プールにおしっこはなぜ入る? 30~75リットル推定研究から見える人間の心理と生理

プールにおしっこはなぜ入る? 30~75リットル推定研究から見える人間の心理と生理

何が起きた?

2026年8月、ITmedia NEWSが「プールにはどれくらいの尿が混じっているのか」を調べた研究を紹介し、話題になりました。ただし、新しく発表された研究ではなく、カナダ・アルバータ大学の研究者らが2017年に発表した論文を取り上げたものです。

研究チームは、体内でほとんど分解されず尿に排出される人工甘味料「アセスルファムK」を尿の目印として利用しました。カナダ2都市の31カ所のプールやホットタブを調べると、採取したすべての場所からアセスルファムKが検出されました。

さらに大型プール2カ所を3週間調べたところ、水量約42万リットルのプールでは約30リットル、約84万リットルのプールでは約75リットルの尿が含まれていると推定されました。

ただし、これは「すべてのプールには同じ割合で尿が入っている」という意味ではありません。利用者数や水の交換、施設の管理方法などによって濃度は大きく変わります。

簡単にいうと

この研究で分かったのは、「プールには尿が入っている」という、ある意味では予想できる事実だけではありません。

面白いのは、見えなくなった尿を人工甘味料の痕跡から探し出したことです。

たとえば、誰かが水に砂糖を溶かしてしまえば、見た目だけでは分かりません。しかし、水を分析して砂糖の濃度が分かれば、「どのくらい入れられたのか」を逆算できます。

今回の研究では、それに近い方法でアセスルファムKを使っています。

ただ、もっと気になる疑問があります。

そもそも、なぜそれほどの尿がプールに入るのでしょうか。

小さな子どもの失敗だけで説明できるのでしょうか。それとも、大人も意図的に排尿しているのでしょうか。

実は、この問題を人間の心理から調べた別の研究があります。

それで何が変わる?

まず、プールに尿が入っているからといって、すぐに「危険な水だ」と考える必要はありません。

問題になるのは、単に尿が存在することだけではなく、尿や汗などに含まれる成分が消毒用の塩素と反応することです。

この反応によって「クロラミン」などの消毒副生成物ができます。濃度が高くなると、目や鼻、のどなどを刺激することがあり、特に換気の悪い屋内プールでは空気中にも蓄積することがあります。

つまりプールでは、

「塩素があるから、おしっこをしても全部きれいになる」

という考え方は正しくありません。

むしろ人間が持ち込む尿、汗、皮脂などが増えるほど、消毒や換気などの水質管理にかかる負担も増えます。

とはいえ、適切に管理されたプールを「尿が少し含まれているから危険」と考えるのも行き過ぎです。公共プールは、そもそも多数の人が利用することを前提として、ろ過や消毒、水質管理を行う施設だからです。

なぜ人は水の中でおしっこをする?

2022年には、カナダの研究者らが、RedditやQuora、競泳・トライアスロン関連の掲示板などに書き込まれた986件のコメントを分析しています。

そこで見えてきた理由は、一つではありませんでした。

「濡れた水着を脱いでトイレへ行くのが面倒」「競泳の練習を途中で抜けたくない」「大量の水に薄まるから問題ないと思う」といった考え方のほか、周囲の人もやっているという認識や、マナーをどう考えるかといった社会的な影響も確認されました。

中には、禁止されていることを見つからずに行うこと自体を楽しんでいるような書き込みもありました。

もちろん、これは匿名掲示板の書き込みを分析した研究です。そのため「プール利用者の何%がこの理由で排尿する」と一般化することはできません。

それでも、すべてが子どもの事故ではなく、意図的な排尿も存在することを考える材料にはなります。

心理的には、水の中という環境も影響していると考えられます。

床に排尿すれば、そこには目に見える汚れが残ります。しかしプールでは、排尿した瞬間に水へ広がり、誰がしたのかも分からなくなります。

そのため「自分一人くらいなら」「これだけ水があるなら」「誰にも分からない」という感覚が生まれやすい可能性があります。

さらに、心理だけではありません。

人間の身体には、**水に浸かると尿が出やすくなる「浸水利尿」**という生理現象があります。

身体を水に沈めると、水圧によって脚などにあった血液が胸の周辺へ移動します。すると身体は循環する血液が増えたように感じ、水分やナトリウムを尿として排出する方向に働きます。

冷たい水ではさらに尿が増えやすくなりますが、浸水による利尿作用そのものは冷水だけに限った現象ではありません。

つまりプールは、

水に入ると尿意が起こりやすくなる
→ しかしトイレへ行くには水から出なければならない
→ 面倒なので、そのまましてしまう人もいる

という環境でもあります。

「事故なのか、故意なのか」という問いに対する答えは、どうやら両方が混ざっていると考えるのが妥当でしょう。

温泉や銭湯は大丈夫?

ここまで聞くと、日本人にとってもう一つ気になる場所があります。

温泉や銭湯の浴槽にも尿は入っているのでしょうか。

今回確認した範囲では、日本の温泉や銭湯について、プール研究と同じように人工甘味料などを目印として「浴槽に尿が何リットルある」と測定した信頼できる研究は確認できませんでした。

したがって、カナダのプールで求められた数字をそのまま日本の温泉や銭湯へ当てはめることはできません。

環境もかなり違います。

競泳では長時間水の中にいることがありますが、日本の入浴施設では通常、浴槽の外に洗い場があり、裸なのでトイレへ行くために濡れた水着を脱ぐ必要もありません。

一方で、水に浸かることで利尿が起きるという人間の生理現象は、プールだけのものではありません。そのため、温泉や銭湯だから排尿が絶対に起きない、とも言い切れません。

子どもの失敗や尿漏れなど、本人が意図しないケースも当然考えられます。

ここで重要なのは、必要以上に「公共のお風呂は汚い」と怖がらないことです。

厚生労働省は公衆浴場について、水質検査、浴槽や配管の清掃、消毒などを含む衛生管理を求めています。特に日本の浴場で公衆衛生上重要な問題として管理されているのが、レジオネラ属菌です。

公共のプールや浴場は、

「利用者が水をまったく汚さないから安全」なのではありません。

汗や皮脂、微生物など、人が入れば何らかのものが水へ持ち込まれることを前提として、それを一定の範囲に抑えるために管理されています。

今回の研究から読み取るべきなのも、「プールにはおしっこが何十リットルもあるから怖い」という話ではないでしょう。

むしろ興味深いのは、人間は水に入ると生理的に尿が出やすくなり、そこへ「見えない」「薄まる」「みんなもやっている」といった心理が加わることで、本来なら避ける行為のハードルが下がることがあるという点です。

水の中のおしっこ問題は、単なる衛生の話ではなく、人間の身体と心理の両方が関係する問題なのです。

情報源