AIは人間より未来予測がうまい? 人間全員を上回ったManticが2500万ドル調達

何が起きた?
未来の出来事を「何%の確率で起きるか」と予測するAIを開発する英Manticが9月18日、2500万ドル(約37億円規模)のシード資金を調達したと発表した。
注目されているのは、単に資金を集めたからではない。
2026年夏に行われたオンライン予測大会「Metaculus Cup」で、ManticのAIは政治、経済、文化など将来の出来事について確率を予測し、参加した人間全員より高い成績を記録した。
ただし大会全体で1位だったわけではない。Manticより成績が良かった「laertes」という別のAIが存在し、Manticは人間全員と、それ以外のAIの大半を上回った。
今回の資金調達はRadical Venturesが主導し、Microsoftの投資部門M12やThinking Machines Lab、Balderton Capitalなども参加した。
簡単にいうと
Manticは「未来を予言するAI」ではない。
やっていることは、未来に起きる出来事へ確率を付けることだ。
たとえば、
「ある国が年内に利下げする確率は70%」
「ある企業が半年以内に新製品を発売する確率は40%」
といった形で答える。
これは天気予報に近い。
天気予報も「明日は必ず雨」と断言するのではなく、「降水確率70%」と表現する。Manticも同じように、未来を一つに決め打ちするのではなく、現在分かっているニュースやデータから確率を計算する。
そして新しい情報が出れば、70%を60%や80%へ更新していく。
重要なのは、1回当てたかどうかではなく、何百回も予測したとき、その確率がどれくらい正しかったかで評価されることだ。
「70%」が正しかったか、どうやって採点するの?
未来予測では、普通の○×だけでは実力を測りにくい。
たとえばAさんが、
「この出来事は51%の確率で起きる」
と予測し、Bさんが、
「99%の確率で起きる」
と予測したとする。
実際に起きれば、どちらも結果だけ見れば「正解」だ。
しかし起きなかった場合、51%と予測したAさんより、99%と言い切ったBさんの方が大きな判断ミスをしている。
Metaculusでは、こうした違いも含めて評価する「log score」を基礎にした採点方法を使っている。
特に、99%と強く断言したのに外したような予測には大きなペナルティーが付く。
つまり優秀な予測者とは、単に当たりを増やす人ではない。
「自分がどれくらい自信を持つべきなのか」まで正しく判断できる人ということになる。
Manticが人間を上回ったというのも、この確率の付け方まで含めた成績である。
AIはどうやって未来を予測している?
Manticが巨大な独自AIを一から作っているわけではない。
同社はOpenAIなど他社が開発する最先端の大規模言語モデルを利用し、それを未来予測が得意になるよう専門化する方法を取っている。
過去に実際に出された予測問題をAIに解かせ、その後どうなったのかを使って成績を評価する。
Manticの研究では、約1万件の二択型予測問題を使ってAIを強化学習させている。
さらに、一つのAIだけに考えさせるより、複数の異なるAIの予測を組み合わせる方法も研究している。
考え方は、人間の専門家を何人も集めるのに近い。
同じ情報を見ても全員が同じ判断をするとは限らない。異なるAIが違った理由で間違えるなら、それらを組み合わせることで、一つのAIの思い込みに引っ張られにくくなる。
実際、Manticは夏のMetaculus Cupで、人間参加者の多数派とは違う確率を付け、それが結果的に正しかったケースがあったとしている。
「予測市場」とは違うの?
似ているが、仕組みはかなり違う。
Polymarketなどの予測市場では、多くの人が将来の出来事について売買し、その市場価格から「市場は70%くらいと考えている」と推定する。
つまり、
人間がお金を動かすことで確率ができる
のが予測市場だ。
Manticの場合は、
AI自身がニュースやデータを調べ、考えて確率を出す。
市場を作る必要がない。
そのため、世間ではほとんど注目されていない出来事でも、企業が「この事業に関係する出来事が半年以内に起こる確率を知りたい」と質問すれば、AIに予測させられる可能性がある。
「予測市場型AI」というより、ニュースや統計を調べて、未来の出来事が起きる確率を計算するAIと考えた方が近い。
なぜ企業がお金を出すの?
未来を100%当てられなくても、予測精度が少し高くなるだけで大きな価値が出るからだ。
たとえば企業が、
「原材料価格が大きく上昇する可能性は?」
「新しい関税が導入される可能性は?」
「競合企業が半年以内に新製品を出す可能性は?」
「ある地域で紛争が拡大する可能性は?」
といった判断をするとする。
予測が変われば、在庫、工場、投資、保険、採用などの判断も変わる。
1回だけなら大した違いではなくても、大企業や投資会社は年間に何千、何万という判断をしている。
そこで平均的な判断精度を少し改善できるなら、その経済的価値は大きくなる可能性がある。
Reutersによると、Manticには企業や政府機関から関心が集まり、すでに導入している組織もあるという。ただし顧客名は公表されていない。
特にヘッジファンドや取引会社からの関心が強いと、投資元のRadical Venturesは説明している。
もちろん、これはManticを使えば投資で勝てることが証明されたという意味ではない。
では「AIは人間より未来予測がうまい」の?
今回の大会について言えば、Manticは実際に人間参加者全員を上回った。
これはかなり重要な変化だ。
しかし、
「AIはすでにあらゆる未来を人間より正確に予測できる」
という意味ではない。
Metaculus Cupは58問の予測大会であり、あらゆる種類の未来を測定したわけではない。また、予測能力は使うAI、質問、予測期間、利用できる情報などによって大きく変わる。
今回分かったのはもっと限定的だ。
ニュースや統計を読みながら、数週間から数カ月先の出来事に確率を付ける分野では、予測専用に作られたAIが優秀な人間と競争し、実際の大会で人間全員を上回るところまで来た。
AIが「未来を見えるようになった」わけではない。
むしろ注目すべきなのは、AIが文章を書いたり画像を作ったりするだけでなく、
「分からない未来について、どれくらい自信を持つべきか」
まで計算する技術が急速に進み始めていることだ。
これが安定して人間を上回るようになれば、AIの使い道は「作業を代わりにする」だけでなく、企業や政府の意思決定そのものを助ける道具へ広がっていくことになる。