「二酸化炭素を地下に捨てる」が本格運用へ EU初の大規模CCSは本当に温暖化対策になる?

「二酸化炭素を地下に捨てる」が本格運用へ EU初の大規模CCSは本当に温暖化対策になる?

何が起きた?

2026年9月18日、デンマークで「Greensand Future」という二酸化炭素(CO₂)の地下貯留プロジェクトが商用運転に入りました。

EUでは初となるフルスケールのCO₂貯留施設で、回収したCO₂を輸送し、北海の海底よりさらに約1,800メートル下へ注入して長期間閉じ込めます。

これは「CCS」と呼ばれる技術です。Carbon Capture and Storageの略で、日本語では「二酸化炭素回収・貯留」と呼ばれます。

今回の仕組みでは、回収したCO₂を液化してデンマークのエスビャウ港までトラックで運び、専用船に積み替えます。そこから約250キロ沖合まで運び、かつて石油を採掘していたNini West油田へ注入します。

最初の商用段階では、年間最大約40万トンのCO₂を貯留できるとされています。

ただし、「ヨーロッパで初めてCO₂を地下に埋める」という意味ではありません。EUに加盟していないノルウェーでは、1990年代から海底下へのCO₂貯留が行われています。

今回新しいのは、EU域内で回収・輸送・海底下への永久貯留までをつないだ商用規模の仕組みが本格的に動き始めたことです。

簡単にいうと

普通の温暖化対策は、

「できるだけCO₂を出さない」

という考え方です。

CCSは少し違います。

「どうしても出てしまうCO₂なら、大気に放出する前につかまえて地下へ入れてしまおう」

という技術です。

家庭のゴミにたとえるなら、「ゴミを出さないようにする」のが省エネや再生可能エネルギーへの転換で、「出てしまったゴミを回収して処分場に隔離する」のがCCSに近い考え方です。

ただし、地下に巨大な洞窟を作ってCO₂を詰め込むわけではありません。

CO₂を高い圧力で地下の砂岩などへ送り込み、岩石にある非常に小さな隙間に閉じ込めます。その上にはCO₂を通しにくい地層があり、ふたのような役割をします。

Greensandでは、石油を長期間閉じ込めていた地層を利用します。

今回埋めるCO₂は、実は工場の煙が中心ではない

ここは誤解しやすいところです。

「工場や火力発電所から出たCO₂を大量に回収して埋め始めた」と思うかもしれませんが、今回の最初の段階では違います。

Greensandへ送られるCO₂は、主にデンマークのバイオメタン製造施設から回収されます。

植物や生ごみなどの有機物からバイオガスを作り、それをバイオメタンへ精製するときにCO₂が分離されます。そのCO₂を大気へ放出せず、回収して地下へ送ります。

このため、条件によっては単に「新しい排出を防ぐ」だけではありません。

植物が成長するときに大気から吸収した炭素を地下へ戻すことになるため、ライフサイクル全体で十分な削減ができれば、大気中のCO₂を実質的に減らす「炭素除去」として扱える場合があります。

将来はセメントや化学など、CO₂を減らすのが難しい産業から回収したCO₂を受け入れる構想もあります。

地下に埋めて、本当に漏れないの?

CCSで最も気になるのがここでしょう。

「何十年、何百年後かにCO₂が地下から出てくるのではないか」という問題です。

当然ながら、漏出の可能性を完全にゼロとは言えません。そのため、どこにでもCO₂を注入できるわけではなく、地下構造を調べたうえで貯留場所を選びます。

Nini Westでは、2023年に約4,100トンのCO₂を使った実証試験が行われています。

本格運用後も、地下でCO₂がどのように広がっているかを地震波などを使って監視します。

特に重要なのが、過去に石油やガスを採掘するために掘られた井戸です。自然の地層だけでなく、こうした人工的な経路からCO₂が漏れないかも確認する必要があります。

EUの制度では、漏出や重大な異常が起きた場合、事業者には是正措置を取る義務があります。

貯留を終了したからといって、すぐに事業者の責任がなくなるわけでもありません。原則として少なくとも20年間が経過し、CO₂が長期的に安定して閉じ込められていることなどが確認された後でなければ、責任を国へ移すことはできません。

つまり「地下に埋めたら、それで終わり」という仕組みではありません。

埋めるためにもCO₂が出る。それでも意味はある?

CO₂を地下へ運ぶにもエネルギーが必要です。

CO₂を液化する設備を動かし、トラックで港まで運び、船を動かし、さらに地下へ圧入します。

当然、その過程でも温室効果ガスは排出されます。

Greensand側が行ったライフサイクル評価では、液化・輸送・貯留などを含めても、地下へ送るCO₂の約94%に相当する温室効果ガス排出を回避できるとしています。

逆にいえば、約6%分はCCSの運用自体によって生じるという計算です。

ただし、この94%という数字はGreensand自身の設備や条件を前提にした評価です。

すべてのCCSで同じ削減率になるわけではありません。特に薄い排ガスからCO₂だけを分離する場合は、回収そのものにも多くのエネルギーが必要になります。

CCSは「CO₂を埋めれば100%なかったことになる魔法の技術」ではありません。

なぜCO₂を出さない方法だけでは駄目なの?

では、再生可能エネルギーや電気自動車を増やして、最初からCO₂を出さなければいいのではないでしょうか。

できる分野では、それが基本です。

ところが、CO₂排出を完全にはなくしにくい産業があります。

代表例がセメントです。

セメントでは、工場を動かす燃料だけではなく、原料となる石灰石を化学反応させること自体からCO₂が発生します。

つまり工場の電力をすべて再生可能エネルギーにしても、それだけではCO₂をゼロにできません。

こうした「どうしても残ってしまう排出」を減らす手段として、EUはCCSを重視しています。

EUは2030年までに、年間少なくとも5,000万トンのCO₂を地下へ注入できる能力を確保する目標を掲げています。

今回のGreensandは年間最大約40万トンなので、まだその約0.8%です。

巨大な数字に見える40万トンでも、EU全体が想定しているCCSの規模から見ると、ごく初期段階ということです。

問題は「埋められるか」から「誰がお金を払うか」へ

技術だけを見ると、CO₂を地下へ貯留すること自体は新しい発明ではありません。

今回の重要な点は、それを商売として動かすための一連の仕組みができたことです。

GreensandにはEUのInnovation Fundから4,100万ユーロの支援が行われています。

CO₂を回収し、液化し、運び、船に積み、海底まで持っていき、地下へ圧入し、その後も監視するとなれば当然お金がかかります。

しかも、地下へ埋めたCO₂自体から普通の商品ができるわけではありません。

そのためCCSを広げるには、「CO₂を排出するよりも、回収して地下へ送った方が経済的に有利になる」制度が重要になります。

EUには企業のCO₂排出に価格を付ける排出量取引制度があり、こうした仕組みと組み合わせることでCCSを事業として成立させようとしています。

今後の大きな焦点は、技術が動くかどうかよりも、どれだけ安くCO₂を回収・輸送・貯留できるか、そしてその費用を企業・政府・消費者の誰が負担するのかになりそうです。

Greensandは将来的に年間400万~800万トンまで拡大できるとしていますが、これは現在すでにその量を埋められるという意味ではありません。

現在の商用段階は年間最大約40万トンで、Nini Westについて現在許可されている総貯留量は240万トンです。

400万~800万トンという数字は、今後さらに設備、顧客、貯留場所、許認可などがそろった場合の拡張構想です。

今回始まったのは「CO₂問題を地下貯留で解決できる時代」ではありません。

むしろ、CO₂を回収して遠くまで運び、地下へ長期間閉じ込めるという仕組みを、実際の産業としてどこまで大規模化できるのか。その本格的な実験が始まったと考える方が実態に近いでしょう。

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