1世帯1万ドルでも反対続く 巨大データセンターはなぜそこまで嫌われる?

1世帯1万ドルでも反対続く 巨大データセンターはなぜそこまで嫌われる?
1世帯1万ドルでも反対続く 巨大データセンターはなぜそこまで嫌われる?

何が起きた?

米ペンシルベニア州Hazle Townshipで計画されている巨大データセンター「Project Hazelnut」をめぐり、開発会社NorthPoint Developmentが、対象となる各世帯に1万ドルを支払うという異例の地域支援策を打ち出している。

計画では最大15棟のデータセンターを建設する。NorthPointは約4,500世帯を想定して4,500万ドルの住民向け基金を設けるほか、地域団体向けに1,500万ドル、自治体へ年間700万ドルを15年間支払うとしており、支援策全体は1億6,500万ドルに上る。

それでも地元では反対が続いている。

自治体は2025年に計画をいったん拒否し、2026年6月にはデータセンターに対応した新たなゾーニング規則を整備するため、180日間の開発停止措置を決定した。

簡単にいうと

開発会社は、

「巨大施設を受け入れてもらう代わりに、住民や地域へかなり大きなお金を還元する」

という提案をしている。

1万ドルは小さな金額ではない。しかし住民側から見れば、お金を受け取れるのは一度でも、データセンターが建てば騒音や景観、電力需要などの影響は何十年も続く可能性がある。

そのため、

「1万ドルをもらえるか」ではなく、「そもそも巨大データセンターを自宅の近くに建ててほしいか」

という問題になっている。

なお、1万ドルを受け取るために個々の住民が賛成署名をしなければならない、という条件が公式に確認されているわけではない。

NorthPointの説明では、計画が承認され、最初のデータセンター棟に使用許可が出た段階で対象世帯へ支払うとしている。

なぜそこまで嫌われる?

住民から特に懸念されているのが、騒音、電力、水、景観、住宅価値への影響である。

データセンターでは大量のコンピューターが24時間稼働し、その熱を逃がすための冷却設備やファンも動き続ける。非常用発電機も必要になるため、住宅地に近ければ騒音を心配する住民が出る。

さらに大きな問題が電力だ。

AIの普及によってデータセンターの電力需要は急拡大しており、新しい発電設備や送電線が必要になれば、その費用が一般家庭の電気料金に転嫁されるのではないかという不安がある。

実際、ペンシルベニア州は2026年8月、データセンター事業者に対して、施設のために必要となる発電・送電・配電設備などの費用を事業者自身に負担させる新たなルールを導入した。

つまり、電力料金への懸念はネット上だけの話ではなく、州政府が制度で対応するほど大きな問題になっている。

水を大量に奪う計画なの?

このProject Hazelnutについては、少し事情が違う。

NorthPointは、冷却に地域の飲料水や井戸水を使わず、下水処理場から出る処理済みの水を再利用する計画を示している。

水利用に関する申請資料でも、暑い5月から9月を中心に処理済み排水を蒸発冷却へ利用する計画が確認できる。

ただし、「水をまったく使わない」という意味ではない。

申請では消費的水利用量を1日0.067百万ガロン、約6万7,000ガロンと見込んでいる。約25万リットルに相当する。

そのため、この計画について正確にいうなら、

「地域の飲料水を大量に使う計画ではないが、冷却そのものには水を使う」

となる。

住宅価格は本当に下がる?

住民側からは、自宅の近くに巨大なデータセンターができれば住宅価格が下がるのではないか、という不安も出ている。

ただし、ここはまだ断定できない。

データセンター周辺の住宅価格については研究結果が一定しておらず、施設の近くで価格へのマイナス影響を確認した研究もあれば、地域全体では明確な下落を確認できなかった研究もある。

つまり、

「住民が住宅価格を心配している」のは事実だが、「データセンターができれば必ず住宅価格が大きく下がる」とまでは言えない。

立地や施設規模、騒音対策、地域経済への効果などによって結果が変わる可能性がある。

この地域だけの問題ではない

Project Hazelnutが注目されるのは、単なる米国の地方開発トラブルではないからだ。

Pew Research Centerが2026年7~8月に米国成人1万548人を対象に行った調査では、60%が自分の地域に新しいデータセンターができることについて「あまり快適ではない」または「まったく快適ではない」と回答した。

また、

環境に悪いと考える人は54%、
家庭のエネルギー料金に悪いと考える人は50%、
近隣住民の生活の質に悪いと考える人は49%だった。

2026年1月の調査と比べても、否定的な見方は大きく増えている。

AIやクラウドサービスを使う人が増えれば、それを動かす巨大なデータセンターも必要になる。

しかし、

「AIは使いたい。でも巨大な施設を自宅の近くには建ててほしくない」

という問題も同時に広がっている。

1世帯1万ドルという異例の提案は、その対立がどれほど大きくなっているかを象徴する出来事といえそうだ。

なお、Project Hazelnut自体については、現時点で特定のAI企業が利用する「AI専用データセンター」と確認されているわけではない。AI需要を背景に米国で巨大データセンター計画が相次いでいる中で起きている事例として見るのが正確である。

情報源