サウジ、フーシ派に「2週間停戦」を打診か 石油輸出の“非常口”が東西から圧迫

何が起きた?
サウジアラビアが、オマーンを仲介役としてイエメンのフーシ派に「2週間の停戦」を提案したとの報道が出ている。
レバノン紙アル・アフバールが9月17日、関係筋の話として報じた。停戦期間中に直接協議を行い、人道問題などについて話し合ったうえで、より包括的な合意を目指す内容だという。
ただし、サウジ政府は現時点で、この「2週間」という具体的な停戦案を公式には発表していない。そのため、停戦提案そのものはまだ関係筋情報として見る必要がある。
一方、その背景にあるサウジの苦しい状況は、複数の報道で確認されている。
サウジでは9月11日のドローン攻撃により、国内を東西に横断する主要石油パイプラインのポンプ施設2カ所が損傷した。
さらにイエメンではフーシ派が急速に進撃し、紅海沿岸のモカやドゥバブ、バブ・エル・マンデブ海峡に位置するペリム島などを掌握した。
サウジは今、石油を世界へ送り出す東側と西側の両方で圧力を受けている。
簡単にいうと
サウジの石油輸出には、大きく分けて「正面玄関」と「非常口」があると考えると分かりやすい。
正面玄関は、ペルシャ湾からホルムズ海峡を通るルートだ。
ところが現在は中東での戦闘によってホルムズ海峡を通る船が激減している。9月16日に確認された商船の通過は3隻まで落ち込んだ。
そこで重要になったのが「非常口」にあたる東西パイプラインだ。
サウジ東部の油田から原油を約1200キロ離れた紅海側のヤンブーまで送り、ホルムズ海峡を通らず輸出できる。
ところが、その非常口まで攻撃されて止まってしまった。
しかもヤンブーからアジア方面へ船を出す場合、その先にはフーシ派が勢力を拡大しているバブ・エル・マンデブ海峡がある。
つまりサウジは、
東ではホルムズ海峡、西ではフーシ派
という二重の問題に直面している。
パイプラインが止まると、どれほど深刻なの?
かなり大きな問題になり得る。
東西パイプラインは最近、1日400万~500万バレル程度の原油を運んでいたとされる。これは世界の石油供給量の約4~5%に相当する規模だ。
Reutersが9月13日に業界関係者から得た情報では、パイプライン停止時点でヤンブーにあった輸出可能な原油在庫は、通常の輸出を続ければ約5~7日分だった。
そのため、長期間パイプラインが止まれば、単にサウジ国内の問題ではなく、世界の原油供給そのものに影響する可能性がある。
ただし「あと5~7日でサウジの石油輸出が止まる」という意味ではない。
サウジはオマーン沖などでタンカーからタンカーへ原油を積み替える方法を使い、別ルートでの輸出を増やしている。
また米エネルギー長官は、パイプラインが数日以内に一部再開する可能性にも言及している。
実際、この代替策が明らかになると、供給への懸念がやや後退し、9月17日の原油価格は約3%下落した。
それでも修復時期については情報が分かれており、完全復旧まで数週間かかる可能性も残っている。
なぜペリム島がそんなに重要なの?
ペリム島は小さな島だが、場所が極めて重要だ。
紅海とアデン湾を結ぶ「バブ・エル・マンデブ海峡」の中にある。
この海峡を抜ければ、その先にはインド洋があり、アジア方面へ向かうことができる。
逆方向に進めば紅海を北上し、スエズ運河を通ってヨーロッパへ向かえる。
世界の貿易にとって重要な海上交通のボトルネックだ。
フーシ派は今回、ペリム島だけでなく、周辺の紅海沿岸や島々にも勢力を広げた。
ただし、ここは注意が必要だ。
フーシ派がバブ・エル・マンデブ海峡を完全に封鎖したわけではない。
9月16日にも21隻の船が海峡を通過している。
問題なのは、フーシ派が海峡周辺から船舶に圧力をかけたり、ミサイルやドローンによる攻撃を行ったりする能力を高めたことだ。
船が実際に通れるかどうかだけでなく、「攻撃されるかもしれない」と船会社が判断すれば、航路変更や保険料上昇につながる。
なぜサウジは停戦を求めているのか
ここからは、「2週間の停戦案」が事実だった場合の背景を考える必要がある。
サウジは長年、イエメン政府側を支援し、フーシ派と対立してきた。
ところが今回の戦闘では、サウジが支援する勢力が紅海沿岸で急速に後退した。
Reutersの取材では、反フーシ派勢力の内部対立や指揮系統の弱さに加え、約10万人規模ともされるフーシ派部隊の集結を十分に把握できていなかったことが指摘されている。
サウジは英国、フランス、パキスタン、エジプトなどにも支援を求めているが、現時点で大規模な軍事介入につながる動きは確認されていない。
米国も情報面などではサウジを支援しているものの、フーシ派を地上から押し戻すため直接参戦する姿勢は示していない。
そのためサウジにとっては、
戦争を続けてフーシ派を押し戻す
だけではなく、
停戦によって石油施設や航路への攻撃を止める
という選択肢の重要性が高まっている。
今回の停戦報道が本当なら、単なる和平外交というより、急速に悪化した軍事・エネルギー情勢を受けた危機管理という側面もありそうだ。
「サウジの石油輸出が止まる」はまだ早い
今回の状況は深刻だが、「サウジが石油を輸出できなくなった」と考えるのは正確ではない。
ホルムズ海峡も完全に閉鎖されたわけではなく、東西パイプラインも再開の可能性がある。
オマーン経由の迂回輸出も始まっている。
バブ・エル・マンデブ海峡も船舶の通航自体は続いている。
ただ、これまでサウジが持っていた、
「ホルムズが危なくても紅海から出せばいい」
という安全策が大きく揺らいでいるのは確かだ。
今後の最大の焦点は、東西パイプラインがどの程度早く復旧するのか、そしてサウジとフーシ派の停戦交渉が実際に始まるのかだ。
停戦が成立すれば原油供給への不安はかなり和らぐ可能性がある。
逆に交渉が失敗し、パイプラインの停止と紅海での戦闘が長引けば、世界の原油価格や燃料価格にも再び強い上昇圧力がかかる可能性がある。
情報源
- Reuters「Saudi pipeline outage threatens loss of 4% of global oil supply」
- Reuters「Houthi blitz leaves Saudi Arabia exposed, Iran emboldened」
- Reuters「Number of ships transiting Strait of Hormuz falls to three on Wednesday, data shows」
- Reuters「Oil falls 3% to one-week low as supply disruption fears ease」
- AP「Saudis seek allies’ help as missile defenses run low in fight with Houthis, officials say」
- Al-Akhbar「عرض سعودي عاجل لـأنصار الله: هدنة لأسبوعين مع حوار واتفاق」