Anthropicは海賊版700万冊超をBitTorrentで取得 AI学習と違法入手は別問題に

何が起きた?
ソニー・ミュージック・パブリッシングやワーナー・チャペル・ミュージックなど35社が2026年8月28日にAnthropicを提訴したことで、同社が過去に海賊版書籍700万冊超をBitTorrentで取得していた問題が改めて注目されています。
これは今回初めて出てきた疑惑ではありません。2024年に作家らが起こした著作権訴訟「Bartz v. Anthropic」の裁判資料に、詳しい経緯が記録されています。今回の音楽出版社側の訴状も、その過去の裁判資料を引用しています。
裁判資料によると、Anthropic共同創業者のベンジャミン・マン氏は2021年6月、海賊版書籍サイト「Library Genesis(LibGen)」から少なくとも500万冊をBitTorrentで取得しました。さらに2022年7月には、「Pirate Library Mirror(PiLiMi)」から少なくとも200万冊を追加で取得したとされています。
簡単にいうと
ここで重要なのは、「AIに本を読ませたこと」と「その本をどこから手に入れたか」は別問題だということです。
たとえば本を分析して新しい研究に使うことが法律上認められる場合でも、だからといって、その本を海賊版サイトから無料で持ってきてよいことにはなりません。
実際にBartz訴訟で裁判所は、ClaudeなどのAIモデルを学習させるために書籍をコピーした行為については、強く変容的な利用だとしてフェアユースを認めました。
一方で、海賊版サイトから大量の本を取得し、将来さまざまな目的に使えるよう恒久的なデジタル図書館として保存していたことについては、同じフェアユースでは正当化できないと判断しました。
つまり、
AI学習そのもの → フェアユースと判断
海賊版の取得・保存 → 別問題として争点化
という整理です。
それで何が変わる?
この問題がAI業界に与えた大きな影響は、「何を学習したか」だけでなく、「学習データをどう入手したか」も問われることを明確にした点です。
仮に最終的な利用目的が合法と判断される場合でも、その前段階で著作物を違法に取得していれば、その取得行為まで自動的に合法になるわけではありません。
裁判所は、Anthropicが正規に購入した紙の本をデジタル化したケースについては、紙の本を裁断してデジタル版へ置き換えたことなどを踏まえ、フェアユースを認めました。その一方で、海賊版サイトから作ったライブラリーについては同じ扱いをしませんでした。
一般のClaude利用者が直ちに何か対応しなければならない問題ではありません。ただ、今後AI企業には、学習データについて「どこから入手したのか」を記録し、管理することがこれまで以上に求められそうです。
どうやって700万冊も集めた?
大きな役割を果たしたのが、ファイルを利用者同士で分散してやり取りする仕組みのBitTorrentです。
2025年7月のクラス認定に関する裁判所命令では、マン氏が2021年6月にBitTorrentを使い、LibGenの分散されたコピーから約500万冊を取得した経緯が記載されています。
さらに2022年には、Anthropic側がPiLiMiにある約700万冊の一覧と、すでに保有していたLibGen由来の約500万冊を比較し、重複しない約200万冊だけを追加で取得したとされています。
大まかには、
LibGenから約500万冊
+
PiLiMiから約200万冊
=
少なくとも約700万冊超
という流れです。
なお、BitTorrentという技術自体が違法なわけではありません。 正規に配布が認められたファイルをBitTorrentでやり取りすることもあります。
今回問題になったのは、裁判資料上、Anthropic側がLibGenやPiLiMiにある書籍が海賊版だと認識しながら取得していたとされた点です。
裁判所は最終的にどう判断した?
ここは少し注意が必要です。
Bartz訴訟で裁判所が、「Anthropicによる700万冊すべての扱いについて最終的な侵害責任を全面的に確定した」わけではありません。
2025年6月の判断では、AIモデルの学習利用についてはAnthropic側のフェアユースを認める一方、海賊版から作ったライブラリーについてはフェアユースによる免責を認めず、損害などをさらに争う余地を残しました。
その後、この訴訟は本格的な審理の前に和解へ進みました。2026年7月には、連邦地裁が15億ドル規模のクラスアクション和解を最終承認しています。裁判所資料では、和解対象作品は48万2460作品とされています。Anthropicは不正行為を認めずに和解しています。
今回の音楽出版社35社の訴訟では、この過去の700万冊問題が改めて持ち出されています。
原告側は、その中に自社が権利を持つ歌詞や楽譜を掲載した書籍も含まれていたと主張しており、「海賊版書籍の取得問題」と「Claudeによる歌詞利用問題」が新しい訴訟で結び付けられた形です。
ただし、どの楽曲が実際にどのように利用されたのか、今回の原告35社の権利作品がどこまでClaudeの学習や出力に使われたのかは、今後の裁判で具体的に争われることになります。
情報源
- 米カリフォルニア州北部地区連邦地裁「Bartz v. Anthropic — Order on Fair Use」
- 米カリフォルニア州北部地区連邦地裁「Bartz v. Anthropic — Order on Class Certification」
- 米カリフォルニア州北部地区連邦地裁「Bartz v. Anthropic — Final Approval of Class Action Settlement」
- Sony Music Publishing・Warner Chappell Music「Complaint and Demand for Jury Trial」
- Reuters「In landmark Anthropic settlement, judge rejects ‘windfall’ for lawyers」