丸亀製麺の運営会社が1.47億円減額 下請けへのしわ寄せはなぜ賃上げの壁になる?

丸亀製麺の運営会社が1.47億円減額 下請けへのしわ寄せはなぜ賃上げの壁になる?

何が起きた?

公正取引委員会は2026年9月9日、丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスが、食品製造を委託した37社への代金を不当に減額していたとして、同社に勧告しました。

トリドールは2024年8月から2026年7月まで、「システム利用料」の名目で委託代金から一律1.1%を差し引いていました。2025年12月までに確認された減額だけで、約1億4741万円に上ります。

似た問題は大企業で以前にも起きています。2024年には日産自動車が、部品を製造する36社への代金から「割戻金」として総額約30億円を減額していたとして、公取委から勧告を受けました。

こうした問題は単に「中小企業が損をした」という話ではありません。

大企業と取引する中小企業が十分な代金を受け取れなければ、そこで働く人の賃上げにも影響する可能性があります。

簡単にいうと

たとえば、ある会社が大企業向けの商品を1000円で作っているとします。

ところが材料費や電気代が上がり、さらに従業員の給料を上げたことで、同じ商品を作るのに1050円必要になったとします。

本来なら、

「コストが50円上がったので、取引価格も1050円にしてください」

と発注企業にお願いする必要があります。

しかし発注企業から、

「1000円のままでお願いします」

と言われ、それを断れば仕事そのものを失う可能性があるとしたら、中小企業側は簡単には断れません。

結局、その50円を自社の利益から負担します。

これが続けば、

賃上げしたくても、そのためのお金が残らない

という状態になります。

大企業と中小企業の取引で問題になる「価格転嫁」とは、まさにこのコスト上昇分を取引価格へ反映できるかどうかという話です。

それで何が変わる?

実際、日本の中小企業はまだコスト上昇分を十分には価格へ転嫁できていません。

経済産業省が2026年3月時点の取引について約30万社の中小企業を対象に調査したところ、コスト上昇分を価格へ転嫁できた割合は平均54.2%でした。

内訳を見ると、

  • 原材料費:55.7%
  • 労務費:50.0%
  • エネルギーコスト:48.9%

となっています。

特に注目したいのが労務費の50.0%です。

従業員の給料など人件費が100万円増えても、その増加分を取引価格へ転嫁できるのは平均すると50万円程度ということになります。

残りは企業自身が負担しなければなりません。

しかも、サプライチェーンの下へ行くほど状況は厳しくなります。

中小企業庁の調査では、発注企業と直接取引する1次請けよりも、2次、3次、4次請けと取引階層が深くなるにつれて、価格転嫁率が低くなる傾向が続いています。

つまり、立場が弱くなりやすい企業ほどコスト上昇を自分で抱え込みやすいのです。

なぜ賃上げの壁になる?

中小企業が「儲かっているのに従業員へお金を出さない」とだけ考えると、この問題を見誤ります。

2026年版の中小企業白書によると、中小企業の労働分配率はすでに8割近い水準にあります。

労働分配率とは、会社が生み出した付加価値のうち、どれくらいを人件費として従業員へ回しているかを見る数字です。

中小企業はこの割合が大企業より高く、政府も大企業と比べて中小企業の賃上げ余力は厳しいと分析しています。

もちろん、中小企業の賃金が低い理由がすべて大企業との取引にあるわけではありません。

生産性、企業規模、業種、設備投資、人口減少など多くの原因があります。

それでも、大企業から受け取る代金が十分に増えないまま、

材料費も上昇
電気代も上昇
従業員の給料も上昇

となれば、利益が圧迫されるのは避けられません。

その状態で最低賃金などによって人件費だけを引き上げても、中小企業に十分な収入が入ってこなければ、長期間続けられる賃上げにはなりにくいのです。

法律まで変わったのはなぜ?

この問題を受けて、2026年1月から従来の下請法は改正され、「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」になりました。

大きな変更の一つが、「協議に応じない一方的な代金決定」の禁止です。

これまでも極端に安い価格で発注する「買いたたき」は禁止されていました。

しかし実際の取引では、

「価格を上げてほしいと頼んでも話し合ってもらえない」

「何年も価格を据え置かれる」

「発注側が一方的に価格を決める」

といった問題がありました。

そこで新しい制度では、中小企業から価格について協議を求められたのに、発注企業が話し合いに応じなかったり、必要な説明をせず一方的に価格を決めたりする行為も禁止されました。

これは裏を返せば、政府も「企業同士なのだから自由に交渉すればいい」だけでは解決できないほど、発注側と受注側に力の差がある場合があると認識しているということです。

丸亀製麺の運営会社の1.47億円、日産の約30億円という金額は目立ちます。

しかし、本当に重要なのはその先です。

日本で持続的に給料を上げるには、企業に賃上げを求めるだけでなく、

中小企業が増えた人件費を取引価格へ適切に転嫁し、そのお金がサプライチェーンの末端まで流れる仕組みを作れるか

が重要になります。

「下請け問題」は、一部の企業同士だけの問題ではありません。

そこで働く多くの人の給料にもつながる、日本経済全体の問題なのです。

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