食料品の消費税が8%→1%へ 家計は本当に楽になる?「年間5兆円」の財源まで検証

何が起きた?
政府は2026年9月15日、現在8%となっている飲食料品の消費税率を、2027年4月から2年間に限って1%へ引き下げる方針を盛り込んだ税制改正大綱を閣議決定した。
減税終了後の2029年4月からは税率を8%へ戻し、中低所得者には所得に応じて給付する制度へ移行する方針である。
さらに2027年度からは、1%相当分の範囲で所得に連動した給付も先行して始める。政府は、減税と給付を組み合わせることで、中低所得の就業者について食料品にかかる消費税負担を実質的にゼロへ近づける考えである。
ただし、これで2027年4月の減税が法律として確定したわけではない。
政府は臨時国会へ関連法案を提出し、年内成立を目指すとしている。
簡単にいうと
税抜100円の食品なら、現在は消費税8%を含めて108円である。
税率が1%になれば101円になる。
つまり、税抜価格が変わらず、減税分がそのまま値段へ反映された場合、税込価格は現在より約6.5%安くなる。
たとえば現在1万800円かかっている食料品なら、おおむね1万100円になる計算である。
野村総合研究所は、4人世帯では年間約5万9,000円の負担軽減になると試算している。
決して「数百円しか変わらない」という規模ではなく、食費の多い家庭ほど家計への効果は実感しやすい。
ただし、これはあくまで減税分が価格へ十分反映された場合の話である。
それで何が変わる?
最大のメリットは、給付金と違って、基本的には申請しなくても買い物をするたびに恩恵を受けられることである。
食費は毎日の支出なので、減税が価格へ反映されれば即効性も分かりやすい。
物価指数にも影響するため、2027年には一時的に食品を中心とした物価上昇率がかなり低下する可能性がある。
一方で、物価高の原因そのものを取り除く政策ではない。
食品価格が上がっている背景には、原材料価格、人件費、物流費、エネルギー価格、円相場などがある。
消費税を下げても、これらのコストは下がらない。
たとえるなら、値上がりした食品に政府が「税金分だけ値引きシールを貼る」ようなものである。
値札はいったん安くなるが、原材料費などが再び上昇すれば、その効果はいずれ薄れていく。
野村総合研究所は、1%への引き下げによる実質GDPの押し上げを約0.19%と試算している。
家計支援としては意味がある一方、日本経済を大きく成長させるほどの政策ではないとみられる。
本当にスーパーの値段は安くなる?
ここは今回の制度を考えるうえで重要である。
消費税が7ポイント下がったからといって、すべての商品が必ず同じ分だけ値下げされるとは限らない。
企業は原材料費や人件費、物流費などを含めて商品の税抜価格を決めているため、減税と同じ時期に本体価格を引き上げれば、消費者が感じる値下げ幅は小さくなる。
海外でも結果は一定ではない。
IMFが欧州17か国の付加価値税の変更を調べた研究では、標準税率の変更はおおむね価格へ反映された一方、食料品などに使われる軽減税率の変更では、平均すると価格への反映は約3割にとどまった。
しかし、最近には逆の例もある。
スウェーデンでは2026年4月、食料品の付加価値税を12%から6%へ引き下げた。
政府系の国立経済研究所が9月に公表した分析では、完全に転嫁された場合の値下げ幅が約5.4%なのに対し、実際の価格低下は約4.7~5.4%だった。
つまり、最近のスウェーデンでは減税分がほぼそのまま消費者へ還元された。
日本でもスーパーやコンビニの価格競争が強く働けば、かなりの部分が値下げとして表れる可能性はある。
逆に競争が弱かったり、原材料費などが同時に上昇したりすれば、「税率は7ポイント下がったのに思ったほど安くならない」ということもあり得る。
そのため実施後は、税率ではなく実際の店頭価格がどれだけ下がったかを見る必要がある。
また、今回の減税は低所得者だけを対象にしたものではない。
高所得者も同じように1%で食料品を購入できる。
OECDも、食料品などの消費税率を一律に下げる方法は低所得者への支援としては対象を絞りにくく、所得に応じた給付の方が効率的になりやすいと指摘している。
今回、日本政府が減税と所得連動給付を組み合わせようとしているのは、この弱点を補う意味もある。
最大の問題は「約5兆円をどこから出すのか」
減税の効果よりも、現時点で不透明なのが財源である。
野村総合研究所は、食料品の消費税を8%から1%へ引き下げた場合、年間約4.4兆円の税収が減ると試算している。
さらに所得連動給付なども合わせると、政府内では年間約5兆円規模の財源が必要になるとされている。
政府は「赤字国債には頼らない」としている。
これまでに候補として挙げられてきたのは、租税特別措置や補助金の見直し、基金や特別会計の活用、税外収入、補正予算の縮小などである。
しかし、9月15日の大綱でも、「この制度を廃止して○兆円、この補助金を削って○兆円」という具体的な5兆円の財源表までは示されていない。
具体策は年末の予算編成などへ持ち越された。
ここは今回の政策で最も注意すべきところである。
5兆円を歳出削減で用意するのであれば、当然ながら別の政策や補助金を減らす必要がある。
税収の上振れや基金などで賄う場合も、毎年安定して5兆円を確保できるとは限らない。
財源が不足して最終的に国債発行へ頼れば、政府が掲げる「赤字国債に頼らない」という前提そのものが崩れる。
さらに消費税収は、年金、医療、介護、子育てなど社会保障の重要な財源でもある。
したがって、減税そのものだけを見るのではなく、その穴を何で埋めるのかまで見て初めて政策全体を評価できる。
もう一つ気になるのが2029年である。
政府の現在の計画では、1%は2027年4月から2年間だけで、2029年4月には8%へ戻す。
税抜100円の商品なら101円から108円になるため、消費者から見れば約6.9%の値上がりとなる。
政府はその代わりに所得連動給付へ移行する予定だが、2029年にも物価高が続いていれば、8%への復帰には強い政治的反発が出る可能性がある。
高市政権がその時点まで続いているかも現時点では分からない。
法律が期限付き制度として成立すれば、政権が変わっても原則として8%へ戻ることは可能だが、その時の政府と国会が再び法律を変更することもできる。
したがって、「2029年4月に必ず8%へ戻る」と今から決まった未来のように考える必要はない。
今回の政策をまとめると、家計支援としての即効性は比較的大きく、値下げが十分に実現すれば年間数万円の負担軽減になる世帯も多い。
一方で、物価高そのものを止める政策ではなく、年間約5兆円という巨額の財源問題も残っている。
結局のところ、この政策が成功したかどうかを判断するには、
「税率が1%になったか」ではなく、「食品価格が実際にどれだけ下がったか」「5兆円を何で賄ったか」
を見る必要がある。
情報源
- 首相官邸「『飲食料品に係る消費税率の引下げ』及び『給付付き税額控除』についての会見」
- 財務局「大臣挨拶要旨(令和8年9月2日)」
- 財務省「片山財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(令和8年9月8日)」
- TBS NEWS DIG「食料品の消費税1%へ 税制改正大綱がきょう閣議決定 来年4月から2年間限定」
- 野村総合研究所「食料品の消費税率を来年4月に1%へ引き下げることは可能か?そして適切か?:財源議論が後回しに」
- 野村総合研究所「浮上する食料品の消費税率1%案:原油価格高騰と消費税減税の家計への影響を比較」
- IMF「Estimating VAT Pass Through」
- OECD「Tax Policy Reforms 2026」
- Konjunkturinstitutet「Den sänkta mervärdesskattens genomslag på livsmedelspriserna i dagligvaruhandeln」