裏金議員は再選したのに、なぜ7割が「登用反対」? 高市人気で見える選挙の不思議

何が起きた?
時事通信が2026年9月11~14日に行った世論調査で、自民党派閥の「裏金事件」に関係した議員を閣僚や党役員に起用することについて、68.6%が「反対」と答えた。「賛成」は11.8%だった。
自民党支持層だけで見ても、反対が53.6%と過半数を占めている。
一方、2月の衆院選では状況がまるで違って見えた。
裏金事件に関係した候補44人のうち、実に42人が当選。2024年の衆院選では46人中18人しか当選できなかったため、大幅な復活だった。
そして9月17日に発足した第2次高市改造内閣では、政治資金収支報告書に不記載があった関芳弘氏と簗和生氏が実際に初入閣した。
「選挙で国民が選んだのに、なぜ今になって登用に反対するのか?」
一見すると、かなり不思議な結果である。
簡単にいうと
これは、
「裏金議員を許したので投票した」
のではなく、
「高市政権を続けたいので自民党に投票した」
人が相当数いたと考えると、かなり理解しやすくなる。
たとえば、学校で「次の生徒会長を誰にするか」を選べず、「AチームかBチームか」だけを選ぶ選挙だったとする。
Aチームのリーダーは非常に人気がある。しかし、チームの中には問題を起こしたメンバーもいる。
それでも、
「リーダーには続けてほしいからAチームに入れる」
という投票はあり得る。
だから選挙後に、
「では、その問題を起こした人を副会長にしますか?」
と聞かれれば、
「それは反対」
という人が出てもおかしくない。
2026年の衆院選では、これに近い現象が起きた可能性がある。
そもそも「裏金問題」とは何だった?
問題になったのは、自民党派閥の政治資金パーティーを巡る金の処理だった。
議員がパーティー券を販売し、ノルマを超えた分の一部が派閥から議員側に戻されていた。いわゆる「キックバック」である。
最大の問題は、この還流された資金の一部が政治資金収支報告書に記載されていなかったことだった。
政治資金は、本来「どこから入り、どこへ出たのか」を公開して国民が確認できる仕組みである。
その帳簿に載っていない金が長期間、組織的に存在していたため「裏金」と呼ばれるようになった。
ただし、「裏金議員」と呼ばれた全員が、その金を私生活に使ったと確認されたわけではない。また、全員が刑事責任を問われたわけでもない。
一方、自民党自身も問題を重大視し、2024年に39人を党紀処分した。党の説明でも、長期間にわたり大規模・継続的な不記載があったとしている。
2026年の衆院選では42人が当選した
ところが2026年2月の衆院選では、裏金事件に関係した44候補のうち42人が当選した。
内訳は、小選挙区で33人、比例復活で4人、比例単独で5人だった。
2024年に落選していた下村博文氏なども国会へ戻った。
これだけを見ると、
「有権者はもう裏金問題を気にしていない」
とも見える。
しかし、この選挙にはもう一つ非常に大きな要素があった。
高市早苗首相の人気である。
自民党より「高市内閣」の方がはるかに人気だった
衆院選直前の2026年2月1日に公表されたJNN世論調査では、高市内閣の支持率は69.9%だった。
これに対して、自民党の支持率は34.7%。
ほぼ2倍の差がある。
選挙後のFNN調査でも、高市内閣支持率は72.0%だったのに対し、自民党支持率は39.4%だった。
つまり当時、
「自民党そのものはそこまで好きではないが、高市政権は支持する」
という層がかなり存在していたことがうかがえる。
もちろん、これだけで「自民党の大勝はすべて高市人気のおかげ」と断定することはできない。物価高対策や減税などの政策、野党側の状況、各選挙区の候補者事情なども投票に影響する。
それでも、内閣支持率と政党支持率の大きな差を見る限り、2026年衆院選では高市首相への支持が自民党候補全体への強い追い風になったと考えるのが自然である。
「裏金議員に投票した」=「裏金を許した」ではない
選挙では、一つの問題だけについて投票するわけではない。
ある有権者が、
「裏金問題はよくない」
と思っていたとしても、
「高市政権には続いてほしい」
「経済政策はこちらの方がいい」
「相手候補には投票したくない」
と考えれば、自民党候補に投票することはある。
しかも高市首相本人に投票できるのは、高市氏の選挙区の有権者だけである。
全国の有権者が「高市政権を支持する」という意思を選挙で示そうとすれば、実際には地元の自民党候補へ票を入れることになる。
その候補が裏金事件に関係していたとしても、
「裏金問題まで肯定した」
とは限らない。
ここが大きなポイントである。
さらに、42人全員を地元有権者が直接選んだわけではない
「国民が裏金議員を選んだ」という表現にも少し注意が必要だ。
42人のうち、小選挙区で勝ったのは33人。
残りは比例復活4人と比例単独5人だった。
比例代表では有権者は基本的に政党へ投票するため、「この人物を国会議員にしたい」と個別に選んだ票とは意味が違う。
また小選挙区でも、当選に過半数の得票は必要ない。
候補者が3人、4人といれば、3~4割程度の票でも最多得票なら当選できる。
したがって、
「裏金議員が当選した=その地域の過半数が裏金問題を許した」
とも限らない。
「議員として当選」と「大臣にする」も別の話
今回の世論調査が聞いているのは、
「裏金議員を国会議員にしてよいか」
ではない。
「閣僚や党役員に起用してよいか」
である。
ここにはかなり大きな違いがある。
有権者が、
「選挙に勝った以上、国会議員として活動するのは構わない」
と思いながら、
「しかし大臣や党幹部という重要ポストに戻すのは早い」
と考えることは十分に可能だ。
実際、自民党内でも2026年2月の選挙後、「選挙で当選したことで全てが終わったと考えるべきではない」という趣旨の発言が出ていた。
一方で、「選挙という国民の審判を受けたのだから、みそぎは済んだ」という考え方も存在する。
今回の68.6%という数字は、後者の考え方が国民全体ではそれほど広く共有されていないことを示している。
高市人気と「裏金議員への評価」は別だった可能性が高い
結局、2026年衆院選の結果と今回の世論調査は、必ずしも矛盾していない。
2月には、
「高市政権を続けてほしい」
という強い追い風の中で自民党が大勝し、その恩恵を裏金事件に関係した候補も受けた。
しかし9月になって、
「その人たちを大臣や党幹部に戻してよいか」
と個別に聞かれると、多くの人が「それは違う」と答えた。
つまり2026年衆院選を、
「裏金議員42人が国民から許された選挙」
とだけ見ると実態を見誤る。
むしろ、
「高市政権への支持が強かったため、裏金問題への不満を抱えたまま自民党に投票した人もいた」
と考えた方が、選挙結果と今回の「登用反対68.6%」を無理なく説明できる。
そして今回の人事で実際に不記載議員が閣僚へ復帰したことで、「選挙で当選すれば政治的な責任はどこまでリセットされるのか」という問題が、改めて問われることになった。