「日米同盟を終了」提言の米シンクタンクは何者? 小規模でも無視できない理由

「日米同盟を終了」提言の米シンクタンクは何者? 小規模でも無視できない理由

何が起きた?

米国のシンクタンク「Defense Priorities(ディフェンス・プライオリティーズ)」は2026年9月10日、米軍のアジア戦略を大きく変更する「第二列島線戦略」を発表した。

内容はかなり踏み込んでいる。台湾有事への米軍介入を明確に否定し、日本、韓国、フィリピン、オーストラリアとの相互防衛同盟を終了。米軍の重点を日本などの「第一列島線」から、グアム、北マリアナ諸島、パラオ、ミクロネシアなどの「第二列島線」へ移すという案である。

日本についても、沖縄の海兵隊や嘉手納基地の戦闘機部隊などを大幅に縮小し、最終的には現在の日米同盟を、より限定的な安全保障協力へ置き換える構想を示している。

ただし、この提言を理解するうえで重要なのが、

「Defense Prioritiesとは、そもそもどの程度の影響力を持つ組織なのか」

という点である。

これは米政府の機関でも、米国を代表する最大級のシンクタンクでもない。

一方で、単なる無名の団体として片付けるのも適切ではない。

簡単にいうと

Defense Prioritiesは、米国外交の「もっと海外への軍事介入を減らそう」という考え方を代表するシンクタンクの一つである。

同団体自身が掲げているキーワードは、

「realism and restraint(現実主義と抑制)」

である。

考え方を簡単にすると、

「米軍は強くあるべきだ。しかし、その軍隊を世界中の国を守るために使う必要があるのか?」

という立場である。

たとえば大きな会社が、世界中に支店を作り、すべての支店に警備員を置いていたとする。

Defense Prioritiesは、

「本社を守ることが最優先なのだから、危険でコストの高い海外拠点は減らし、現地側にもっと自分で守ってもらえばいい」

と考える側に近い。

そのため、ウクライナ、中東、NATO、台湾、東アジアなどについても、米国の軍事負担を減らす提言を繰り返している。

今回突然「日本から撤退しよう」と言い始めたのではなく、以前から一貫して米軍の海外関与縮小を主張してきた団体なのである。

それで何が変わる?

まず重要なのは、

「米シンクタンクが日米同盟終了を提言した」=「米政府が日米同盟終了を検討している」

ではないことである。

実際、現在の米政府の公式戦略は今回の提言とはかなり違う。

2026年1月に米国防総省が公表した国家防衛戦略では、中国による地域支配を防ぐため、

第一列島線に沿って強力な「拒否的抑止」を構築する

という方針が明記されている。

つまりDefense Prioritiesが、

「第一列島線から後退して第二列島線へ」

と提案しているのに対し、米政府は現在、

「第一列島線を強化する」

と言っている。

さらに2026年3月の日米首脳会談でも、米政府は日本への高度な軍事能力の展開やミサイル共同生産などを進め、日米同盟を強化する方針を発表した。

6月の日米拡大抑止協議でも、米国は核兵器を含むあらゆる防衛能力によって日本を防衛するとの約束を改めて確認している。

したがって現時点では、日米同盟終了は米政府方針ではなく、一シンクタンクによる政策提言である。

ここを混同するとニュースの意味が大きく変わってしまう。

このシンクタンクは何者?

Defense Prioritiesは、大手シンクタンクと比べると規模はかなり小さい。

米国の税務申告を基にしたProPublicaのデータでは、2024年の年間収入は約337万ドル、支出は約284万ドルだった。

数百人規模の巨大研究機関というより、特定の外交・安全保障思想に集中した政策組織と考えた方が近い。

しかし、研究者そのものは必ずしも無名ではない。

今回の第二列島線戦略を書いたジェニファー・カバナ氏は、政治学・公共政策の博士号を持ち、ジョージタウン大学でも安全保障を教えている。米国の外交問題評議会にも所属するなど、安全保障政策の世界で一定の経歴を持つ研究者である。

そしてDefense Prioritiesの特徴は、組織の大きさよりも、

「米国は世界に軍隊を展開しすぎている」

という政策思想を専門的に発信しているところにある。

共和党の伝統的な強硬派や、海外で積極的に軍事力を使うことを支持する勢力とはかなり違う。

むしろ、

「同盟国はもっと自分で防衛すべきだ」

「米国は自国に直接関係のない戦争へ巻き込まれるべきではない」

という「America First」の一部と重なる思想である。

ただしDefense Prioritiesはトランプ政権の政策をすべて支持しているわけではなく、米軍事介入をめぐって政権を批判することもある。

そのため、単純な「トランプ政権系シンクタンク」と見るのも正確ではない。

では、どこまで影響力がある?

ここが一番難しい。

「巨大な影響力を持つ」と断定するほどではないが、政策人脈は無視できない。

実例がある。

Defense Prioritiesのフェローだったマイケル・ディミノ氏は、2025年にトランプ政権で国防総省の中東担当国防副次官補に就任した。

米国防総省自身の経歴紹介にも、Defense Prioritiesのフェローだったことが記載されている。

つまり、このシンクタンクで語られている「米国の軍事負担を減らし、同盟国自身にもっと防衛させる」という考え方を持つ人物が、実際に政権の安全保障部門へ入っている。

だからといって、今回の「日米同盟終了案」が政権内で採用されることを意味するわけではない。

むしろ現在の国家防衛戦略を見る限り、第二列島線まで米軍を後退させる方向にはなっていない。

それでも今回の提言には意味がある。

以前の米国では、

「日本から大部分の米軍を撤退させる」

「日米安保条約による相互防衛を終了する」

「日本への核の傘も終了する」

という主張は、外交・安全保障政策のかなり端にある議論だった。

ところが現在は、

「米国は同盟国を守りすぎているのではないか」

という問題意識そのものが、米国政治の一部で以前より強くなっている。

今回の提言で本当に注目すべきなのは、

「米政府が日米同盟終了を決めた」

ことではない。

米国の安全保障政策コミュニティの中で、「日本を永久に米国が守り続ける必要があるのか」という議論が、具体的な軍事配置や核抑止まで含めた政策案として公然と提示されるようになっていることである。

しかもその一方で、現在の米政府は第一列島線と日米同盟の強化を続けている。

つまり今の米国では、

「同盟国を使って中国を第一列島線で抑止する」

という現在の政府方針と、

「同盟国防衛への関与を減らして第二列島線まで後退する」

という抑制派の考え方が、かなり離れた位置に存在している。

今回のDefense Prioritiesの提言は、その後者をかなり極端なところまで具体化したものと見るのが適切だろう。

日本にとって重要なのは、この一つの論文に過剰反応することではない。

それよりも今後、米国の政権・議会・世論の中で、

「日本の防衛は日本自身がもっと負担すべきだ」

という考え方がどこまで広がるのかを見る必要がある。

その流れが本格化すれば、日本に求められるのは単なる防衛費の増額だけではなく、米軍基地、長距離攻撃能力、日米安保、さらには米国の「核の傘」をどうするのかという、戦後日本の安全保障そのものを見直す議論になる可能性がある。

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