円安対策の為替介入、1か月で15.4兆円 なぜ円はまた売られる?

円安対策の為替介入、1か月で15.4兆円 なぜ円はまた売られる?

何が起きた?

財務省は2026年8月28日、7月30日から8月26日までに行った為替介入の総額が、15兆3,993億円だったと発表しました。

これは、急激な円安を抑えるため、政府がドルなどの外貨を売り、その代わりに円を買う「円買い介入」です。

Reutersによると、約1か月間の介入額としては過去最大です。それでも円は再び1ドル=160円に近い水準まで下落しており、介入だけでは円安の流れを完全には止められていません。

ここで注意したいのは、8月28日に15兆円を一度に使ったわけではないことです。

7月30日から8月26日までに行った介入を合計すると15兆3,993億円だったという発表です。

簡単にいうと

為替介入は、政府が行う「巨大な両替」だと考えると分かりやすいです。

政府が保有するドルなどを大量に売り、その代わりに円を買います。市場で円を買う力を一気に増やして、急激な円安にブレーキをかけます。

ただし、これは坂道を下っている車に強くブレーキを踏むようなものです。

一時的に速度を落とすことはできますが、車を下へ押している坂道そのものがなくなるわけではありません。

現在の円安には、日米の金利差などの短期的な要因があります。

さらに長い目で見ると、日本の稼ぎ方が「国内で作った商品を輸出して稼ぐ」だけでなく、「海外への投資から利益を得る」形へ変化したことも、円相場を考えるうえで重要な背景になっています。

それで何が変わる?

円安が進むと、海外から同じ商品を買うために、より多くの円が必要になります。

日本は原油や天然ガスなどのエネルギーだけでなく、食料や原材料も多く輸入しているため、円安はガソリン、電気代、食品などの価格を押し上げる要因になります。

反対に円高方向へ戻れば、輸入価格を押し上げる力は弱まります。

ただし、為替が動いた翌日にスーパーの商品が安くなるわけではありません。企業の在庫や仕入れ契約があるため、実際の価格へ反映されるまでには時間がかかります。

一方、円安は海外で稼ぐ日本企業には有利に働く場合があります。海外で得たドルなどを円へ換算すると、円ベースの利益が大きくなるためです。

つまり円安は、単純に「日本にとって得」または「損」と言えるものではなく、立場によって影響が変わります。

なぜ15兆円介入しても円安は戻る?

短期的に最も分かりやすい要因の一つが、日本とアメリカの金利差です。

日本銀行の政策金利は現在1.0%程度。一方、米FRBの政策金利は3.5~3.75%です。米国の方が2.5ポイント以上高い状態が続いています。

たとえば、条件がほぼ同じ二つの預金があって、一方が年1%、もう一方が年3.5%なら、高い金利の方を選びたい人が増えるでしょう。

外国為替市場でも似た力が働きます。

円を売ってドルを買い、米国の金利が高い資産へ資金を移す動きが増えれば、円には下落圧力がかかります。

低金利の円で資金を調達し、より金利の高い通貨や資産で運用する「円キャリートレード」も円売りにつながることがあります。

そのため政府が大量に円を買っても、その後に市場参加者が再び円を売れば、円安方向へ戻る可能性があります。

ただし、「日米金利差だけで現在の円安をすべて説明できる」わけでもありません。

IMFは、ドル円相場は以前は日米の金利差とおおむね連動していたものの、2025年半ば以降はその関係から外れる動きが目立つようになったと分析しています。金利差などでは説明できない部分が、円の先物市場でのポジションと連動しているとも指摘しています。

さらに長期的には、日本の国際収支の構造も変化しています。

かつての日本は、国内で自動車や家電、機械などを生産して海外へ輸出し、大きな貿易黒字を稼ぐ国でした。

しかし日本企業の海外生産が増えたことなどから、現在は海外子会社や海外資産から得る投資収益が、経常黒字の中心になっています。

日銀の植田総裁も、日本企業の海外生産シフトなどによって、貿易収支がゼロ近辺または赤字となる一方、海外からの所得収支が経常黒字を支える構造へ変化したと説明しています。

2025年の国際収支を見ると、貿易収支は約0.85兆円の赤字でしたが、海外投資などから得る第一次所得収支は約41.6兆円の黒字でした。

日本が海外で稼げなくなったのではありません。

「海外での稼ぎ方」が変わったのです。

さらに、対外直接投資で得た利益のおよそ半分は、配当などとして日本へ送られず、海外で再投資されています。

海外で利益を得ても、その外貨をそのまま海外投資に使えば、「ドルを売って円を買う」という取引は発生しません。

ただし、ここも注意が必要です。

これだけで円安が起きていると断定することはできません。経産省自身も、これは為替や国際的な資金の流れから見た円安要因をめぐる議論の一つとして整理しています。

つまり、

短期:金利差や市場の資金移動が円売りを生む

長期:海外投資収益の比重が増え、昔の貿易黒字とは円への戻り方が変わった

と分けて考えるのが分かりやすいでしょう。

15兆円はどこから? これで円安は止まる?

「政府は15兆円もの税金を使ったの?」と思うかもしれませんが、そうではありません。

円買い介入では、政府の「外国為替資金特別会計」が保有する外貨資産を使います。

財務省によると、円買い介入では外貨建て債券などを売って外貨を用意し、それを外国為替市場で売って円を買います。

そこで得た円は、過去に外貨を購入するため発行した政府短期証券の償還などに使われます。

そのため今回の15兆3,993億円は、

「新たに税金15兆円を使った」

というより、

「政府が保有している外貨資産の一部を売り、円を買った」

と考える方が実態に近いです。

では、これで円安は止まるのでしょうか。

介入には、急激な円安を一時的に抑えたり、市場に「政府は急速な円安を放置しない」と示したりする効果があります。

しかし、介入そのものは日米の金利差を縮めませんし、日本の国際的な資金の流れを一度に変えるものでもありません。

そのため、介入だけで長期的な円安傾向を反転させるのは難しいと考えられます。実際、Reutersが8月に実施した調査でも、多くのエコノミストは最近の介入について効果が限定的だったとみています。

今後は、日銀が追加利上げを行うのか、米国の金利がどう動くのか、市場参加者の円に対する見方が変わるのかが重要になります。

今回の15兆3,993億円という過去最大規模の介入は、政府が急激な円安を強く警戒していることを示しています。

ただ、円相場を見るうえでは「次はいくら介入するのか」だけではなく、そもそも市場で円を売る力と買う力がどう変わるのかを見る必要があります。

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