ハイロックス優勝者、便失禁後も競技続行 「勝ちは勝ち」投稿が炎上、運営はミス認めルール変更

何が起きた?
2026年9月12日、中国・北京で行われた屋内フィットネス競技「HYROX(ハイロックス)」の女子PRO部門で、オーストラリアのジョアンナ・ヴィエトリク選手が競技中に便失禁を起こしながら、そのまま競技を続けて優勝した。
ヴィエトリク選手は1時間1分23秒で1位となり、2位のアリッサ・マケルヘニー選手に45秒差をつけた。HYROXは1kmのランニングと筋力・持久力系の運動を交互に8回行う競技で、ローイングマシンなど複数の選手が同じ設備を使用する。
問題となったのは、失禁そのものだけではない。映像では排せつ物が脚に付着した状態でヴィエトリク選手が競技を続けており、共用設備や床の衛生、安全性に対する批判が広がった。
HYROX中国はその後、影響を受けた区域を隔離・消毒し、関連する器具を撤去したほか、会場のカーペットも交換したと説明している。
簡単にいうと
たとえばマラソン中に選手がおなかを壊したとしても、その選手が走る道路を他の参加者が直接手で触ることは通常ない。
しかしHYROXでは、床でバーピーを行い、ローイングマシンを使い、重りを持ち、ほかの選手も同じ場所や器具を次々に利用する。
そのため今回は、
「体調が悪くても最後まで諦めなかった選手」
という個人の根性の問題だけではなく、
「ほかの選手に衛生上の影響が出る状態になったとき、誰が競技を止めるべきなのか」
という大会運営の問題になったのである。
実際、HYROX共同創業者のモリッツ・フュルステ氏はその後、運営側が「競技中に直ちに対応しなかったのは間違いだった」と認め、影響を受けた人々に謝罪した。
それで何が変わる?
HYROXは今回の問題を受け、競技規則と運営手順を変更した。
新たな規定では、選手の血液、嘔吐物、尿、便が本人またはほかの選手の健康や衛生に危険を及ぼす場合、レースディレクターが医学的理由でその選手を競技から退出させることができる。
その場合は「DNF」、つまり途中棄権として記録される。
ただし規則は「退出させなければならない」ではなく、「退出させることができる」という表現である。
これは小さな鼻血や擦り傷、軽い嘔吐などまで機械的に全員失格にしないため、現場のレースディレクターに判断の余地を残したものと考えられる。
今回の件によって、急成長してきたHYROXには、それまで明確でなかった「排せつ物などによる汚染」への対応が明文化されることになった。
「勝ちは勝ち」投稿は何が問題だった?
騒動をさらに大きくしたのが、ヴィエトリク選手自身のInstagram投稿である。
競技後、ヴィエトリク選手は病院のベッドとみられる場所で点滴を受けている写真をInstagramのストーリーズに投稿した。
そこには「全力でやるか、帰るかって言うでしょ」「勝ちは勝ち」といった趣旨の文章とともに、応援への感謝と「すぐ戻る」という言葉が書かれていた。
「勝ちは勝ち」という部分だけを見るとかなり挑発的に見えるが、全文では応援への感謝も述べている。
一方で、少なくとも確認されている投稿には、共用設備を使用したほかの選手や大会スタッフへの謝罪、なぜ競技を続けたのかという説明、失禁の原因についての説明はなかった。
このためSNSでは、「本人が恥ずかしい思いをしても最後まで戦った」という評価と、「ほかの選手への影響を考えていない」という批判が真っ二つに分かれた。
このストーリーは現在閲覧できなくなっており、複数の海外メディアは削除されたと報じている。ただしInstagramのストーリーズは通常24時間で消えるため、批判を受けて本人が意図的に削除したのかまでは断定できない。
なお、一部では失禁の原因について食中毒だったとの情報も出ているが、本人がSNSなどで詳しく説明したことは確認できていない。原因については現時点で断定しない方がよい。
本当に責任を問うべきなのは誰?
ヴィエトリク選手については、「自分から競技をやめるべきだった」という批判が成り立つ。
特にHYROXは屋内で床や器具を共有するため、本人だけの体調問題では済まないからである。
しかし、より大きな責任を持つのは大会運営側である。
競技中の選手、とりわけ世界トップクラスの選手は、身体的な限界に達しても「まだ続けられる」「勝てる」と判断しがちである。だからこそ、本人の意思とは別に、審判や医療スタッフ、レースディレクターが安全面から止める仕組みが必要になる。
HYROX側自身も最終的にはこの考え方を認め、「すぐに対応しなかったのは間違いだった」と明言した。
一方で、ヴィエトリク選手本人への脅迫や危害を示唆する投稿も発生した。HYROXは運営への批判は受け止める一方、選手への暴力的な脅迫を行った人物については大会から永久追放する可能性があると警告している。
つまり今回の問題は、
「失禁しても諦めなかった選手は立派か、迷惑か」
だけで終わる話ではない。
競技者が極限状態に入ったとき、本人の「続けたい」という意思をどこまで認め、どこから大会側が強制的に止めるのか。
急成長する新しいスポーツに、その線引きが追いついていなかったことが今回明らかになったのである。
そして、その代償としてHYROXは実際にルールを変更することになった。
情報源
- HYROX「Ulike HYROX Beijing」
- HYROX「Rulebooks」
- The Guardian「Hyrox changes rules and apologises for allowing Australian athlete who soiled herself to continue」
- ABC News「HYROX Beijing faces backlash after Aussie athlete continues race despite soiling herself」
- HYROX共同創業者 Moritz Fürste「Instagram声明」
- BOXROX「HYROX Co-Founder Speaks Out After Joanna Wietrzyk Incident at HYROX Beijing, New Rules Set Now in Place」