局は、クマの生息地を歩く際には人間の存在を知らせること自体は重要だとしていますが、クマよけ鈴については効果的な警告にはなりにくいと説明しています。

鈴の音はクマに届く距離が十分でない場合があり、会話したり、声を出したり、手をたたいたりする方が人間の存在を知らせやすいという考え方です。

もちろん、米国には日本とは異なる種類のクマも生息しているため、その説明をそのまま日本のツキノワグマに当てはめることはできません。

それでも、「鈴だけに頼らず、人間だとはっきり分かる音も出す」という考え方は重要です。

日本の実験ではどうだった?

実は、クマよけ鈴そのものの効果については、科学的な研究がまだ十分とは言えません。

京都大学野生動物研究センターの2024年度共同利用研究では、福島県南会津町にカメラとスピーカーを設置し、野生動物にクマ鈴の音を聞かせる実験が行われました。

対象となったのはツキノワグマ、ニホンジカ、イノシシです。

クマについては50回の映像が得られましたが、クマ鈴の音を流した場合と、比較用の鳥の鳴き声を流した場合で、逃げる確率に統計的に有意な差は確認されませんでした。

一方、シカとイノシシでは条件によって、鈴の音に対して逃げる確率が高くなる結果が出ています。

ただし研究チーム自身も、クマについてはサンプル数が少ないとしており、さらにデータを集めて検証する必要があるとしています。

したがって、この研究から、

「クマよけ鈴は効果がない」

と断定することもできません。

分かっているのは、少なくとも現時点では、「鈴を鳴らせばクマが逃げる」という単純な効果は確認されていないということです。

結局、どう使えばいい?

クマよけ鈴は「安全を保証する装備」ではなく、遭遇を避けるための対策の一つとして使うのが適切です。

環境省が勧めている対策を組み合わせると、基本は、事前にクマの出没情報を確認し、できるだけ複数人で行動し、鈴やラジオなどで存在を知らせながら、周囲にも注意を払うことになります。

特に川や沢の近く、強風時、深い藪、見通しの悪い曲がり角では、鈴の音が届きにくかったり、クマ側の物音も聞き取りにくくなったりします。

そうした場所では、人間の声を出すことも重要です。

さらに環境省は2026年8月、クマ撃退スプレーについて性能上の推奨要件を初めてまとめました。ただし、これはクマに接近された場合の最後の防御手段であり、まず遭遇しないことが重要だとしています。

つまり、

鈴は「持つ意味がない」のではありません。

しかし、

「よく響く鈴を買えば安心」というほど単純でもありません。

今回、大森鋳造所のクマよけ鈴が人気になっているのは、クマへの不安がそれだけ身近になっている表れともいえます。

クマよけ鈴の一番適切な位置づけは、クマを追い払う魔除けではなく、人間の存在を少しでも早く知らせるための補助道具と考えるのがよさそうです。

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