米政府、AI学習に「フェアユース」を G20で著作物を使いやすい仕組み求める

何が起きた?
米国政府がG20各国に対し、AI企業が本や記事、画像などの著作物を学習に利用しやすくする制度を整えるよう呼びかけました。
2026年9月2日、米ノースカロライナ州で開かれたG20イノベーション閣僚会合で、ハワード・ラトニック米商務長官が、クリエイターを保護しながらも、AI学習には米国の「fair use(フェアユース)」の考え方を取り入れるべきだと主張しました。
フェアユースとは、一定の条件を満たせば、著作権者から事前に許可を取らなくても著作物を利用できる米国の仕組みです。
ただし、ここは重要です。
G20全体が「AI学習はフェアユースにしよう」と合意したわけではありません。
G20が採択した共同声明は、著作権者とAI開発の双方を支える必要性を確認したものの、具体的な著作権ルールについては各国の法律や司法手続きに委ねる内容になっています。
簡単にいうと
たとえば、AIに小説を書かせるため、世界中の何百万冊もの本を読ませるとします。
従来の著作権の感覚では、
「人の本をコピーして使うなら、作者に許可を取る必要があるのでは?」
という疑問が出てきます。
一方、AI企業側は、
「本そのものを読者に配るのではなく、言葉のパターンを分析して新しいAIを作るために使っている」
と主張します。
米国政府は今回、後者をかなり強く支持する姿勢を示したわけです。
つまり、
「AIが学習するときまで、世界中の著作権者一人ひとりから許可を取る仕組みにすると、AI開発が難しくなりすぎる」
という考えです。
ただしフェアユースは、「ネットにあるものなら何でも無料で使っていい」という制度ではありません。
利用目的、著作物の性質、使用量、元の作品の市場に与える影響などを総合的に見て、最終的には裁判所が判断します。
それで何が変わる?
今回の発言だけで、各国の著作権法がすぐ変わるわけではありません。
それでも重要なのは、米国政府がAI企業とクリエイターの著作権争いで、かなり明確にAI開発側へ軸足を置き始めたことです。
実際、同じ9月2日には、米司法省がOpenAIとニューヨーク・タイムズの著作権訴訟に意見書を提出しました。
米政府はその中で、大規模言語モデルの学習は一般的に著作物を大きく別の目的へ変える「transformative(変容的)」な利用であり、フェアユースとして認められるべきだとの立場を示しています。
ニューヨーク・タイムズ側はこれに反発しており、AI企業が著作物を利用するなら、クリエイターへ適正に対価を支払うべきだと主張しています。
この問題はOpenAIだけではありません。
Anthropic、Google、Metaなども、著者、出版社、新聞社、音楽会社などからAI学習を巡って訴えられています。
今後、裁判で「AI学習は原則フェアユース」という判断が定着すれば、米国のAI企業は膨大な著作物を学習に利用しやすくなります。
逆に、許可や使用料が必要という判断が広がれば、巨大な学習データを必要とするAI開発のコストは大きく上がる可能性があります。
G20が「AIは勝手に学習していい」と決めたわけではない
今回のニュースでは、米国政府の主張とG20の合意を分けて考える必要があります。
米国はG20各国にフェアユースを取り入れるよう求めました。
しかし、最終的なG20共同声明には「AI学習をフェアユースにする」ことへの合意は書かれていません。
共同声明では、著作権が作家や芸術家などの創作活動を守る重要な仕組みであることを確認しています。
そのうえで、AIと著作権の関係には複雑な問題があり、「事前・明示的な同意」を重視する制度も、「著作権の制限・例外」を認める制度も存在するとしています。
そして、どの仕組みを採用するかはそれぞれの国の法律や司法制度で解決すべき問題としました。
つまり今回まとまったのは、
「AI開発もクリエイターも大事。具体的な線引きは各国で決めよう」
というところまでです。
米国が望んでいる「世界的にフェアユース型へ」という話は、まだ実現したわけではありません。
日本はどうなっている?
実は日本では、AI学習についてはすでに比較的柔軟な仕組みがあります。
著作権法第30条の4では、著作物に表現された思想や感情を人が楽しむことを目的とせず、AIの「情報解析」などに利用する場合、一定の条件のもとで著作権者の許可を取らずに利用できるとされています。
文化庁も、AI開発のために著作物を学習データとして収集・利用する行為が、この規定の対象になり得ると説明しています。
ただし、こちらも「何でも自由」という意味ではありません。
たとえば特定の作者の作品を集中的に学習し、その作品に共通する創作的な表現を再現すること自体が目的になっている場合などは、第30条の4が適用されない可能性があります。
また、著作権者の利益を不当に害する場合も対象外になります。
つまり日本ではすでに、
「AIが作品を分析するための学習」と「作品そのものを再現するための利用」を分けて考える
仕組みが採られています。
今回の米国の提案は、日本にも無関係ではありません。
AIは国境を越えて開発されるため、米国、EU、日本、中国などで学習データに関するルールが大きく違えば、AI企業は「どの国なら何を学習できるのか」を個別に判断しなければならなくなります。
一方、世界中でAI学習を容易にすれば、今度は**「自分の作品を使われたクリエイターへ利益が戻らない」**という問題がより大きくなります。
今回のG20でも、その答えまでは出ませんでした。
これから焦点になるのは、単純に「AI学習を許すか禁止するか」ではなく、
AI開発を止めずに、作品を生み出した人にもきちんと利益が戻る仕組みを作れるのか
という点になりそうです。
情報源
- Reuters「US urges G20 countries to allow AI training on creators’ work」
- Reuters「US government backs OpenAI in New York Times copyright case」
- The White House「G20 Innovation Ministerial Concludes with Consensus Statement」
- G20 Research Group「G20 Innovation Ministerial Statement」
- 文化庁「AIと著作権について」
- 文化庁「著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について」