サウスパークはトランプ氏をどう笑ってきた? 「壁」から「サウスアメリカ」まで11年の風刺

サウスパークはトランプ氏をどう笑ってきた? 「壁」から「サウスアメリカ」まで11年の風刺

何が起きた?

米国の人気風刺アニメ「サウスパーク」の共同制作者、トレイ・パーカー氏とマット・ストーン氏が2026年9月8日、番組名を「SOUTH AMERICA(サウスアメリカ)」に変更すると発表しました。

背景にあるのは、トランプ米大統領による一連の「アメリカ」を冠した地名への変更です。

トランプ氏は2025年の大統領復帰直後、「メキシコ湾」を「アメリカ湾」とする大統領令に署名。その後、2026年8月にはオンタリオ湖を「アメリカ湖」とする大統領令に署名し、最近ではニューメキシコ州を「ニューアメリカ」と呼ぶアイデアもSNSで示していました。

これに対して制作陣は、「AppleとGoogleの勇気と愛国心に触発された」と皮肉たっぷりに発表。

「地名がどんどんアメリカになるなら、South ParkもSouth Americaにしてしまおう」というわけです。

ただ、サウスパークがトランプ氏を風刺するのは今回が初めてではありません。

実は大統領になる前の2015年から、約11年間にわたってトランプ氏とその周辺の政治を笑いの題材にしてきました。

簡単にいうと

サウスパークのトランプ風刺は、大きく3段階に分けると分かりやすくなります。

最初は、トランプ氏にそっくりな別キャラクターを使う時代

次に、そのキャラクターを大統領にして、現実のトランプ政権をアニメの中で再現する時代

そして2025年以降は、ついにドナルド・トランプ本人を名乗るキャラクターを直接登場させる時代になりました。

たとえるなら、最初は似顔絵の名前を伏せていた風刺漫画が、途中から「もう誰のことか隠す必要もない」と本人の名前を大きく書き始めたようなものです。

しかも最近は、トランプ氏だけではありません。

政権に協力する政治家、メディア、巨大企業などもまとめて風刺するようになっています。

それで何が変わる?

サウスパークがトランプ氏を題材にし始めたのは2015年です。

同年9月の「Where My Country Gone?」では、教師のミスター・ギャリソンが移民に怒り、「壁を作る」と主張します。

当時、大統領候補だったトランプ氏がメキシコとの国境に壁を建設すると訴えていたことを明らかに意識した設定でした。

翌2016年になると、ギャリソンは大統領選へ出馬します。

つまり作品の中で、ギャリソンが「トランプ役」になっていったのです。

そして現実の2016年大統領選でトランプ氏が勝利すると、サウスパーク側には大問題が起きました。

制作陣はヒラリー・クリントン氏が勝利する想定で、選挙翌日に放送するエピソードを準備していたからです。

パーカー氏とストーン氏は後に、予定していた内容を選挙結果を受けて急きょ変更したことを明かしています。

現実の政治が予想外の方向へ動けば、アニメも直前に作り直す。

サウスパークの「時事ネタの速さ」を象徴する出来事でした。

2017年には、さらに風刺が具体的になります。

「Put It Down」では、ギャリソン大統領の北朝鮮を刺激する言動によって、少年トゥイークが核戦争への恐怖におびえます。

最後には「大統領になったらスマートフォンを置こう」という内容の歌まで登場しました。

当時、トランプ氏と北朝鮮の金正恩氏が互いに強い言葉でけん制していた状況を、子どもたちの視点から笑いに変えたのです。

2025年、ついに「本人」が登場した

大きな転換点となったのが2025年です。

それまで長く使われていた「ギャリソン=トランプ」という代理キャラクター方式をやめ、シーズン27ではドナルド・トランプ本人を名乗るキャラクターを直接登場させました。

第1話「Sermon on the ‘Mount」では、トランプ大統領が訴訟をちらつかせる人物として描かれます。

さらにサタンと恋愛関係にするなど、現実とは明確に切り離された過激なブラックジョークも展開されました。

このシーズンでは風刺の対象も広がります。

ICE(移民・税関捜査局)、Fox News、関税政策、巨大IT企業など、トランプ氏個人だけではなく、その周囲で動く政治や社会の仕組みまで物語に取り込まれました。

たとえば「Wok is Dead」では、人気玩具を買おうとする子どもを通じて関税の影響を描いています。

つまり、

「トランプ氏はおかしい」

という単純な人物批判から、

「トランプ政権の下で政治家、企業、メディア、そして普通の人たちはどう動くのか」

という、もう一段広い風刺へ変わってきたのです。

そして「Sermon on the ‘Mount」は2026年、エミー賞のアニメーション番組賞を受賞しました。

過激な政治風刺を続けながら、テレビ作品としても高く評価されたことになります。

なぜ「サウスアメリカ」が面白いの?

今回の改称で重要なのは、実はトランプ氏だけが標的ではないことです。

制作陣は、わざわざAppleとGoogleを名指しして「勇気と愛国心に触発された」と発表しています。

もちろん、本気で称賛しているわけではありません。

トランプ氏が「メキシコ湾」を「アメリカ湾」とした後、GoogleやAppleの地図サービスでも米国ユーザー向けの表示が変更されました。

今回のジョークを単純化すると、こうなります。

大統領が名前を変える

巨大企業もそれに合わせる

だったら自分たちもSouth ParkをSouth Americaに変えよう

つまり笑われているのは、大統領のネーミングセンスだけではありません。

政治権力が動いたとき、巨大企業やメディアまで一斉にそれに合わせて動く光景そのものが風刺の対象になっています。

2015年には「国境の壁」を笑っていたサウスパーク。

2016年には大統領選を笑い、2017年には北朝鮮との緊張、2020年には新型コロナ、2021年にはQAnonなどの陰謀論、2025年にはトランプ氏本人と政権周辺まで直接描くようになりました。

そして2026年の「サウスアメリカ」。

名前だけを見ればくだらないダジャレです。

しかし11年間の流れを知ると、これはサウスパークが続けてきたトランプ風刺の最新版だと分かります。

「権力者だけでなく、その権力に合わせて動く社会まで笑う」

そこまで含めて考えると、「South Park → South America」というたった一言に、かなりサウスパークらしい毒が詰まっています。

情報源