性的虐待を訴えた女性を実母が「嘘つき」と批判、共和党が選挙広告に利用――トランプも擁護した問題とは?

何が起きた?
2026年10月19日、米オハイオ州知事選挙で、民主党候補エイミー・アクトン氏の実母が娘を「嘘つき」と非難する選挙広告が登場し、大きな批判を呼んでいる。
広告を制作したのは、共和党候補ビベック・ラマスワミ氏の陣営である。約60秒の動画には、アクトン氏の実母ドナ・アーサー氏が登場し、娘は自分の過去について嘘をついているとして、知事に選ばないよう訴えた。
しかし、この親子には広告で語られていない重大な事情があった。
アクトン氏は12歳のとき、継父から性的虐待を受けたと訴えていた。その継父は強姦容疑で起訴されたが、裁判に出廷せず逃亡。母親は夫とともに州外へ移り、その後も結婚生活を続けたのである。
アクトン氏は、それ以来約48年間、母親と会っていないという。
こうした事情を持つ実母を選挙広告に起用したことに、民主党だけでなく共和党内部からも批判が噴出した。
一方、トランプ大統領は事情を説明された後も広告を擁護し、撤回を求める声には応じない姿勢を示している。
簡単にいうと
今回の問題は、単に親子の仲が悪いという話ではない。
幼少期に性的虐待を受けたと訴えた女性に対し、当時その訴えを否定し、起訴された継父との結婚生活を続けた母親を、政敵が攻撃広告に起用したのである。
母親は広告の中で、娘が幼少期にテントで暮らしたという話は嘘だと主張し、娘の信用性を否定した。
ただし、広告そのものが性的虐待の告発を直接否定しているわけではない。問題視されているのは、親子が絶縁した重大な背景を伏せ、母親の証言を使って娘の人物像を攻撃したことである。
ラマスワミ陣営は、この広告はアクトン氏の発言の信用性を問うものだと説明している。
実母は性的虐待の告発を否定し、起訴された夫と逃亡していた
事件の発端は1978年にさかのぼる。
当時12歳だったアクトン氏は、母親の再婚相手であるクレディス・アーサー氏から性的虐待を受けたと訴えた。
実父からの通報を受け、継父は同年7月に強姦容疑で逮捕され、9月には大陪審によって正式に起訴された。
継父は無罪を主張したが、10月の裁判所への出廷を拒み、所在が分からなくなった。裁判所は逮捕状を発付し、1981年にも新たな逮捕状が出されている。
実母は継父とともに州外へ移り、アクトン氏と弟の養育権を失った。その後も夫婦関係を維持し、継父は裁判を受けないまま2004年に死亡した。
なお、継父による性的虐待は刑事裁判で有罪認定されたわけではない。起訴と逃亡は記録で確認できるが、裁判で有罪・無罪が判断されることはなかった。
さらに重要なのは、実母が娘の性的虐待の訴えを以前から否定していたことである。
2020年、実母は米国の反中絶団体Operation Rescueのインタビューに応じ、娘が継父を性的虐待で告発したのは虚偽だったという主張を展開した。
同団体の記事には、母親が実父から1万ドルを借りて弁護士を雇い、事態が落ち着いて起訴が取り下げられるまで夫婦で別の場所に移るよう助言された、という説明も掲載されている。
つまり、今回の広告に登場した母親は、単に娘と疎遠になっていた人物ではない。
娘による性的虐待の告発を否定し、起訴された継父とともに暮らし続けた人物なのである。
母親の「娘は嘘つき」という主張に根拠はあるのか?
今回の広告について、米国のファクトチェック機関FactCheck.orgやPolitiFactも検証を行っている。
その結果、アクトン氏が以前から語っていた不安定な住環境や、継父に対する性的虐待の告発について、重要な部分を裏付ける記録が確認された。
特に広告で母親が否定した「テント生活」については、1978年の逮捕関係書類に継父の住所としてキャンプ場が記載されていた。
1982年の警察資料にも、キャンプ場の管理人が継父の居住歴を証言した記録がある。
これらはアクトン氏本人がテントで暮らした期間まで証明するものではないが、家族がキャンプ場で生活していたという説明と一致する資料である。
また、弟のフィリップ・スターンズ氏も姉の説明を支持している。
弟は、幼少期に自分も虐待を受けたが、姉は自分を守るために、さらにひどい虐待に耐えていたと証言した。
一方、母親による娘への非難を裏付ける独立した証拠は、今回確認された資料では示されていない。
このため、母親が実の娘について語っているという理由だけで、その証言を事実として扱うことはできない。
共和党内部からも批判、トランプは事情を知っても擁護
今回の広告に批判を表明したのは、民主党関係者だけではない。
共和党所属のオハイオ州知事マイク・デワイン氏も、10月22日に広告の撤回を求めた。
デワイン氏は、検察官時代に性的暴行の被害者たちと接してきた経験に言及し、継父の起訴や逃亡、親子の絶縁という背景を知れば、広告の問題はさらに深刻になるとの考えを示した。
ただし、デワイン氏はラマスワミ氏への選挙での支持を撤回していない。
こうした批判が広がる一方、トランプ大統領とJ・D・ヴァンス副大統領は広告を擁護した。
10月23日、記者がトランプ氏に対し、アクトン氏の継父が強姦容疑で起訴されたことや、約50年間母親と会っていない事情を説明した。
そのうえで広告への考えを変えるかと尋ねると、トランプ氏は「No(変えない)」と回答した。
親子が長年絶縁している点についても、「I don’t care(気にしない)」と述べている。
なお、トランプ氏自身は、作家E・ジーン・キャロル氏への性的虐待について民事裁判で責任を認定されており、500万ドルの賠償判決が確定している。
また、未成年者への性的虐待が問題となったエプスタイン事件をめぐっても、トランプ氏に対する性的暴行の申告を記録したFBI資料が2026年に公開された。ただし、この申告内容は独立した証拠によって裏付けられておらず、トランプ氏も不正行為を否定している。
こうした問題を抱えるトランプ氏が、アクトン氏の過去について説明を受けた後も、広告を支持し続けたことも注目されている。
広告は撤回されたのか?
ラマスワミ陣営は批判を受けても広告を撤回していない。
陣営は広告制作を認めた10月20日、テレビやインターネットでの宣伝に400万ドルを投入する計画を明らかにした。
広告が説得可能な有権者を対象としたテストで好反応を得たことが、展開の理由だと説明している。
ただし、広告の内容には変更が加えられた。
10月26日の地元公共放送の報道によると、当初60秒だった広告は30秒に短縮され、母親が娘のテント生活を否定する部分が削除された。
それでも、娘を「嘘つき」と呼ぶ発言は残されている。
共和党側は、児童期の虐待ではなく候補者の信用性を問う広告だと主張している。
しかし、母親が娘の性的虐待の告発を否定してきたという過去や、継父の起訴・逃亡という経緯まで消えるわけではない。
選挙広告で候補者の信用性を問うこと自体は、政治活動の一部である。
今回問われているのは、そのために約48年間絶縁していた母親を利用し、幼少期の性的虐待をめぐる重大な背景を有権者に知らせないまま、娘を攻撃することの妥当性である。
11月3日の州知事選を前に、広告の内容だけでなく、その制作と継続を判断した共和党陣営の対応も論争の対象となっている。
情報源
- FactCheck.org「Controversial Ohio Ad Calls Acton a ‘Liar,’ But Records Back Her Account of Childhood」
- PolitiFact「Abuse and estrangement: What Ramaswamy’s Ohio governor’s race ad with Amy Acton’s mom didn’t mention」
- Operation Rescue「Ohio Health Director’s Mother Comes Forward to Set the Record Straight About Daughter’s Troubled Past」
- The Statehouse News Bureau「GOP candidate for Ohio governor confirms ad featuring Democratic opponent’s mother is his」
- The Statehouse News Bureau「DeWine: Ramaswamy ad featuring Acton’s mother ‘deeply troubling’, but his endorsement stands」
- Roll Call Factba.se「Press Gaggle: Donald Trump Speaks to Reporters Before Marine One Departure – October 23, 2026」
- CBS News「Supreme Court declines to rehear Trump’s appeal in $5 million E. Jean Carroll case」
- AP通信「Justice Department publishes missing Epstein files involving uncorroborated claim about Trump」
- The Statehouse News Bureau「How Ramaswamy is refocusing message in his controversial ad in Ohio」