100歳以上が初の10万人超 なぜ日本は長寿で、約88%が女性なのか

何が起きた?
全国の100歳以上の高齢者が、初めて10万人を超えた。
厚生労働省の集計によると、2026年9月1日時点で100歳以上は10万7,677人。前年より7,914人増え、56年連続で過去最多を更新した。
内訳は女性が9万4,298人、男性が1万3,379人で、女性が87.6%を占める。女性の最高齢は京都市の岸本ふよさん114歳、男性は熊本市の加藤光さん112歳である。
1963年に100歳以上の高齢者を集計した際には全国で153人しかいなかった。1981年に1,000人、1998年に1万人、2012年に5万人を超え、ついに10万人を突破したことになる。
これは単に高齢者人口が増えただけではない。日本では感染症対策、栄養状態、生活環境、医療などが長期的に改善し、90歳、100歳まで生きる人そのものが大幅に増えている。
簡単にいうと
日本では、かつて「100歳まで生きる人」は非常に珍しい存在だった。それが現在では、およそ1つの中規模都市に相当する人数が100歳以上になっている。
ただし、「最近になって急に人間の寿命が100歳まで伸びた」という話ではない。
感染症で若くして亡くなる人が減り、脳卒中や心臓病などへの対策が進み、医療を受けやすくなった結果、まず70歳、80歳まで生きる人が増えた。そして、その中から90歳、100歳まで生きる人も増えてきたのである。
日本の2025年の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳である。
OECDの比較でも、日本の平均寿命は84.1歳でOECD平均を約3年上回る。スイスの84.2歳、スペインの84.0歳などと並び、現在も日本は世界トップクラスの長寿国である。
「日本が必ず世界1位」というわけではないが、「世界でも特に長生きする国の一つ」であることは間違いない。
それで何が変わる?
100歳以上が増えることは、長寿化の成果である一方、社会にとっては大きな変化でもある。
年金や医療だけでなく、介護、認知症対策、住宅、交通、家族による介護負担などを、90歳や100歳まで生きることを前提に考える必要が出てくる。
特に重要なのが、寿命と健康寿命は同じではないという点である。
健康寿命とは「健康上の問題で日常生活を制限されずに暮らせる期間」を意味する。厚生労働省によると、2022年の健康寿命は男性72.57歳、女性75.45歳だった。
同じ年の平均寿命との差は男性で約9年、女性では約12年ある。
もちろん、この期間すべてを寝たきりで過ごすという意味ではない。しかし「長く生きられるようになった」ことと、「最後まで健康に自立して暮らせるようになった」ことは別問題なのである。
100歳以上が10万人を超えた今後は、単に平均寿命を伸ばすだけでなく、健康な状態で過ごせる期間をどこまで伸ばせるかがより重要になる。
なぜ日本人は世界でも長生きなのか?
「和食を食べているから」の一言では説明できない。
現在の日本の長寿は、何十年にもわたる複数の変化が重なった結果と考えられている。
実は1960年代の日本は、現在のような圧倒的な長寿国ではなかった。脳卒中、特に脳出血や胃がんによる死亡が多かったからである。
その後、高血圧対策や減塩が進み、脳卒中による死亡が大きく減少した。同時に、感染症による死亡も減った。
一方、日本では欧米諸国と比べて肥満が少なく、心筋梗塞などの虚血性心疾患による死亡率が低いという特徴もある。
食生活についても興味深い。
魚、大豆、野菜などを比較的多く取る日本型の食生活には健康面での利点があると考えられている一方、昔ながらの日本食には塩分が多いという大きな弱点があった。
戦後になると肉、卵、牛乳、乳製品などが増え、同時に極端に塩分の多い食生活が改善された。
つまり、日本人は単純に「昔ながらの和食を守ったから長生きになった」のではなく、
日本食の良い部分を残しながら、昔の日本食の問題点を減らした
ことも長寿につながった可能性がある。
さらに1961年には国民皆保険が実現し、多くの人が所得や職業にかかわらず医療を受けられる仕組みが整った。健診、高血圧の治療、感染症対策なども含めた公衆衛生と医療制度全体の改善が長寿を支えてきたと考えられている。
そして日本では、高齢になった後の寿命も長い。
OECDによると、2024年時点で日本の65歳女性の平均余命は24.9年で、OECD加盟国の中で最も長かった。
65歳まで生きた女性が、平均すると90歳近くまで生きる計算である。
100歳以上が急増している背景には、この「高齢になった後も長く生きる」という日本の特徴もある。
なぜ100歳以上の約88%が女性なのか?
今回の数字で特に目立つのが、100歳以上の約8人に7人が女性という男女差である。
平均寿命を見ると、2025年は男性81.35歳、女性87.33歳。その差は約6年である。
「6年しか違わないのに、100歳になるとどうしてここまで人数が違うのか」と思うかもしれない。
これは、毎年わずかずつ存在する男女の死亡率の差が、長い時間をかけて積み重なるためである。
仮に80歳、85歳、90歳と年齢を重ねるたびに男性のほうが少し高い割合で亡くなっていけば、100歳に到達するころには男女の人数に大きな差が生まれる。
では、なぜ女性のほうが長生きなのか。
現在の研究では、原因を一つに絞ることはできない。
まず考えられているのが生物学的な違いである。
一般的に女性はX染色体を2本、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持つ。X染色体には免疫などに関係する遺伝子が多く、2本のX染色体を持つことが女性の生存に何らかの有利な作用をもたらしている可能性が研究されている。
性ホルモンの違いも関係すると考えられている。エストロゲンは特に閉経前の女性について、血管や脂質代謝などに有利に働く可能性がある。
女性は男性より強い免疫反応を示す傾向もある。ただし、その反面、自己免疫疾患は女性に多い。
つまり「女性の体のほうが単純に丈夫」という話ではない。
さらに大きいのが生活習慣の違いである。
現在100歳前後の世代がまだ50代だった1980年の全国調査では、喫煙者の割合は男性62.9%、女性8.8%だった。
当時は男性の6割以上がたばこを吸っていたのに対し、女性では1割にも満たなかったのである。
同じ調査では、40歳時点の平均余命も喫煙者のほうが短かった。
たばこは肺がんだけでなく、心臓病、脳卒中、呼吸器疾患など多くの死亡原因と関係する。現在の100歳人口に大きな男女差がある背景として、こうした過去の喫煙習慣の差は無視できない。
飲酒量、危険な仕事への従事、事故、自殺などについても、歴史的には男性の死亡リスクが高かった。
したがって、100歳以上の約88%が女性なのは、
女性にある生物学的な生存上の優位性に、喫煙など生活習慣や社会環境の男女差が加わった結果
と考えるのが妥当である。
ただし、女性は長生きする一方で、高齢になってから慢性疾患や虚弱を抱える期間が長くなることも知られている。
「長寿=最後まで健康」というわけではない。
100歳以上が10万人を突破した今回のニュースは、日本が世界有数の長寿国になった成果を示すと同時に、これからは何歳まで生きるかだけでなく、どのような状態で長生きするのかを考える段階に入ったことも示している。
情報源
- FNNプライムオンライン「全国の100歳以上の高齢者、初の10万人超え 過去最多10万7677人」
- 厚生労働省「令和7年度百歳の高齢者へのお祝い状及び記念品の贈呈について」
- 厚生労働省「令和7(2025)年簡易生命表の概況」
- OECD「Health at a Glance 2025: Japan」
- OECD「Life expectancy: Pensions at a Glance 2025」
- European Journal of Clinical Nutrition「Why has Japan become the world’s most long-lived country: insights from a food and nutrition perspective」
- PMC「Sex as a biological variable in ageing: insights and perspectives on the molecular and cellular hallmarks」
- PMC「Life Expectancy among Japanese of Different Smoking Status in Japan: NIPPON DATA80」
- 厚生労働省「平均寿命と健康寿命」