「自動運転は人間より10倍安全?」Waymoの事故データが再注目、保険の仕組みまで変わる可能性

何が起きた?
Google系の自動運転会社Waymoについて、「人間が運転する車より約10倍安全ではないか」という話が、9月18日にRedditで再び注目を集めた。
話の元になっているのは新しい研究ではない。Waymoと再保険大手Swiss Reが2024年12月に公表した、**完全自動運転2530万マイル(約4070万km)**の保険データ分析である。
この研究では、人間が運転する場合と比べてWaymoは、
対物賠償請求が88%少なく、人身傷害賠償請求が92%少なかった。
2530万マイルの走行でWaymoに発生した請求は、対物9件、人身傷害2件。Swiss Reの人間ドライバーのデータから計算すると、同じ距離では対物78件、人身傷害26件程度が予想された。
ただし、「10倍安全」という数字そのものを研究が示したわけではない。
88%減や92%減という結果をもとに、後から「およそ10倍」と表現した記事が広まったものである。
簡単にいうと
自動運転を「絶対に事故を起こさない車」と考えると分かりにくい。
実際には、
100点満点の完璧なAIと人間を比べているのではなく、現実の道路を走る平均的な人間とWaymoを比べている。
人間は眠くなる。スマートフォンに気を取られることもある。酒を飲んで運転する人もいるし、判断を誤ったり、急いでスピードを出したりもする。
自動運転には別の弱点があるが、少なくとも「疲れる」「酔う」「イライラする」「よそ見する」といった人間特有の問題はない。
その結果、一定の地域・条件では、Waymoの事故率が人間よりかなり低くなっているというのが現在までに集まってきたデータである。
「10倍安全」と言い切っていいの?
ここは注意が必要である。
Swiss Reの研究が示したのは、事故全体が10分の1だったという単純な結果ではない。
測定したのは保険の賠償請求であり、
- 対物賠償請求が88%減
- 人身傷害賠償請求が92%減
という二つの数字である。
さらにWaymoが走っているのは、同社がサービスを展開している特定の都市や地域である。
人間側についても、Waymoとまったく同じ道路を、同じ時間帯、同じ天候、同じ交通量で走らせた実験ではない。
したがって、
「あらゆる道路・あらゆる状況でWaymoは人間の10倍安全」
とまでは言えない。
一方で、「Waymo自身に都合のいい研究なのではないか」という疑問については、その後かなり重要なデータが出ている。
別の研究でも「人間より事故が少ない」
2026年7月、米国の道路安全研究機関IIHSが、Waymoの約5000万マイルの無人走行を独自に分析した。
こちらでは、人間なら通常警察へ届け出る程度の事故に条件をそろえて比較したところ、Waymoの事故率は人間より68%低かった。
さらに、
負傷事故は81%少なく、単独事故は85%少なかった。
Swiss Reの約9割減より差は小さいが、「Waymoの事故率が人間より低い」という方向では一致している。
重要なのは、こちらがWaymoとSwiss Reの共同研究とは別の分析であることだ。
そのため現時点では、「一つの研究だけが極端な数字を出している」という状況ではなくなっている。
走行距離が増えても数字は崩れていない
Waymo自身が2026年6月に公表した最新集計では、完全無人運転の走行距離は**2億2060万マイル(約3億5500万km)**まで増えている。
同社によると、同じ地域を走る人間と比較して、
重傷・死亡につながる事故は94%少ない。
また、
エアバッグが作動する事故は82%少なく、何らかの負傷を伴う事故も82%少ない
としている。
こちらはWaymo自身による分析なので、その点は割り引いて見る必要がある。
それでも、数千万マイルだった段階だけでなく、2億マイルを超えても大幅な差が確認されていることは注目に値する。
なぜ今またこの話が注目されている?
今回Redditで古いデータが再び投稿された直接の理由までは確認できない。
しかし、タイミングとしては興味深い。
Waymoは9月15日、日本交通や配車アプリGOと協力し、2027年に東京都内で完全無人のタクシーサービス開始を目指すことを明らかにした。
つまり日本でも、「自動運転車は安全なのか」が遠い外国の話ではなくなりつつある。
さらに翌16日には、保険大手AllianzとWaymoが欧州で提携すると発表した。
提携内容には、自動運転車向けの保険だけでなく、事故処理、安全性研究、責任に関する仕組みまで含まれている。
自動運転が実験技術ではなく、実際に保険を掛けて商売として走らせる段階へ入ってきたのである。
将来は「自分で運転すると保険料が高い」?
Redditで特に盛り上がっているのが、この疑問である。
現在の自動車保険では、
年齢、事故歴、車種、年間走行距離などから、主に運転する人間のリスクを計算する。
しかし完全自動運転では、乗客は運転していない。
すると事故のリスクを決める中心が、
「誰が運転するか」から「どの自動運転システムを使っているか」へ移る
可能性がある。
事故原因についても、ドライバーの操作ミスではなく、車両メーカーや自動運転システム、サービス運営会社の責任が問題になる場面が増える。
WaymoとAllianzが今まさに自動運転向けの保険や事故処理の仕組みを作ろうとしているのは、このためである。
もし将来、
「自動運転中の事故率は極めて低い」
というデータがさらに積み上がれば、
自動運転に任せる人は保険料が安く、自分で運転したい人は高くなる
という料金体系が登場しても不思議ではない。
ただし、これはまだ将来の可能性である。
「人間が運転すると保険料が高くなる」と保険会社が決定したわけではない。
日本でも意外と近い話になってきた
自動運転をめぐる議論は、以前なら「いつか実現する未来の車」という話だった。
しかしWaymoはすでに米国で大量の無人走行を行い、2027年には東京で完全無人タクシーを始める計画まで進めている。
そこで重要になるのは、
「AIは運転できるのか」ではなく、「人間より安全なら、誰に運転させるべきなのか」
という問題である。
2530万マイルの保険データだけを見て「10倍安全」と断定するのは早い。
それでも、その後の約5000万マイルの独立研究や2億マイルを超えるデータまで含めると、少なくともWaymoについては、人間より事故率が低いという証拠がかなり積み上がってきている。
自動運転が普及したとき、最後に高価な存在になるのは自動運転車ではなく、
「それでも自分でハンドルを握りたい人」なのかもしれない。
これはまだ予想にすぎないが、保険会社が自動運転を現実のリスクとして扱い始めた現在、以前ほど突飛な未来ではなくなっている。
情報源
- Waymo「New Swiss Re study: Waymo is safer than even the most advanced human-driven vehicles」
- IIHS「Waymo’s driverless cars crash less often than people」
- IIHS「Rise of the machines: crash experiences of highly automated vehicles and human drivers」
- Waymo「From the road — June 24, 2026」
- Reuters「Waymo, Japanese partners target driverless taxi service in Tokyo in 2027」
- Allianz Partners「Allianz Partners and Waymo Announce Strategic Collaboration for Autonomous Vehicle Insurance and Safety Research in Europe」