モバイルバッテリー事故は4年で約4倍 どこの国・メーカーが多い?公的データを調べた

何が起きた?
経済産業省は2026年8月31日、発火事故が急増しているモバイルバッテリーについて、安全規制を強化する方針を示しました。
現在のモバイルバッテリーは、事業者自身が国の安全基準への適合を確認する「○PSE」の対象です。
今回の見直しでは、これに加えて政府に登録された第三者機関による適合性検査を義務付け、「◇PSE」の対象へ変更する方針です。第三者による適合性検査には工場の検査も含まれます。
さらに、充放電の制御や電池セルの安全性に関する技術基準を強化し、製造工程での異物混入防止や品質管理も求めます。
2027年2月までに関係政省令を公布し、同年3月の施行を目指します。その後、1年間の経過措置を設ける予定です。
背景にあるのが、急増する事故です。
NITE(製品評価技術基盤機構)が2026年にまとめた事故情報では、2021~2025年の5年間に通知されたリチウムイオン電池搭載製品の事故は2,140件あり、製品別ではモバイルバッテリーが最も多くなっています。
モバイルバッテリーだけを見ると、次のように増えています。
| 年 | NITEに通知された事故件数 |
|---|---|
| 2021年 | 51件 |
| 2022年 | 56件 |
| 2023年 | 82件 |
| 2024年 | 125件 |
| 2025年 | 192件 |
| 5年間合計 | 506件 |
2025年の192件は、2021年の51件の約3.8倍です。
ただし、これは日本国内で起きたすべての事故を数えた数字ではなく、NITEに通知された製品事故情報の件数です。
またNITEの事故統計は、調査の進展や製品分類の見直しによって、過去に公表された数字から変わる場合があります。
簡単にいうと
これまでも、モバイルバッテリーは安全基準を満たし、PSEマークを表示しなければ販売できませんでした。
つまり、これまで何も検査していなかったわけではありません。
変わるのは、「事業者による確認が中心だった仕組み」に、政府に登録された第三者機関によるチェックを追加することです。
学校のテストにたとえるなら、自分で採点するだけではなく、外部の試験官にも答案と試験のやり方を確認してもらうようなものです。
モバイルバッテリーは2019年2月からPSEマークの表示が必要になりました。今回さらに規制を強めるのは、それでも事故が増え続けているためです。
経産省は2026年2月にも、モバイルバッテリー関係の81社に対し、
製造工程の管理
異物混入対策
品質管理体制
工場監査
セルや機器の安全設計
などを改めて確認するよう要請していました。
今回の制度変更は、こうした問題を事業者への要請だけではなく、法律上の規制として強化する動きといえます。
それで何が変わる?
消費者にとって分かりやすい変化は、本格適用後にモバイルバッテリーが**「○PSE」から「◇PSE」へ変わる予定**であることです。
ただし、「第三者検査」といっても、店頭に並ぶモバイルバッテリーを1台ずつ第三者機関が検査するという意味ではありません。
製品が基準に適合しているかに加え、工場を含む製造・品質管理体制などについて第三者による適合性検査を受ける仕組みです。
海外から製品を輸入して日本で販売する事業者にも、これまでより厳しい安全確認が求められることになります。
ただし、◇PSEになれば発火事故がゼロになるわけではありません。
NITEでは、真夏の車内への放置や、落下などで強い衝撃を加えたことによって発火した事故も確認しています。
つまり、
製品そのものの安全性を高める
ことと、
利用者が正しく使う
ことの両方が必要です。
事故を調べると何が見える?
興味深いのが、事故の原因です。
NITEは2015~2024年度に発生したモバイルバッテリー事故について、原因を「製品に起因する」「製品に起因しない」「原因不明」「調査中」に分けて分析しています。
モバイルバッテリーは焼損が激しく、原因そのものを特定できない事故も多くあります。
しかし、**原因が判明した事故に限ると、9割以上が「製品に起因する事故」**でした。
NITEが挙げている例では、電池セルに傷が付いた不良品が混入し、内部でショートして異常発熱した事故があります。
一方、利用者が製品を落とし、強い外力によって内部ショートした事故などは「製品に起因しない事故」に分類されています。
さらに購入経路を見ると、少し意外な結果になります。
2015~2024年度の事故のうち、購入経路が判明しているモバイルバッテリー429件では、
| 購入経路 | 事故件数 | 割合 |
|---|---|---|
| ネット通販 | 218件 | 約50.8% |
| 実店舗など | 211件 | 約49.2% |
| 合計 | 429件 | 100% |
となっています。
つまり、事故品の購入場所だけを見ると、ネット通販と実店舗などはほぼ半々です。
ところが、ネット通販で購入された218件について、製造・輸入事業者を追跡すると結果が変わります。
| 製造・輸入事業者 | 事故件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 特定できた | 151件 | 約69.3% |
| 特定できなかった | 67件 | 約30.7% |
| 合計 | 218件 | 100% |
ネット通販で購入されたモバイルバッテリー事故の約3件に1件で、製造・輸入事業者を特定できませんでした。
NITEによると、販売者の電話番号がなかったり、ネット通販を通じて意図せず海外事業者から直接購入する形になっていたりして、事故後に適切な対応や補償を受けられないケースもあります。
安全性だけではなく、
「事故が起きたとき、誰が責任を負う製品なのか」
も重要だということです。
どこの国・メーカーが多い?
では、一番気になる、
「結局、どこの国の、どのメーカーが多いのか?」
という疑問です。
NITEが公開している個別事故情報には「生産地」が記載されているものがあり、中国と記録されたモバイルバッテリー事故も確認できます。
しかし、ここから
「中国製は危険」
と結論づけることはできません。
本当に国別の安全性を比較するなら、
中国製100万台のうち何台で事故が起きたのか
日本製10万台のうち何台で事故が起きたのか
というように、流通・販売台数を分母にした事故率を計算する必要があります。
ところが、今回確認した公的資料には、国別の流通台数と事故件数を組み合わせて比較できるデータはありませんでした。
そのため、「中国製は日本製の○倍危険」といった国別ランキングを、公表資料から作ることはできません。
メーカーについても同じ問題があります。
公的資料でまとまった数字を確認できる例として、アンカー・ジャパンがあります。
経済産業相は2025年10月、アンカー・ジャパンが約52万台の**「モバイルバッテリー等」**をリコールし、その対象製品で火災などの重大製品事故が41件発生していたと説明しました。
ただし、この約52万台や41件にはモバイルバッテリーだけでなく、スピーカーなども含まれています。
また2025年6月には、Anker Power Bankなどについて、セル製造サプライヤーによる不適切な部材使用が見つかったとしてリコールが実施されました。
「Anker Power Bank」の対象台数は40万1,771台、「Anker MagGo Power Bank」は1万5,018台でした。
しかし、これらの数字から**「Ankerが他メーカーより危険」**とは判断できません。
メーカーごとに販売台数、製品数、販売期間、リコール対象の範囲が違うからです。
100万台売ったメーカーで10件事故が起きる場合と、1万台売ったメーカーで10件事故が起きる場合では、意味がまったく違います。
ところが、メーカーごとの販売台数と事故件数を同じ条件で比較できる公的統計は確認できませんでした。
そのため今回調べた範囲では、
「事故が最も多い国」
「事故が最も多いメーカー」
を公平に順位付けすることはできません。
むしろ公的データからはっきり見えてくるのは、別の問題です。
事故件数そのものが急増している。
原因が分かった事故では、製品側に原因があるケースが非常に多い。
ネット通販事故では、製造・輸入事業者すら追跡できない製品が約3割ある。
この3点です。
今回、経産省が単にPSEマークを残すだけでなく、製造工程の品質管理と第三者による適合性検査まで規制を強化しようとしている理由も、ここにあります。
「どこの国で作ったか」だけを見るより、
誰が製造・輸入した製品なのか
問題が起きたとき連絡できる事業者がいるか
リコール対象になっていないか
新制度の本格適用後は◇PSEの対象として適切な検査を受けているか
を見る方が、消費者にとって実際の安全確認には役立ちそうです。