ロボットにも「ChatGPT級の転換点」が来る? 中国Spirit AIが2027年の飛躍を予測

何が起きた?
中国のロボットAI企業Spirit AI(千尋智能)が、2027年半ばごろにロボットの「頭脳」が大きな節目を迎える可能性があるとの見方を示した。
共同創業者でチーフサイエンティストの高陽氏は、ロボットに自然な言葉で指示すると、その意味を理解し、必要な動きを組み合わせて作業を試みられる段階を「GPT-3級の節目」と表現している。
ただし、これは「2027年に何でもできる家庭用ロボットが発売される」という意味ではない。Spirit AI自身も、家庭で本格的に使えるようになるには少なくとも8年程度かかるとの見通しを示している。
一方、工場ではすでに実用化が始まっている。同社によると、車輪型の人型ロボット「Moz1」が中国の電池大手CATLや通販大手JD.comの生産現場に数十台規模で導入されている。
簡単にいうと
今のロボットは、体はかなり進歩したものの、「何をすればいいのかを自分で考える頭脳」がまだ弱い。
たとえば従来の工場ロボットなら、
「この部品をつかむ」
「この位置まで動かす」
「ここに差し込む」
といった動きを、人間があらかじめ細かく決めておくことが多い。
Spirit AIが目指しているのは、人間が単に「部屋を片付けて」と言うだけで、ロボット自身が周囲を見て、
「これはゴミだから捨てよう」
「これは食器だから食洗機へ入れよう」
「途中で新しいゴミが増えたので、それも片付けよう」
というように、必要な作業を自分で組み立てる仕組みである。
つまり、ChatGPTが細かな文章作成ルールを毎回プログラムしなくても質問に応じられるように、ロボットにも幅広い仕事に対応できる共通の「頭脳」を持たせようとしている。
生成AIとロボットAIは何が違う?
ChatGPTのような生成AIは、大まかにいえば、
言葉や画像を受け取る → 内容を考える → 言葉や画像を返す
という仕組みである。
ロボットAIは、それに現実世界での行動が加わる。
カメラなどで周囲を見る → 状況を理解する → 動きを考える → 腕や手を動かす → 結果を確認する
という作業を繰り返さなければならない。
Spirit AIは「VLA」と呼ばれる技術を使っている。これはVision(見る)、Language(言葉を理解する)、Action(動く)を一つにつなげる考え方である。
さらに、これから自分が動いたら周囲がどう変化するかを予測する「世界モデル」も組み合わせている。
文章なら少し間違えても書き直せば済む。しかしロボットが現実世界で間違えれば、物を落としたり、人や設備にぶつかったりする。
そのため、生成AI以上に「考える能力」と「正確に動く能力」の両方が必要になる。
工場ではすでに使えるの?
限定された仕事なら、かなり実用段階に近づいている。
Reutersによると、Spirit AIのロボットは、物の配置などをある程度整えたリビング環境で、簡単な作業について約90%の成功率に達している。
CATLの電池工場では、Mozシリーズが電池パックの検査に使うコネクターを差し込む作業などを担当している。
Spirit AI側の発表では、この特定の挿入作業について成功率は99%を超えているという。
ここで重要なのは、「99%の確率で何でもできる」という意味ではないことだ。
工場では、作業する場所や部品、目的をある程度限定できる。その条件の中で、従来なら人間が細かく調整していた作業をAIロボットがこなせるようになってきた、という話である。
なぜ家庭用ロボットはまだ遠い?
最大の違いは、家庭では何が起こるか予測しにくいことである。
工場なら、部品が来る場所や作業する順番をある程度決められる。
しかし家庭では、昨日までなかったバッグが床に置いてあったり、食器の位置が毎日違ったり、子どもやペットが突然目の前を横切ったりする。
ロボットはそのたびに状況を判断し直さなければならない。
さらに大きな問題が、学習に使うデータである。
ChatGPTのようなAIには、インターネット上に大量の文章が存在する。
ところが、
「冷蔵庫をどう開けるか」
「柔らかいケーブルをどう持つか」
「包丁をどう動かすか」
といった人間の身体動作のデータは、それほど大量には存在しない。
Spirit AIはこの問題を解決するため、中国各地で約1,000人の契約スタッフから実際の人間の動作データを集めている。
冷蔵庫を開けたり、野菜を切ったり、物をつかんだりする動きをセンサーで記録し、ロボットに学習させているという。
2027年に「ロボット版ChatGPT」が完成するわけではない
今回の発言で最も注意したいのがここである。
高氏が言う「GPT-3級の節目」は、ロボットの性能を測る正式な基準ではない。
生成AIでGPT-3前後に起きたような、大きな能力向上がロボットAIにも起こるのではないかというたとえである。
しかも、あくまでSpirit AI側の予測だ。
同社は、今後1~2年はまず工場への導入が進み、その後に店舗やホテルなど比較的整理された場所へ広がり、家庭への普及は最後になるとの見方を示している。
つまり2027年に注目すべきなのは、家に万能ロボットがやって来るかどうかではない。
「ロボットに細かな動きを一つずつ教える時代」から、「やってほしいことを言葉で伝える時代」へ移れるのか。
そこが今回の予測の本当のポイントである。
情報源
- Reuters「Chinese ‘robot brain’ startup sees ChatGPT-style breakthrough as soon as next year」
- Spirit AI「Hardcore Long-Horizon Tasks × Adorably Approachable! Spirit AI Steals the Spotlight at WAIC as Moz2 Wins Over the Crowd on Its Public Debut」
- Spirit AI「A World First! Embodied AI Robots Achieve Large-Scale Deployment in CATL Battery Production Line」