沖縄知事選で飛び交った「デマ」 玉城デニー氏・古謝玄太氏をめぐる情報を検証

沖縄知事選で飛び交った「デマ」 玉城デニー氏・古謝玄太氏をめぐる情報を検証

何が起きた?

2026年9月13日の沖縄県知事選では、新人の古謝玄太氏が現職の玉城デニー氏らを破り、初当選した。

その選挙戦でもう一つ大きな問題になったのが、SNSで飛び交った誹謗中傷や真偽不明の情報である。

敗れた玉城氏は選挙後、「ひどいありさまが野放しになっている」とSNS上の状況を批判。玉城氏を装って「沖縄県を琉球県に改称する」「投票した人にはお礼の品を渡す」などと書いた偽メールについて、陣営は刑事告訴に向けた準備を進めている。

古謝氏側を対象にした偽画像も確認されており、問題のある情報は一方の候補だけに向けられたものではなかった。

ただし、ここで注意したい。

「両方にデマがあった」ことと、「両陣営が同じようにデマを流した」ことは別である。

匿名アカウントや第三者による投稿も多く、誰が作成したのか確認できないものを、それぞれの陣営による工作と決めつけることはできない。

簡単にいうと

今回の問題では、「デマ」という言葉で全部をひとまとめにすると実態が見えにくくなる。

たとえば候補者が掲げていない政策を書いた偽ポスターなら、ほぼ完全な捏造である。

一方で、本当にあった出来事を材料にしながら、確認されていない結論まで付け加えるケースもある。

今回の沖縄県知事選では、

存在しない事実を作るもの

AIなどで偽画像を作るもの

映像や発言の一部分だけを切り取るもの

本当の事実から確認されていない話まで膨らませるもの

が混在していた。

特に後者は厄介である。

「全部ウソ」ではないため、一見すると説得力があり、本当の部分と推測の部分を見分けにくいからである。

それで何が変わる?

これまでの選挙でも怪文書やデマは存在した。しかしSNSと生成AIによって、それを大量に、しかも本物らしく広げることが以前より簡単になった。

古謝氏について拡散した代表例が、「国益にかなう沖縄をつくる」と書かれた選挙ポスター風の画像である。

しかし古謝陣営が作成したものではなく、古謝氏の公式サイトにもこの文言はなかった。日本ファクトチェックセンターは、画像にAI生成を示すGoogleの「SynthID」が含まれていることも確認している。

玉城氏の場合は、さらに本人になりすました偽メールまで登場した。

候補者が言っていないことを、本人の写真や名前を使って「本人が言ったように見せる」ことが簡単になっている。

問題は単に候補者が嫌な思いをすることではない。

有権者が、候補者の本当の政策ではなく、第三者が作った偽物を見て投票先を判断する可能性が出てくることである。

実際にどんな情報が流れた?

「辺野古移設を決めたのは玉城デニー」は誤り

玉城氏について大きく拡散したものの一つが、

「辺野古移設を決めた張本人は玉城デニーだ」

という主張だった。

これは誤りである。

辺野古移設が政府方針として閣議決定された1999年、玉城氏は国会議員ではなかった。

その後、民主党政権が2010年に辺野古移設を改めて決定した際には衆院議員だったが、玉城氏は辺野古移設に反対していた。

それにもかかわらずSNSでは、「自分で辺野古移設を決めておいて、今は反対している」という話に作り替えられ、200万回以上表示された投稿もあった。

「極左暴力集団が玉城氏を全部支えている」も事実ではない

「警察も認めた。玉城氏は極左暴力集団に全部支えられている」

という主張も流れた。

沖縄県警が説明しているのは、基地反対・抗議活動をしている人の一部に極左暴力集団の構成員が確認されるということである。

県警が「極左暴力集団が玉城氏を支援している」と認定したわけではない。

琉球新報が中核派、革マル派、革労協に確認したところ、いずれも玉城氏への組織的支援を否定した。

「全部支えている」「警察も認めた」という説明は、確認された事実を大きく超えている。

「玉城氏が基地に反対するのは中国のため」という動画も拡散

さらに、玉城氏が米軍基地の整理縮小や辺野古新基地建設に反対している理由を「中国のため」とする動画も拡散し、XとInstagramを合わせて300万回以上表示された。

動画では玉城氏の中国訪問などの映像も使われたが、中国の意向を受けて基地政策を進めていることを示す根拠は確認されていない。

沖縄で基地の整理縮小が長く求められてきた背景には、広大な米軍専用施設の集中、航空機事故、騒音、米軍関係者による事件、環境汚染などがある。

別々の事実をつなぎ合わせ、「だから中国のためだ」と因果関係があるように見せるタイプの情報だった。

玉城氏になりすました偽メールも登場

選挙戦では、玉城氏本人が送ったように見せかけた偽メールも確認された。

そこには、

「沖縄県を琉球県に改称する」

「投票した人にはお礼の品を渡す」

などと書かれていた。

しかし玉城氏の選挙事務所は事実無根としており、陣営は刑事告訴に向けた準備を進めている。

これは発言の切り取りではなく、候補者が言っていない政策そのものを作り出したケースである。

玉城氏が工事車両にはねられる偽動画も

選挙終盤には、玉城氏に似た人物が工事車両にはねられるAI作成とみられる動画まで拡散した。

これは政策についてのデマではないが、実在する候補者を使った偽映像という意味で、生成AI時代の選挙が抱える新しい問題を示している。

本人が実際にはしていない行動や発言を、映像として簡単に作れるようになったためである。

古謝氏には「国益にかなう沖縄」という偽ポスター

一方、古謝氏を対象にした偽情報もあった。

代表例が、

「国益にかなう沖縄をつくる」

と書かれたポスター風画像である。

古謝陣営が作成したものではなく、古謝氏の公式サイトにもこの文言はなかった。

さらに画像からは、AI生成を示すGoogleの「SynthID」も確認されている。

陣営が発信していない言葉を本人の写真と組み合わせれば、それを見た人が本物の公約と勘違いする可能性がある。

玉城氏の公式Xから「裏取引」という未確認情報も

古謝氏側への問題ある情報は、匿名アカウントだけから出たわけではない。

玉城氏の公式Xから、自民党本部と知事選への立候補を取りやめた下地幹郎氏が「裏取引」をしたと断定する投稿が一時発信された。

下地氏が自民党本部と政策協定を結んだ後に出馬を取りやめ、古謝氏の支援に回ったこと自体は事実である。

しかし「裏取引」があったことを示す根拠は示されなかった。

玉城氏は「不確かな情報」だったとして投稿を削除し、「手違いだった」と陳謝している。

これは匿名のデマとは少し性質が違う。

候補者本人の公式アカウントから、十分に確認されていない情報が断定的に発信されてしまったケースである。

古謝氏と旧統一教会の関係はデマなのか?

古謝氏については、世界平和統一家庭連合、いわゆる旧統一教会との関係を指摘する投稿も広がった。

ここは「デマだった」と一括りにしてはいけない。

古謝氏が2022年の参院選で、旧統一教会関連の2団体から推薦証を受けていたこと自体は確認されている。

古謝氏本人が那覇市副市長だった2023年、市議会でこの問題について答弁している。

古謝氏によると、2022年参院選では130以上の団体から推薦状を受け、このうち約30団体分は本人が直接受け取った。それ以外は代理人が受領しており、旧統一教会関連団体の推薦状もその中に含まれていたという。

そのうえで古謝氏は、関連団体と自分が直接接触した事実はなく、組織的な選挙支援も受けていないと説明した。

さらに2026年の那覇市議会でもこの問題が取り上げられた。

那覇市は、古謝氏が「旧統一教会関連の2団体から推薦証を頂いていたことは事実」と説明していたことを明らかにする一方、「組織的な選挙応援を受けていない」「自身が組織と接触していない」という本人説明については、事柄の性質上、独自に裏付けを取ることは困難だとしている。

したがって、現時点で整理できるのはこうなる。

旧統一教会関連2団体から推薦証を受けていた
→ 確認されている。

古謝氏本人は直接接触していないと説明している
→ 本人の説明として確認されている。

組織的な選挙支援は受けていないと説明している
→ 本人の説明として確認されている。

その説明を第三者が完全に裏付けている
→ そこまでは確認できない。

反対に、

「古謝氏は旧統一教会の候補である」
「教団が古謝氏を組織的に動かしている」
「当選すれば沖縄が旧統一教会に支配される」

といったところまで事実と認定できる資料も確認できない。

つまりこの問題は、完全な作り話ではない。

実際に存在する接点を、どこまで意味のある関係と評価するかという問題なのである。

同じことは、古謝氏の決起集会をめぐる「1000円飲み放題」の問題にもいえる。

8月5日の集会では、ホテルが通常2420円としている飲み放題について、参加費1000円で提供されたと報じられ、ホテル側も値引きを認めている。

上脇博之・神戸学院大学教授は、公職選挙法違反の疑いがあるとして古謝氏らについて県警へ告発状を送った。

したがって、

「1000円の飲み放題があった」

「公選法違反の疑いを指摘され、告発された」

というところまでは確認できる。

しかし、

「古謝氏による買収が確定した」

「公選法違反が確定した」

と書けば、現時点では確認された事実を超えてしまう。

今回の選挙では、このように本当の事実の先に、まだ確認されていない結論を付け足す情報も目立った。

デマが玉城氏の敗因だったのか?

では、大量のSNS投稿によって玉城氏は敗れたのだろうか。

現時点で、そこまで断定できる証拠はない。

玉城氏への誤情報や中傷が大量に流れていたことと、それによって選挙結果が決まったことは別問題である。

共同通信の出口調査では、投票先を選ぶ際に最も重視した項目として「経済の活性化」を挙げた人が49.5%だった。

「基地問題」は20.9%だった。

経済を最重視した人の78.7%が古謝氏に投票しており、古謝氏は前回の知事選で玉城氏に投票した人の30.8%も取り込んでいる。

古謝氏の勝利には、経済政策への期待や玉城県政への評価、辺野古問題をめぐる有権者の意識の変化など、SNS以外の要因も大きく関係していると考えるのが自然である。

だからといって、デマを軽視してよいわけではない。

今回確認されたのは、存在しない政策を候補者のものとして見せる画像、本人になりすましたメール、別々の映像をつないで作ったストーリー、事実の一部分を確認されていない結論へ発展させる投稿などである。

これからの選挙で重要になるのは、「デマか本当か」を二択で考えるだけではない。

どこまでは確認された事実で、どこから先が解釈や推測なのか。

そこまで見分けなければならない時代になっている。

生成AIで偽物を作る速度に、候補者による訂正や報道機関のファクトチェックが追いつけるのか。

今回の沖縄県知事選は、その問題をはっきりと見せた選挙でもあった。

情報源