AIがAIを開発する「RSI」はもう始まった? 2026年現在の到達点

何が起きた?
2026年、AIが次世代のAI開発を手伝う動きが、研究段階から実際の開発現場へ急速に広がっている。
注目されている言葉が「RSI」である。正式には「Recursive Self-Improvement(再帰的自己改善)」といい、AIの能力向上によってAI開発が速くなり、その結果さらに高性能なAIが生まれ、またAI開発能力が高まるという循環を指す。
ただし、2026年9月現在、「AIが人間なしで自分より優秀な次世代AIを作り続ける」という完全なRSIが実現したわけではない。
一方で、AIがコードを書き、実験し、結果を分析し、次の実験を考えるところまでは、すでに現実のAI研究で使われ始めている。
簡単にいうと
これまでのAI開発を「人間が働く研究所」だとすると、現在はそこに非常に優秀なAI研究助手が大量に入ってきた状態である。
以前は人間が「何を試すか」を考え、自分でプログラムを書き、実験し、結果を確認していた。
現在は人間が「この問題を解いて」と指示すると、AIがプログラムを書き、実験を何度も行い、結果を比較して改善案まで出せるようになってきた。
さらに重要なのは、そのAIが作っているものの中に「次のAI」や「AIを作るための技術」も含まれていることである。
つまり、
人間がAIを作る
↓
AIがAI開発を手伝う
↓
次のAIがより賢くなる
↓
そのAIがさらにAI開発を手伝う
という循環の一部は、すでに始まっている。
それで何が変わる?
最も大きな変化は、AIの進歩速度がこれまで以上に速くなる可能性があることだ。
Anthropicによると、2026年5月時点で同社の本番コードに取り込まれるコードの80%以上がClaudeによって書かれていた。同社の典型的なエンジニアが1日に取り込むコード量も、2024年と比べ2026年第2四半期には約8倍になったという。
ただし、コード量が8倍だから研究能力そのものが8倍になったという意味ではない。Anthropic自身も、コード量だけでは生産性を正確に測れないと注意している。
OpenAIでも同様の変化が起きている。2026年8月中旬には、研究組織全体で人間が1日働く間に、AIエージェントが合計約3.1日分に相当する時間動いていた。
OpenAIは2026年9月、数日かかる明確な研究課題を人間の指示のもとで処理できる段階を「自動化された研究インターン」と位置づけ、その水準に到達したとしている。
こうした仕組みがさらに進めば、100人の研究チームが何百、何千ものAIエージェントを同時に動かして大量の実験を行う、といった研究方法が一般化する可能性がある。
AIサービスの性能向上や新機能の登場が速くなる一方、安全性の確認や社会制度の整備が追いつけるかという問題も大きくなる。
どこまでAIがAIを開発している?
すでに「AIがAI開発を改善した」と言える具体例も存在する。
Google DeepMindの「AlphaEvolve」は、Geminiを利用してプログラムを生成し、その性能を評価しながら改良を繰り返すシステムである。
AlphaEvolveが発見した方法によって、Geminiで使われる重要な行列計算が23%高速化し、Geminiの学習時間そのものが約1%短縮された。また、AIで広く使われるFlashAttentionという処理では最大32.5%の高速化も報告されている。
つまり、
Geminiを使ったAI
↓
Geminiを作るための計算を改善
↓
次のGemini開発が効率化
という、小さな自己強化ループはすでに成立している。
Anthropicではさらに、Claudeを使った複数のAIエージェントにAI安全研究の課題を与え、仮説の提案、実験、分析、情報共有、再実験まで行わせる研究も実施された。
9体のAIエージェントが合計約800時間の実験を行い、人間研究者が約1週間かけて出した結果を大きく上回った。
ただし、ここには重要な条件がある。
「何を研究するのか」と「何を成功と判断するのか」は人間が決めていた。
AIは与えられた問題を解く能力では非常に強くなっているが、「そもそも何を研究するべきなのか」を判断する部分では、まだ人間が重要な役割を担っている。
OpenAIの内部データでも、高度な研究計画に使われるAIの割合はまだ小さい。また、人間なら4~8時間かかる複雑な課題では、成功したケースの半数以上で途中に人間の介入があった。
したがって現在は、
AIがAIを完全自律的に作っている段階ではなく、人間が方向を決め、AIが研究作業を猛烈な速度で進める段階
と考えるのが正確である。
これから何が焦点になる?
最大の焦点は、AIが「研究作業」だけでなく「研究の方向」まで決められるようになるかどうかである。
現在は、
人間が研究テーマを決める
↓
AIが実験する
↓
AIが結果を分析する
↓
人間が次の方向を判断する
という形が中心である。
これが将来、
AIが研究テーマを決める
↓
AIが実験する
↓
AIが結果を判断する
↓
AIが次の改善方法を決める
↓
次世代AIを作る
↓
そのAIがさらに次世代を作る
となれば、本格的なRSIにかなり近づく。
OpenAIは2028年3月までに、人間の監督下でより高度なAI研究を行える「自動化されたAI研究者」を作ることを目標としている。
一方、RSIがそのまま「知能爆発」につながるとは限らない。
AIがどれだけ研究を速くしても、GPUなどの計算資源、半導体、電力、学習データ、実験環境、人間による確認などが不足すれば、そこで速度は頭打ちになる。
AI能力を評価する研究機関METRも、データや計算資源などの制約によって自己改善の加速が途中で止まる可能性を指摘している。一方で、現在得られている証拠だけでは、長期間にわたってAI開発が急加速する可能性も否定できないとしている。
2026年現在、「AIが勝手に自分より賢いAIを次々と生み出す時代」が来たとはまだ言えない。
しかし、「AIがAI開発を高速化し、その結果できたより強いAIが、さらにAI開発を高速化する」というRSIの入口は、すでに現実のものになり始めている。
今後を見るうえで重要なのは、単にAIのテスト成績が上がったかではなく、人間が決めている「何を研究するべきか」という部分までAIが担い始めるかである。
そこが、現在のAI研究支援と本格的なRSIを分ける大きな境界線になる。
情報源
- Anthropic「When AI builds itself」
- Anthropic Alignment Science Blog「Automated Weak-to-Strong Researcher」
- Google DeepMind「AlphaEvolve: A Gemini-powered coding agent for designing advanced algorithms」
- OpenAI「Research acceleration: The view inside OpenAI」
- METR「The Economics of Recursive Self-Improvement」