ロシア版Google「Yandex」のデータセンターが相次ぎ攻撃 AIや民間サービスに何が起きた?

ロシア版Google「Yandex」のデータセンターが相次ぎ攻撃 AIや民間サービスに何が起きた?
ロシア版Google「Yandex」のデータセンターが相次ぎ攻撃 AIや民間サービスに何が起きた?

何が起きた?

2026年10月8日から11日にかけて、ロシアの巨大IT企業「Yandex(ヤンデックス)」が運営する複数のデータセンターが、ドローン攻撃によって相次いで被害を受けた。

10月8日にはリャザン州サソボの施設で火災が発生し、数万台のサーバーを収容するデータセンターが停止した。

翌9日にはカルーガ州の施設が攻撃され、一部設備が使用不能となった。さらに11日には、ウラジーミル州のデータセンターが全面停止したとYandexが発表した。

ロイター通信によると、これらの攻撃によってYandexの一部サービスが利用できなくなり、同社のクラウドサービスに依存する企業にも障害が広がった。

特に注目されているのは、最初に攻撃されたサソボの施設に、YandexのAI開発に使用するスーパーコンピューター3基のうち2基が設置されていたことである。

ただし、スーパーコンピューター自体が破壊されたかどうかは確認されていない。

簡単にいうと

Yandexは、ロシア国内でGoogleのような検索サービスを提供するだけでなく、地図、ネット通販、配車、生成AI、クラウドサービスなどを幅広く運営する巨大IT企業である。

日本で例えるなら、Google、Yahoo! JAPAN、楽天、Uber、Amazonの一部機能を一つの企業グループが提供しているような存在だ。

今回攻撃されたデータセンターは、そうしたサービスを動かす大量のコンピューターを収容する施設である。

データセンターは、いわばインターネットサービスの裏側にある巨大な機械室だ。そこで検索結果を処理し、利用者のデータを保存し、AIの計算などを行っている。

しかもYandexは、自社のサービスだけでなく、他の企業にもコンピューターやデータ保存機能を貸し出している。

そのため、Yandexの施設が停止すると、同社とは直接関係のない企業のウェブサイトやアプリまで利用できなくなる可能性がある。

今回の攻撃は、単にロシアのAI開発施設が狙われたというだけでなく、ロシア社会のデジタル基盤そのものが被害を受けた事件なのである。

Yandexはどれほど大きな会社なのか?

Yandexは1997年に検索エンジンを開始し、ロシア最大級のIT企業へと成長した。

日本では知名度が低いが、ロシア国内ではGoogle以上に利用されている検索サービスである。

ウェブ利用統計を提供するStatcounterによると、2026年9月のロシア国内の検索エンジン利用シェアは、Yandexが70.33%、Googleが28.12%だった。

つまり、ロシアで検索エンジンを使う際には、Yandexが圧倒的に大きな存在となっている。

さらに、その事業は検索だけにとどまらない。

主なサービスには、次のようなものがある。

  • Yandex Search:Googleのような検索サービス
  • Yandex Maps:Googleマップのような地図・経路案内
  • Yandex Go:Uberのようなタクシー配車サービス
  • Yandex Market:楽天市場やAmazonのようなネット通販
  • Yandex Music:音楽配信サービス
  • Yandex Disk:オンラインでファイルを保存するサービス
  • Alice AI:ChatGPTのような生成AI
  • Yandex Cloud:企業向けのクラウドサービス

ロシアでは、目的地を調べる、タクシーを呼ぶ、買い物をする、音楽を聴くといった日常生活のさまざまな場面でYandexのサービスが使われている。

さらに、AI開発にも力を入れている。

Yandexは独自の生成AI「Alice AI」を開発しており、2026年9月の公式発表では、検索結果にAIが回答を表示する機能について、月間利用者が4,900万人を超えていると説明した。

独自のAIモデルも開発しており、その一部を外部の研究者や開発者が利用できる形で公開している。

このようにYandexは、外国のAIサービスを利用するだけの会社ではなく、ロシア国内で独自のAI技術を開発する主要企業でもある。

なお、Yandexはロシア政府そのものが運営する国家機関ではない。

もともとはオランダに登記された企業グループだったが、ロシアのウクライナ侵攻後に事業再編が進み、2024年7月にはロシア事業の売却が完了した。

旧親会社側は現在、Nebius Groupという別企業になっている。

AIだけでなく、なぜ一般企業のサービスまで止まったのか?

今回の攻撃で特に問題となっているのが、Yandex Cloudへの影響である。

クラウドサービスとは、企業が自前で大量のコンピューターを所有する代わりに、外部企業が管理する設備を借りてシステムを動かす仕組みだ。

例えば、ある企業がスマートフォン向けアプリを提供する場合、利用者のアカウント情報やアプリの動作に必要なデータを、Yandex Cloudに保存していることがある。

この場合、Yandexのデータセンターが停止すると、その企業のアプリも利用できなくなる可能性がある。

実際、ロイター通信が取材したロシアの出会い系アプリ「Pulse」では、約8,000人の利用者がサービスにアクセスできなくなった。

運営者によると、Yandex Cloudに保存していたバックアップ用のデータベースにもアクセスできず、他のクラウドサービスへ復旧させる作業が難航していた。

ただし、データが完全に消失したと確認されたわけではない。

このほか、ロシア鉄道のウェブサイト、不動産情報サイト、電子書籍サイト、サッカークラブのウェブサイトなどでも技術的な問題が報告された。

こうした障害から分かるのは、巨大IT企業のデータセンターが、数多くの事業者に共有される重要な設備になっているということである。

もう一つの問題は、AI開発への影響だ。

サソボの施設には、YandexがAIモデルの開発に使用するスーパーコンピューター3基のうち2基が設置されていた。

スーパーコンピューターは、AIに大量のデータを学習させるなど、通常のコンピューターでは時間がかかる膨大な計算を行うための設備である。

仮にこれらが深刻な損傷を受けていれば、YandexのAI開発計画にも影響が出る可能性がある。

しかし、設備の損傷状況は確認されておらず、ロシアのAI開発能力が大幅に失われたと判断することはできない。

また、AIの学習に使う設備が停止したとしても、それだけで既存のAIモデルが消失するわけではない。

なぜ戦争でデータセンターが狙われるのか?

従来、戦争で経済インフラへの攻撃といえば、発電所、製油所、工場、港湾などが注目されてきた。

しかし、現代ではデータセンターも経済活動を支える重要な施設となっている。

銀行、交通、通販、通信、行政サービスなど、多くの分野でインターネットを通じたデータ処理が必要だからだ。

データセンターを停止させることは、その設備を利用する多数の企業やサービスに影響を及ぼす可能性がある。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアがウクライナ国内のデータセンターや通信インフラを攻撃していることを指摘し、同様の方法で対応していると説明した。

10月9日には、カルーガ州のデータセンターへの攻撃について、ロシア側への報復措置だと認めている。

ただし、データセンターへの攻撃が国際法上認められるかどうかは別の問題である。

赤十字国際委員会によると、民間目的だけに使用されるデータセンターは原則として攻撃から保護される。

軍事作戦への実質的な貢献など、一定の条件を満たす設備は軍事目標になり得るが、その場合も民間人への被害などを考慮しなければならない。

今回攻撃された施設が、実際にどの程度ロシア軍の活動を支えていたのかは明らかになっていない。

単にロシアの経済やAI産業にとって重要だからという理由だけで、合法的な攻撃対象になるわけではないのである。

日本への影響はあるのか?

現時点で、日本の一般利用者への直接的な影響は限定的と考えられる。

その理由は、日本ではYandexのサービスがほとんど利用されていないためだ。

Statcounterによると、2026年9月の日本におけるYandexの検索エンジン利用シェアは約0.40%だった。

ロシアでは約70%を占める一方、日本では主要な検索サービスではない。

また、Google検索やChatGPTなど、日本で広く使われているサービスがYandexのデータセンターに依存しているわけでもない。

今回の攻撃によって、日本の主要な検索サービスや生成AIが停止したという事実も確認されていない。

一方、間接的な影響は考えられる。

例えば、ロシア国内に取引先を持つ日本企業では、その取引先がYandex Cloudを利用していれば、システム障害によって業務に遅れが生じる可能性がある。

また、ロシア向けに商品やサービスを提供し、Yandex検索からの集客に依存している企業にも、障害が長期化した場合は影響が及ぶ可能性がある。

ただし、こうした日本企業への具体的な被害は確認されていない。

今回の事件で重要なのは、ロシア国内の問題だけではなく、現代社会が少数の巨大IT企業の設備に大きく依存していることが改めて浮き彫りになった点である。

データセンターの被害が広がれば、AI開発だけでなく、企業活動や日常生活にも障害が連鎖する。

今後は、停止した施設がどこまで復旧できるのか、AI用スーパーコンピューターに損傷があったのか、保存されていたデータが失われたのかが焦点となる。

今回の攻撃は、戦争における重要なインフラが、物理的な工場や発電所だけでなく、社会のデータを処理する施設にも広がっていることを示す出来事である。

情報源