日本はいまも国連の「敵国」なのか? 高市首相が削除を求めた「旧敵国条項」とは

何が起きた?
高市早苗首相は2026年9月22日、ニューヨークで開かれた国連総会の一般討論演説で、国連憲章に残っている「旧敵国条項」を早急に削除するよう求めた。
旧敵国条項とは、第二次世界大戦で国連憲章の署名国と敵対した国を対象にした規定で、日本もこれに含まれる。
ただし、今回突然問題になったわけではない。国連総会は1995年に削除へ向けた手続きを進める意思を示し、2005年の世界首脳会合では、53条、77条、107条から「敵国」への言及を削除することを各国首脳が決意している。
それにもかかわらず、条文そのものは2026年現在も国連憲章に残ったままである。
さらに最近、中国政府が「敵国条項は現在も有効」とする主張を繰り返している。高市首相の演説に対しても、中国外務省は9月23日、敵国条項について「現在も極めて重要な意味を持つ」とする立場を改めて示した。
簡単にいうと
旧敵国条項は、第二次世界大戦直後の世界を前提に作られたルールの名残である。
たとえるなら、80年以上前に作られた契約書に、現在では使わないことになっている項目が残っているような状態だ。
関係国の間では以前から削除する方向で合意しているが、国連憲章そのものを書き換える正式な手続きが終わっていない。そのため、「使われていない古い規定」なのに、文章としては今も存在している。
この曖昧な状態をめぐり、日本は「すでに時代遅れになった規定」と位置づけ、中国は最近になって「今も有効」と主張している。
「敵国なら日本を攻撃していい」という意味なの?
ここは注意が必要である。
「敵国条項があるので、中国やロシアは国連の許可なしにいつでも日本を攻撃できる」という説明を見かけることがあるが、そこまで単純な規定ではない。
「敵国」に関係する記述は国連憲章の53条、77条、107条にある。
53条は、地域的な機関による軍事的な強制措置には原則として安全保障理事会の承認が必要としながら、第二次大戦の旧敵国に関する一定の措置について例外を設けている。
77条は信託統治制度についての規定で、第二次大戦の結果として敵国から切り離された地域について触れている。
107条は、第二次大戦の結果として旧敵国に対して行われた措置について、国連憲章によって無効にされないとする戦後処理のための規定である。
つまり、もともとは「将来、日本を自由に攻撃する権利」を与えるために作られた条項というより、第二次大戦の終結直後に連合国が行う戦後処理を、新しくできた国連の仕組みが邪魔しないようにする性格が強い。
しかも現在の国連憲章では、国家による武力行使は原則として禁止されており、自衛権など限られた例外が定められている。
そのため、敵国条項を示すだけで現在の日本への武力行使が自動的に合法になる、と考えるのは適切ではない。
では、なぜ今になって問題になっている?
最大の理由は、中国とロシアがこの古い条項を改めて持ち出していることだ。
2026年8月、ロシアのラブロフ外相が日本について国連憲章107条に言及すると、中国外務省もこれに同意し、敵国条項の「拘束力」を強調した。
中国外務省は9月2日にも、53条、77条、107条について、日本など第二次大戦の敗戦国を対象とした規定だと説明し、現在でも確認する必要があるとの立場を示した。
9月8日にはさらに明確に、「敵国条項は現在も有効」と主張している。
そして高市首相が国連総会で削除を求めた翌日の9月23日、中国外務省は再び反論し、敵国条項について「現在も極めて重要な意味を持つ」と述べた。
一方で、中国は1995年には旧敵国条項の削除に向けた国連の議論に参加し、2005年には中国を含む国連加盟国の首脳が「敵国」への言及を削除するとの成果文書を採択している。
そのため現在は、「かつて削除することで合意した条文を、中国が再び外交上の根拠として持ち出している」という状態になっている。
高市首相がこのタイミングで正式な削除を強く求めた背景には、こうした動きがある。
なぜ20年以上たっても削除できない?
国連憲章は、普通の国連総会決議よりはるかに変更するのが難しい。
国連憲章108条では、改正を成立させるために、まず国連加盟国の3分の2による賛成が必要になる。
さらに加盟国の3分の2が、それぞれの国内手続きに従って批准しなければならない。
しかもその中には、アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアという安全保障理事会の常任理事国5か国すべての批准が必要になる。
つまり「もう削除しよう」と国連総会で合意しただけでは、実際の国連憲章から文章は消えない。
2005年に削除するとの政治的な合意までは成立したものの、その後、正式な憲章改正まで進まなかった。このため、21年後の2026年にも旧敵国条項が残っている。
さらに現在は、中国が敵国条項を「今も有効」と主張し、ロシアも107条を日本に対して持ち出している。一方、国連憲章の改正には、中国とロシアを含む安全保障理事会の常任理事国5か国すべての批准が必要である。
つまり、中国かロシアのどちらかが批准しなければ、敵国条項の削除は発効しない。現在の中露の立場が変わらない限り、日本が削除を求めても実際の条文を消すのは難しい。
ただし、法的に削除できないわけではない。中国とロシアを含む常任理事国が将来立場を変え、必要な批准がそろえば削除は可能である。
今回の問題は、単に「古い条文が残っている」というだけではない。その条文を現在も有効だと主張する常任理事国自身の同意がなければ、条文を削除できないというところにある。