「マンジャロ」で1か月6キロ減 なぜ美容目的のダイエット使用が問題なのか

何が起きた?
糖尿病治療薬「マンジャロ」をダイエット目的で使用し、約1か月で6キロ体重が減った20代女性の体験を、読売新聞が2026年9月15日に報じた。
女性は知人がマンジャロで痩せたことをきっかけに、インターネットで見つけたクリニックを利用した。LINEで名前や住所を送り、電話で数十秒話した後、1か月分4本を約1万7000円で購入したという。
使用すると食欲が大きく減り、1日1食で済むようになったほか、何も食べない日もあった。一方、使用翌日のだるさや顔色の悪さを指摘され、約1か月で6キロ減ったことが怖くなり、使用をやめたとしている。
ここで注意したいのは、マンジャロそのものが「危険な薬」という話ではないことである。
問題は、強い作用を持つ医療用医薬品が、本来の治療対象ではない人に「簡単に痩せる薬」のように使われていることにある。
簡単にいうと
マンジャロの成分は「チルゼパチド」である。食欲や血糖値に関係するGIPとGLP-1という仕組みに働きかけることで、血糖値を下げるとともに、食欲を抑える作用がある。
そのため、実際にかなり大きな体重減少が起きることがある。
ただし、同じ成分だからといって「誰でも痩せるために使ってよい」という意味ではない。
たとえるなら、非常に強力な工具があるからといって、使い方を知らない人が用途を無視して使ってよいわけではないのと同じである。効果が強い薬ほど、誰に、どの量を、どのように使うかが重要になる。
厚生労働省も2026年6月、美容や痩身目的でGLP-1系やGIP/GLP-1系の薬が使われているとして、改めて適正使用を求める通知を出している。
それで何が変わる?
「マンジャロを使えば本当に痩せるのか」という点だけを見れば、体重を大きく減らす作用があることは臨床試験でも確認されている。
同じ成分を使う肥満症治療薬「ゼップバウンド」の日本国内試験では、肥満症患者に72週間投与したところ、平均体重は10mg群で18.4%、15mg群で22.6%減少した。プラセボ群は1.8%の減少だった。
ただし、これは医学的に肥満症と判断された患者が、食事療法や運動療法も行いながら治療を受けた結果である。
健康な人が美容目的で短期間使用した場合について、同じ安全性や効果が確認されているわけではない。
マンジャロの最新の添付文書にも、「過度の体重減少がみられた場合は減量または投与中止を考慮する」と明記されている。
悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛などの消化器症状のほか、低血糖、急性膵炎など重大な副作用が起こる可能性もある。嘔吐や下痢による脱水から急性腎障害につながるおそれもある。
今回の女性についても、「6キロ減った」という数字だけで危険だったとは判断できない。元の体重や身長、投与量などが分からないためである。
むしろ、「1日1食」「何も食べない日もあった」「体がだるい」という状態になっていたことの方が重要である。
さらに、薬をやめれば必ずその体重を維持できるわけでもない。
海外の臨床試験では、チルゼパチドでいったん体重を減らした後に薬を中止した人たちは、その後52週間で平均14%体重が増えた。肥満症は長期的に管理する病気であり、「数週間だけ注射して一気に痩せる」という使い方とは考え方が異なる。
「マンジャロ」と「ゼップバウンド」は何が違う?
ここは今回の報道で特に誤解しやすい部分である。
2026年9月15日現在、PMDAの最新添付文書では、「マンジャロ」の効能・効果は2型糖尿病である。
一方、同じチルゼパチドを使った「ゼップバウンド」は、肥満症などの治療薬として承認されている。
つまり、
マンジャロ=2型糖尿病用
ゼップバウンド=一定条件を満たした肥満症などの治療用
という違いがある。
ただし、ゼップバウンドも「少し痩せたい人向けのダイエット薬」ではない。
肥満症で使用する場合には、食事療法や運動療法を行っても十分な効果がなく、高血圧、脂質異常症、耐糖能障害などがあり、さらにBMIなどの条件を満たす必要がある。
代表的な基準は、BMIが35以上、またはBMIが27以上で複数の肥満に関連する健康障害がある場合などである。
したがって、
「チルゼパチドは肥満症にも使われている」
という説明は正しいが、
「マンジャロは美容ダイエット用としても承認された薬」
という理解は間違いである。
数十秒のオンライン診療で買えるなら安全?
今回のケースでは、女性はLINEで情報を送り、電話で数十秒話した後に1か月分を購入したとされる。
厚生労働省はオンライン診療について、メールやチャットだけでは診療できないとしている。また、基礎疾患などの情報を十分に把握できていない初診患者には、糖尿病用薬など特に安全管理が必要な薬や、8日分を超える薬を処方できないという制限がある。
そのため、「ほとんど診察らしい診察を受けず、すぐ1か月分が届く」という仕組みには注意が必要である。
ただし、今回のクリニックが事前の問診などでどこまで患者情報を確認していたのかは報道だけでは分からない。そのため、このケース自体が違法だったと断定することはできない。
また、SNSや個人間売買で薬を入手するのはさらに危険である。厚生労働省は、偽造品や品質が劣化した薬、成分量が不明な薬が含まれる可能性を警告している。
美容・痩身目的の適応外使用で重い副作用が発生した場合、公的な「医薬品副作用被害救済制度」の対象にならない可能性が非常に高いことにも注意が必要である。
チルゼパチドは、医学的に必要な人にとって有力な治療薬である。
だからこそ、「簡単に痩せる注射」として扱うのではなく、糖尿病や肥満症という病気を治療するための強力な医薬品として考える必要がある。