「覚えていないが、圧力はなかったと思う」で疑惑は晴れた? 簗農水相“道路予算カット”を国交省が調査

何が起きた?
簗和生農林水産相が、2026年2月の衆院選で自身を支援しなかった栃木県内の自治体について、「道路予算は大幅にカットした」と発言したとされる問題で、国土交通省が10月6日に調査結果を公表した。
国交省の調査では、簗氏が2026年度の予算配分が決まる前の2月中旬ごろ、那須烏山市と那珂川町の予算について、当時の佐々木紀国交副大臣や黒田昌義官房長側に問い合わせていたことが確認された。
一方、予算を減らすような働きかけがあったかについて、問い合わせに対応した側は「細かいメモがなく、はっきり覚えていない」としながら、「働きかけや圧力を受けたことはなかったと思う」と説明したという。
国交省はこの証言などをもとに、簗氏による予算削減の働きかけや圧力は確認されなかったとしている。
しかし、調査によって疑惑のすべてが解消されたわけではない。
簡単にいうと
今回確認されたのは、「簗氏が予算を削れと命令した証拠」ではない。
一方で、「簗氏と道路予算はまったく無関係だった」という話でもなくなった。
簗氏は選挙直後、まだ2026年度の配分額が決まっていない段階で、自身を支援しなかった首長がいる那須烏山市と那珂川町の予算について国交省側へ問い合わせていた。
その後、両自治体の一部の道路関係交付金は実際に大幅減となり、さらに簗氏本人が5月の自民党関係者の会合で「道路予算は大幅にカットした」と受け取れる発言をしていた。
つまり問題は、「圧力があったことが証明された」ではなく、複数の事実が並んでいるのに、国交省の「圧力はなかった」という結論をどこまで信用できるのかという点に移っている。
なぜ「圧力はなかった」で終わらない?
今回の調査で特に注目されているのが、国交省側の証言内容である。
問い合わせの詳細については「細かいメモがないため、はっきり覚えていない」という。
それにもかかわらず、「本人もはっきり覚えていないくらいなので、働きかけや圧力を受けたことはなかったと思う」という説明になっている。
もちろん、担当者が「圧力を受けた記憶はない」と証言したこと自体は重要である。
しかし、「詳細を覚えていない」という証言から、「政治的な働きかけは絶対になかった」とまで証明できるわけではない。
当時どのような言葉で問い合わせが行われたのか、予算額について具体的に何を話したのか、前後に別のやり取りがあったのかを示す詳細な記録は、公表された範囲では確認できていない。
さらに10月6日午前の国交相会見では、国交省がまだ事実関係を精査している段階にもかかわらず、井林辰憲国交相が「発言のような形で道路予算が削減された事実はない」と説明している。
記者からも、調査がまとまる前になぜその判断ができるのかという質問が出た。
その後に公表された調査で、実際には簗氏から予算決定前の問い合わせがあったことが明らかになった。
実際の予算は「支援した側は増、しなかった側は減」だった
もう一つ無視できないのが、実際の交付額である。
2026年2月の衆院選栃木3区では、自民党公認の簗氏と、自民党籍を持ちながら無所属で立候補した渡辺真太朗氏が争った。
このため、単純な「自民党支持自治体」と「反自民自治体」の比較ではない。正確には、首長が「簗氏を支援したか」「対立候補の渡辺氏を支援したか」の違いである。
国土交通省の社会資本整備総合交付金のうち、幹線道路やバイパスなどに使われる予算を2025年度と2026年度で比較すると、簗氏を支援した首長がいる那須町は約34%増、那須塩原市は約11%増となった。
一方、渡辺氏を支援した首長がいる那須烏山市は約63%減、那珂川町は約54%減、大田原市は約23%減となった。
つまり、この比較では簗氏支援側の2自治体はいずれも増額、対立候補支援側の3自治体はいずれも減額という結果になっている。
ただし、これだけで政治的な報復だったと断定することはできない。
国交省は、交付額は自治体からの要望、事業の進み具合、工事の段階、重点配分の対象かどうかなどによって毎年変化すると説明している。
また、那須烏山市と那珂川町についても、市町自身が実施する事業だけでなく、その地域内で栃木県が実施する道路事業まで合計すると、2026年度の配分総額は前年より約2割増えているとしている。
したがって「その自治体に投入される道路予算すべてが削られた」という理解も正しくない。
問題になっているのは、簗氏が具体的に言及した市町の一部の道路関係予算で大幅減が起きており、その増減が選挙での支援関係と一致しているという事実である。
現政権や自民党が国交省に圧力をかけた可能性は?
現時点で、国交省の調査結果を自民党や官邸が変更させた、担当者に「圧力はなかった」と答えるよう求めた、といった事実を裏付ける証拠は確認されていない。
メール、文書、録音、関係者の具体的証言なども公になっていない。
したがって、「現政権から圧力をかけられて国交省がこう答えた」と事実として書くことはできない。
一方で、今回公表されたものは国交省自身による事実関係の精査であり、第三者による独立調査で政治的圧力の有無まで検証したというものでもない。
しかも、問い合わせを受けた側自身が「細かいメモがなく、はっきり覚えていない」としている。
そのため、現政権から調査への圧力があったことは確認できない一方、「外部からの影響は絶対になかった」と今回の調査だけで証明されたわけでもない。
ここは「疑惑が確認された」と「疑惑が否定された」のどちらにも寄せすぎず、未確認として扱う必要がある。
何がまだ分からない?
最大の疑問は、簗氏自身の発言と国交省の説明がなぜこれほど食い違っているのかである。
簗氏は5月の会合で、那須烏山市と那珂川町の道路予算について「大幅にカットした」と受け取れる発言をしていた。
問題化した後は、予算削減を働きかけた事実はないと否定し、「党員の集まりで高揚感があり、少し誇張した表現をしてしまった」と説明している。
しかし国交省の調査によって、簗氏が何の関与もしていなかったのではなく、予算決定前にまさにその2自治体の配分額について問い合わせていたことは確認された。
一方、実際に配分を操作するよう求めた証拠は確認されていない。
現時点で言えるのはここまでである。
「政治的報復による予算カットだった」と断定できる証拠はない。
しかし、「単なる誇張発言であり、予算配分とは何の関係もなかった」と言い切れるほど疑問が解消されたわけでもない。
今後、当時のメールや面会記録、電話記録、予算配分を決めた具体的な過程などが明らかになるかが、疑惑を判断するうえで重要になる。