米国、火力発電所のCO₂規制を撤廃 石炭・ガスを使い続けやすく、何が変わる?

米国、火力発電所のCO₂規制を撤廃 石炭・ガスを使い続けやすく、何が変わる?

何が起きた?

アメリカ環境保護局(EPA)は2026年9月14日、石炭や天然ガスを使う火力発電所に対して、バイデン政権が2024年に導入した温室効果ガス規制の大部分を撤廃した。

特に大きいのが、長期間運転を続ける石炭火力や、稼働率の高い新設ガス火力に対して、将来的に二酸化炭素(CO₂)の約90%を回収する水準の対策を求めていた部分である。

EPAはさらに、発電所に残っている温室効果ガス規制もすべて撤廃する案を発表した。ただし、こちらは現時点では提案段階であり、まだすべての規制がなくなったわけではない。

簡単にいうと

これまでは政府が火力発電会社に対し、

「石炭や天然ガスを長く使い続けるなら、CO₂を大幅に減らす設備を導入してください」

と求める方向だった。

今回の変更によって、

「CO₂削減のために、高額な設備投資や発電所の早期廃止まで迫ることはしない」

という方向へ大きく転換したのである。

たとえば古い石炭火力を持つ電力会社にとっては、高額なCO₂回収設備を導入するか、発電所を閉鎖するかという判断を迫られる可能性が低くなる。

それで何が変わる?

最も直接的な変化は、石炭火力や天然ガス火力を使い続けやすくなることである。

バイデン政権の2024年規制では、2039年以降も運転する石炭火力などに対し、2032年からCO₂の90%回収を前提とする厳しい排出基準を求めていた。

新しく建設される一部の大型ガス火力にも、2032年以降は同様に90%のCO₂回収を前提とする基準が設定されていた。

今回、その中心部分が撤廃される。

電力会社から見れば、石炭・天然ガス火力への投資を続ける際に「将来のCO₂規制に対応するため巨額の設備投資が必要になる」というリスクが小さくなる。

一方で、当然ながらCO₂を減らす圧力も弱くなる。

バイデン政権時代のEPAは、2024年規制によって2047年までに合計約13億8000万トンのCO₂排出を削減できると試算していた。

今回その主要部分が撤廃されたため、従来の政策を続けた場合と比べれば、米国の発電部門からのCO₂削減は進みにくくなると考えられる。

ただし、これは「13億8000万トンがそのまま追加排出される」という意味ではない。実際の排出量は今後の発電所の建設・廃止、燃料価格、電力需要、再生可能エネルギーの普及などによって変わる。

火力発電は本当に増える?

規制を撤廃したからといって、すぐに石炭火力が大量復活するとは限らない。

米エネルギー情報局(EIA)が2026年9月に公表した予測では、米国の発電量に占める石炭の割合は2025年の17%から、2026年に16%、2027年には14%へ低下すると見込まれている。

逆に太陽光は7%から8%、9%へ増える予測である。

石炭火力はCO₂規制だけを理由に減っているわけではなく、天然ガスや太陽光などとの発電コスト競争にもさらされているためである。

つまり今回の政策変更は、

「石炭火力を増やすことを直接命令する政策」ではなく、「石炭やガス火力を続けようとする企業をCO₂規制で止める力を弱める政策」

と考える方が分かりやすい。

特に今後、AIデータセンターや製造業などによって米国の電力需要が増えた場合、天然ガス火力などを新設・維持する選択肢を取りやすくなる可能性がある。

電気代は安くなる?

トランプ政権は、今回の規制撤廃によって発電会社がCO₂回収設備などに支払う費用を減らせるため、電力供給を増やし、最終的には家庭や企業の負担軽減につながると主張している。

EPAは今回の措置による節約効果を最大約3100億ドルと試算している。

ただし、「今回の規制撤廃によって家庭の電気代が確実に下がる」とまでは言えない。

米国の電気料金は、天然ガス価格、発電所の建設費、送電網への投資、データセンターによる需要増など、多くの要因によって決まるためである。

今回確実に変わるのは、家庭の電気代そのものというより、火力発電会社がCO₂削減のために負担する規制コストが大幅に軽くなることである。

その代わり、米国の発電部門では従来予定されていたCO₂削減が進まなくなる可能性が高まった。

つまり今回の方針転換は、単純に「環境を捨てた」というより、

「CO₂削減を優先して火力発電に厳しい規制をかける政策から、電力の供給量・安定性・コストを優先して火力発電を使いやすくする政策へ転換した」

と見るのが実態に近い。

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