玉城デニー氏はなぜ敗れた? 沖縄県知事選で「基地」より「経済」が重くなった理由

何が起きた?
2026年9月13日に投開票された沖縄県知事選で、3選を目指した現職の玉城デニー氏が敗れ、前那覇市副市長の古謝玄太氏が初当選した。
古謝氏は42万3124票、玉城氏は27万6060票。約14万7000票という大差がついた。投票率も61.57%で、前回2022年の57.92%を上回った。
つまり今回の敗北は、単純に「玉城氏の支持者が選挙に行かなかった」だけでは説明できない。
出口調査を詳しく見ると、沖縄県知事選で有権者が重視するテーマそのものが変化し、さらに若い世代の玉城離れ、保守・中道票の集約、「オール沖縄」の長期的な弱体化が重なったことが見えてくる。
簡単にいうと
これまで沖縄県知事選では、米軍基地や辺野古移設が選挙の中心的な争点になってきた。
しかし今回、多くの有権者がより強く気にしていたのは、物価、所得、雇用、子育てなど身近な生活の問題だった。
共同通信の出口調査では、投票先を選ぶ際に最も重視したものとして「経済の活性化」を挙げた人が49.5%だったのに対し、「基地問題」は20.9%だった。
しかも経済を重視した人の78.7%が古謝氏に投票した。一方、基地問題を重視した人の72.9%は玉城氏を選んでいる。
つまり玉城氏は、自分が強い「基地問題」という争点では依然として支持されていた。
しかし、その基地問題を最優先する有権者そのものが少なくなっていたのである。
たとえるなら、得意科目では高得点を取ったものの、その科目の配点自体が小さくなってしまったような選挙だった。
それで何が変わる?
最大の変化は、沖縄県政と国との関係である。
玉城県政は米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対し、国と裁判でも争ってきた。
一方の古謝氏は辺野古移設を容認する立場であり、国と協調しながら経済振興やインフラ整備などを進める姿勢を示している。
そのため今後は、沖縄県と国が辺野古問題で正面から対立する構図が弱まり、経済振興や交通、所得向上などを前面に出す県政へ転換する可能性がある。
ただし、今回の結果を「沖縄県民が基地問題を気にしなくなった」と解釈するのは正確ではない。
共同通信の出口調査では、辺野古移設への賛成が50.2%、反対が43.8%だった一方、基地問題を最重要と考えた有権者の大多数は玉城氏を支持していた。
したがって今回起きたのは、基地問題そのものが消えたというより、基地問題よりも生活や経済を優先して投票する人が増えたと考えた方が実態に近い。
なぜ玉城氏から若い世代が離れた?
今回の選挙で特に重要なのが、年代別の投票行動である。
共同通信の出口調査では、古謝氏は60代以下のすべての年代で玉城氏を上回った。特に10~30代では古謝氏が70%以上を獲得している。
読売新聞の出口調査でも、18~39歳の古謝氏支持は玉城氏の3倍を超えた。70歳以上を除くすべての年代で古謝氏が上回っている。
つまり今回の古謝氏勝利を、単純な「従来型の保守票の勝利」と見ることはできない。
古謝氏は42歳。玉城氏は66歳で、すでに2期8年知事を務めている。
古謝氏は所得向上や経済成長、子育てなどを前面に出し、「これから沖縄をどう変えるか」を強調した。
一方の玉城氏は、8年間の実績と辺野古反対というこれまでの県政の延長線上で戦った。
その違いが、生活や将来の所得を重視する若い世代に大きく影響した可能性がある。
さらに重要なのは、共同通信の調査で、前回2022年の知事選で玉城氏に投票した人の30.8%が今回は古謝氏へ投票したことである。
古謝氏は従来の保守票だけを集めたのではない。
玉城氏自身の支持層の一部を奪ったのである。
一方、無党派層では玉城氏56.2%、古謝氏40.9%と、逆に玉城氏が上回っている。
このため、「沖縄県民全体が急激に右傾化した」と見るのも単純すぎる。
それよりも、若年層や経済重視層を中心に、これまで玉城氏を支持していた有権者の一部が古謝氏へ移ったと考える方が、出口調査とは整合する。
「オール沖縄」はなぜ勝てなくなった?
今回の敗北は突然起きたものではない。
玉城氏を支えてきた「オール沖縄」は、以前から選挙で苦戦するようになっていた。
2024年の沖縄県議選では、玉城県政を支える与党が24議席から20議席へ減少し、県議会の過半数を失った。反対する野党・中立勢力は28議席となった。
さらに2026年2月の衆院選では、沖縄県内4小選挙区すべてで自民党候補が勝利した。現行の小選挙区制度になってから、自民党が沖縄4選挙区すべてを制したのは初めてだった。
その延長線上で今回の知事選が行われている。
オール沖縄はもともと、辺野古移設反対という大きな一点を中心に、革新系だけでなく保守系の一部までまとめた政治勢力だった。
この仕組みは、基地問題が最大の争点である限り非常に強かった。
ところが有権者の関心が物価、所得、雇用、子育てなどへ広がれば、「辺野古反対」という一つの旗だけでは異なる政治的立場の人々をまとめにくくなる。
さらに玉城氏が知事になってから8年間、県は辺野古移設阻止を目指して国と争ってきたものの、工事そのものは進んでいる。
そのため、
「辺野古には反対だが、今回の知事選では経済を優先する」
あるいは、
「反対を続けても工事を止められないのではないか」
と考えた有権者が出てきた可能性もある。
ただし後者については、今回の出口調査だけから直接証明することはできないため、断定はできない。
選挙期間中には、玉城氏を巡る誤情報や偽メールなども問題になった。
こうした情報が選挙に何らかの影響を与えた可能性は否定できないが、何票を動かしたのかを示すデータは現在のところない。
約14万7000票という大差を、SNS上の偽情報だけで説明することは難しい。
今回の敗北について、現在確認できるデータから最も強く言えるのは、基地問題から経済・生活問題への争点の移動、若い世代の古謝支持、前回の玉城支持層の一部流出、そして以前から進んでいたオール沖縄の弱体化が重なったということである。
今回の選挙が示したのは、「沖縄県民が基地問題を忘れた」ということではない。
むしろ、基地問題を最大の争点にするだけでは沖縄県知事選に勝てない時代に入ったことの方が、大きな変化なのかもしれない。