オーストラリア、SNSの「おすすめ」を切れるように 政府が法制化へ

オーストラリア、SNSの「おすすめ」を切れるように 政府が法制化へ

何が起きた?

オーストラリア政府が、InstagramやTikTokなどのSNSに対し、利用者が「おすすめ表示」を使わない選択をできるようにする制度を法制化する方針です。

アニカ・ウェルズ通信相は2026年9月7日、政府が準備している「Digital Duty of Care(デジタル上の注意義務)」の草案を近く公表すると説明しました。

報道されている案では、SNS側が利用者に対して、「おすすめを使い続けるか」「自分がフォローしている相手の投稿を中心に見るか」を選べる仕組みを用意することが想定されています。

ただし、9月8日時点ではまだ法律は成立していません。政府がこれから草案を公表し、議会で内容が審議される段階です。

簡単にいうと

今のSNSは、スーパーで「自分が買い物かごに入れた商品」だけを見ているようで、実際には店側が「あなたはこれも好きですよね」と商品を次々に目の前へ置いてくる仕組みになっています。

TikTokで1本の動画を長めに見たり、Instagramで特定の投稿に「いいね」を押したりすると、その行動から興味を推測して、似た投稿が次々と表示されます。

これが一般に「おすすめアルゴリズム」と呼ばれている仕組みです。

オーストラリア政府が目指しているのは、店側に対して、

「おすすめはいりません。自分が選んだものだけ見ます」

と言えるようにすることです。

正確には「アルゴリズムそのものを完全にOFFにする」というより、利用履歴などを使ってSNS側が選ぶパーソナライズされたおすすめを拒否できるようにする制度と考えるのが近いでしょう。

それで何が変わる?

実現すれば、SNSを見る体験がかなり変わる可能性があります。

現在はフォローしている人が100人いても、その100人の投稿だけが表示されるとは限りません。SNS側が選んだ動画や投稿、知らないアカウントのコンテンツが大量に混ざります。

おすすめを切れば、より「自分がフォローすると決めた相手を見るSNS」に近づけられる可能性があります。

一方で、おすすめ機能には便利な面もあります。

知らなかった店を発見したり、自分の趣味に合う動画を見つけたり、小さなクリエイターの投稿が突然多くの人に届いたりするのもアルゴリズムのおかげです。

政府もおすすめ自体を禁止しようとしているわけではありません。

ウェルズ通信相は、おすすめを便利だと感じて使い続けたい人もいるとして、重要なのはSNS会社ではなく利用者が選べることだと説明しています。

なぜ「おすすめ」が問題になっている?

問題は、おすすめが必ずしも「利用者にとって良いもの」を選んでいるとは限らないことです。

SNS企業にとって重要なのは、利用者にできるだけ長くサービスを使ってもらうことです。

そのため、驚く動画、怒りを誘う投稿、極端な意見など、人が思わず見続けてしまう内容がおすすめされるのではないかという批判が以前からあります。

特に子どもについては、身体へのコンプレックス、いじめ、自傷行為などに関するコンテンツを一度見たことをきっかけに、似た内容が繰り返し推薦される危険が指摘されています。

オーストラリア政府が進める「Digital Duty of Care」は、この問題を利用者だけの自己責任にしない考え方です。

SNS企業にも、自社サービスでどんな危険が起こり得るのかを調べ、予測できる被害を減らすための対策を求めます。

政府は2026年5月に公表した制度案でも、オンラインサービスに対して「予測可能なオンライン上の被害」を防ぐため合理的な措置を取らせる方針を示していました。

最初から「おすすめOFF」にすべきという意見も

実はオーストラリアでは、さらに一歩踏み込んだ議論も起きています。

現在政府が示している方向は、

おすすめON → 嫌ならOFF

という「オプトアウト」です。

これに対して緑の党のサラ・ハンソン=ヤング上院議員は、

おすすめOFF → 使いたい人だけON

という「オプトイン」にすべきだと主張しています。

同議員は2026年4月、「Fix Our Feeds」法案を上院に提出しました。こちらもSNS利用者がアルゴリズムによるおすすめを拒否できるようにする内容で、9月8日時点では上院で審議中です。

オプトアウトとオプトインは似ているようで、大きな違いがあります。

多くの人はスマホやアプリの初期設定をそのまま使います。

そのため、「おすすめを切れるようにする」のと「おすすめを自分でONにしない限り使わない」のでは、実際におすすめを利用する人の割合が大きく変わる可能性があります。

ウェルズ通信相は9月7日の時点で、政府案を最終的にオプトイン方式にするのかオプトアウト方式にするのかについて、詳細は草案で示すとして明言していません。

つまり、具体的にどんな「OFFスイッチ」になるのかは、まだ確定していません

SNSは「見たいものを自分で選ぶ場所」に戻る?

この考え方自体はオーストラリアだけのものではありません。

EUではすでに「デジタルサービス法(DSA)」により、非常に大規模なオンラインサービスに対して、利用者のプロファイリングに基づかない推薦方法を提供することが求められています。

今回のオーストラリアの動きも、その延長線上にあります。

SNSが登場した当初は、「誰をフォローするかを自分で選び、その人の投稿を見る」という仕組みが中心でした。

現在はSNS側が、「あなたにはこれを見せた方がいい」と判断する部分が非常に大きくなっています。

おすすめには便利さがある一方、何を見るかという判断の一部を巨大IT企業に預けているとも言えます。

今回の議論で問われているのは、単なるSNSの設定変更ではありません。

「自分の画面に何を表示するかを、最終的に誰が決めるのか」

という問題です。

オーストラリアで制度が実際に成立し、利用者が簡単におすすめを切れる仕組みが広がれば、他の国でも同様の議論が強まる可能性があります。

ただし、どのSNSが対象になるのか、OFFにした場合に広告や検索結果までどう変わるのか、操作方法をどこまで分かりやすくするのかなど、重要な部分はまだ決まっていません。

まずは政府が公表する法案草案の具体的な内容が次の焦点になります。

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