米国がディーゼル輸出規制を検討 国内価格を下げるはずが、なぜ逆にガソリン高を招く?

何が起きた?
米国で、ディーゼル燃料の輸出を制限する案が浮上している。
2026年9月22日、トランプ大統領は記者団に対し、米国で生産したディーゼルを国外へ出さないという考えを支持する発言をした。ベッセント財務長官も、全面的な輸出禁止だけでなく、部分的な規制を含めて検討していると説明した。
背景にあるのが、米国での記録的なディーゼル高である。
米国ではディーゼル価格が1ガロン6.5ドルを超える水準まで上昇しており、トラック輸送、農業、建設など幅広い分野の負担になっている。
一方、9月23日にはホワイトハウスが「90日間の全面輸出禁止を準備している」との報道を否定した。ライト・エネルギー長官も、一律の輸出禁止には否定的な考えを示している。
つまり現時点では、米国がディーゼル輸出の抑制策を検討しているのは事実だが、全面禁輸が決定したわけではない。
簡単にいうと
輸出規制の考え方自体は単純である。
現在、米国では大量のディーゼルを生産しているが、世界的な品不足で海外価格が高いため、かなりの量が国外へ輸出されている。
米エネルギー情報局(EIA)によると、2026年4月のディスティレート燃料の輸出は約160万バレル/日に達した。9月18日までの週でも約133万バレル/日が輸出されている。
そこで、
海外へ売る量を減らす
→ 米国内にディーゼルが多く残る
→ 国内価格を下げる
というのが輸出規制の狙いである。
しかし、ディーゼルには普通の商品とは違う事情がある。
原油を製油所で処理すると、ディーゼルだけではなく、ガソリンやジェット燃料なども同時に作られる。
そのためディーゼルだけ輸出できなくすると、思わぬところに影響が広がる可能性がある。
米国にとってのメリットは?
最大のメリットは、短期的に国内供給を増やせる可能性があることだ。
EIAによると、2026年1~8月の米国のディスティレート生産は平均約510万バレル/日と、2019年以来の高水準だった。
それでも世界的なディーゼル不足によって輸出需要が増加し、米国内の在庫は減っている。9月11日時点では、ディスティレート在庫が過去5年間の同時期平均を13%下回った。
輸出量を減らせば、その一部を国内へ回すことができる。
特に恩恵が期待されるのは、ディーゼルを大量に使うトラック輸送や農業である。
米国では秋の収穫期に農業用ディーゼル需要が増える。燃料費が下がれば、農家や運送会社のコストを抑え、物流費を通じた物価上昇を和らげる効果も期待できる。
したがって、短期間だけ考えれば「国外へ出している燃料を国内に残す」という政策には一定の合理性がある。
なぜ逆効果になる可能性がある?
問題は、輸出を止めたディーゼルを米国内ですべて消費できるとは限らないことである。
米国の輸出向け製油所はメキシコ湾岸に集中している。
輸出を全面的に止めれば、この地域でディーゼル在庫が急速に増える可能性がある。しかし、余った燃料を米国内の別の地域へ自由に移動できるわけではない。パイプラインや船舶輸送能力にも限界がある。
貯蔵タンクまでいっぱいになれば、製油会社は原油を処理する量そのものを減らさなければならなくなる。
すると、
ディーゼル輸出禁止
→ ディーゼルが製油所周辺で余る
→ 貯蔵できなくなる
→ 製油所が原油処理量を減らす
→ ガソリンやジェット燃料の生産まで減る
ということが起こり得る。
S&P Global Energy CERAは、全面禁輸の場合、米国の製油所の原油処理量が約190万バレル/日減る可能性があると試算している。これは米国全体の製油所処理量の約12%に相当する規模である。
その場合、ガソリン生産も最大約75万バレル/日減る可能性があるという。
ライト・エネルギー長官が全面禁輸に反対しているのもこのためで、「輸出できなくなれば貯蔵場所がなくなり、製油を減らす必要が生じ、ガソリンやジェット燃料の価格に上昇圧力がかかる」と説明している。
つまり、ディーゼルを安くするための政策が、ガソリンなど別の燃料を高くする可能性がある。
さらに製油所の減産が大きくなれば、最初に増えたはずのディーゼル供給まで再び減ってしまう可能性がある。
世界では何が起きる?
もう一つの問題が、米国が世界最大級のディーゼル供給国だということである。
現在、ロシアや中東の製油能力・輸出が落ち込み、世界のディーゼル市場はすでに供給不足になっている。
そこから米国の100万バレル/日を大きく超える輸出が消えれば、欧州や中南米などは別の供給国を探さなければならない。
その買い付け先として重要になるのがアジアである。
すでに韓国、中国、日本などの製油所は、高いディーゼル価格を背景に生産や輸出を増やしている。
アジアの低硫黄ディーゼルの精製マージンは9月16日に1バレル87ドルを超え、過去最高水準となった。中東情勢が悪化する前には約22ドルだったため、極端に高い状態である。
米国が輸出をさらに減らせば、
米国から買えない
→ 欧州や中南米がアジアから買う
→ アジアのディーゼル需要が増える
→ アジア価格にも上昇圧力
という玉突きが起こる可能性がある。
日本への影響は?
日本について重要なのは、「米国からディーゼルが届かなくなる」という直接的な影響よりも、世界価格の上昇である。
日本は原油を輸入し、国内の製油所でガソリンや軽油などを精製する仕組みを基本としている。
さらに現在のアジア市場では、日本自身も韓国や中国などとともにディーゼルの輸出側に回っている。
そのため米国が輸出を制限したからといって、直ちに日本で軽油そのものがなくなるという話ではない。
日本の石油会社についても、石油連盟は9月18日時点で、少なくとも11月まで必要な原油を確保していると説明している。
ただし、世界のディーゼル価格がさらに上がれば、日本国内の軽油価格にも上昇圧力がかかる。
日本では2023年度、運輸部門のエネルギー消費の34.3%を軽油が占めている。
影響するのはディーゼル車を持つ人だけではない。
トラック、宅配、バス、建設機械、農業機械などにも使われるため、
軽油価格上昇
→ 運送費上昇
→ 食品や日用品などの物流費上昇
という形で広く波及する可能性がある。
一方、日本の製油会社にとっては、海外のディーゼル価格が高ければ輸出採算が改善するという面もある。
つまり日本にとっては、供給不足そのものより、世界的なディーゼル争奪戦によって価格がどこまで上がるのかが大きな問題になる。
これから何を見るべき?
最大の焦点は、米政府が最終的にどの程度の規制を選ぶかである。
全面禁輸と、一定量だけ輸出を減らす措置では影響が大きく異なる。
全面禁輸なら米国内のディーゼル価格を一時的に押し下げる力は強くなる一方、製油所の減産や世界市場への影響も大きくなる。
反対に部分的な規制や製油会社による自主的な国内供給増加なら、副作用を抑えながら国内在庫を増やせる可能性がある。
したがって今回の問題は、単純な「輸出を止めれば米国民が得をする」という話ではない。
米国内に燃料を残すメリットと、世界最大級の輸出国が市場から抜けるデメリットをどう両立させるか。
そして米国の選択は、ディーゼルを大量に直接輸入していない日本にも、世界価格と物流費を通じて影響する可能性がある。
情報源
- Reuters「White House denies report US is considering a diesel export ban」
- U.S. Energy Information Administration「What goes into diesel prices?」
- U.S. Energy Information Administration「U.S. exports of crude oil and petroleum products reached record in April」
- U.S. Energy Information Administration「Exports of Distillate Fuel Oil」
- U.S. Energy Information Administration「Short-Term Energy Outlook September 2026」
- S&P Global「Trump to consider diesel export restrictions amid political pressure」
- Reuters「Asia diesel refining margins at record high of more than $87 a barrel, data shows」
- Reuters「Japan’s refiners secured sufficient crude supplies through November, industry body says」
- 資源エネルギー庁「第1章 第2節 部門別エネルギー消費の動向」