AIで脆弱性を発見→Sonyに報告、PS5 Linuxの主要開発者が離脱 何が起きた?

AIで脆弱性を発見→Sonyに報告、PS5 Linuxの主要開発者が離脱 何が起きた?

何が起きた?

PS5でLinuxを動かすオープンソースプロジェクト「PS5 Linux」の主要開発者、Andy Nguyen氏(TheFloW)が2026年9月15日、PS5関連の活動から離れ、PS5 Linuxの開発も停止すると表明した。Nguyen氏はPS5 Proへの対応を進め、2027年に公開する計画もあったという。

きっかけになったのは、PS5の重要な防御機構「ハイパーバイザー」に残っていた脆弱性が別の研究者にも発見され、Sonyへ報告されたことだった。

Nguyen氏は現在のPS5研究コミュニティについて、「以前は非常に優秀な研究者の集まりだったが、今はLLMを使って、自分でも理解していないハックを書く初心者ばかりになった」と強く批判。「Slop kiddies」と呼んで不満を表した。

ただし、「AIで作られた粗悪なコードに嫌気が差して辞めた」というだけの話ではない。直接の争点は、まだ使える重要な脆弱性をSonyへいつ報告するかだった。

簡単にいうと

ゲーム機のセキュリティを「鍵のかかった部屋」にたとえてみよう。

PS5 Linuxを動かす研究者たちは、本来入れない部屋へ入るための「秘密の抜け道」を探している。その抜け道の一つが、ハイパーバイザーの脆弱性である。

ところが、その場所をSonyへ知らせれば、Sonyはアップデートで穴を塞ぐことができる。

一方でSonyは、脆弱性を見つけた研究者から報告を受け付ける「バグ報奨金制度」を正式に運営している。メーカー側からすれば、危険な穴を教えてもらい修正するのは当然のセキュリティ対策である。

つまり今回は、

「脆弱性を温存してLinuxに利用したい人」

と、

「脆弱性をSonyへ報告する人」

の利害がぶつかった。

そこへAIが加わり、これまで高度な知識が必要だった脆弱性の発見に、より多くの人が参加できるようになったことが問題を複雑にした。

なぜGTA VIまで秘密にしたかった?

Nguyen氏によると、この脆弱性は本人も以前から見つけていた。

しかし、すぐにはSonyへ報告せず、少なくとも『Grand Theft Auto VI(GTA VI)』の発売までは残しておきたかったという。

GTA VIは2026年11月19日にPS5とXbox Series X|S向けに発売予定である。

ここで重要なのがゲーム機のファームウェアだ。

PS5では、新しいゲームを遊ぶために本体を新しいファームウェアへ更新する必要が生じることがある。一方、脆弱性を利用する改造やLinuxは、メーカーが穴を修正すると利用できなくなる可能性がある。

Nguyen氏が望んでいたのは、

「GTA VIが発売されるまで脆弱性が修正されなければ、ゲームを正規購入して遊べる比較的新しいPS5で、Linuxも動かせる可能性を残せる」

という状態だった。

そのため、同じ脆弱性を見つけた研究者に、GTA VI発売まではSonyへの報告を待ってほしいと頼んでいた。

AIが何を変えた?

ここが今回の話の一番興味深いところである。

Nguyen氏と同じ脆弱性を見つけた研究者Jordy氏は、Nguyen氏から報告を待つよう求められ、一度は同意したと説明している。

しかし、その数時間後にさらに別の人物がAIを利用して同じ脆弱性を発見したため、「もう秘密にはしておけない」と判断し、自分からSonyのHackerOneへ報告したという。

つまりAIによって起きた変化は、単に「初心者でもコードを書けるようになった」ことだけではない。

これまでは極めて少数の専門家しか発見できなかった脆弱性を、より多くの人が探せるようになると、

重要な脆弱性を少人数だけで秘密にしておくこと自体が難しくなる。

一人が「まだ公開しない」と決めても、別の人が同じ穴を発見してメーカーへ報告してしまう可能性が高くなるためである。

AIが「専門家の知識を完全に不要にした」とまでは言えない。しかし、脆弱性探索やコード作成のハードルを下げれば、これまで少人数の研究者だけで成り立っていた慣習が崩れる可能性はある。

Sonyへ報告した側が悪いの?

単純に「裏切り」とは言い切れない。

Sonyは公式に、研究者から脆弱性を受け付ける制度を用意している。セキュリティの観点では、発見した脆弱性をメーカーへ報告し、修正してもらうことには明確な意味がある。

一方、ゲーム機の改造や自作ソフトのコミュニティでは事情が逆になる。

メーカーに穴を知らせれば修正され、その脆弱性を利用したLinuxや自作ソフトまで動かなくなることがある。

そのため、

メーカーから見れば「修正すべきセキュリティホール」でも、改造コミュニティから見れば「貴重な入口」

になる。

今回の騒動は、どちらかが単純に間違っているというより、バグ報奨金制度とゲーム機改造文化の目的が根本的に違うことを浮き彫りにした出来事でもある。

PS5 Linuxはもう終わり?

現時点で「PS5 Linuxそのものが終了した」とするのは正確ではない。

公開済みのPS5 Linuxは現在もGitHub上に存在しており、PS5の通常モデルとSlimについて、ファームウェア3.00~7.61などを対象にLinuxを動かす仕組みが公開されている。ソースコードもGPL-3.0ライセンスで公開されているため、別の開発者が引き継ぐことは可能である。

問題なのは、Nguyen氏が進めていたPS5 Proや新しいファームウェアへの対応である。

Nguyen氏が開発から離れ、さらに新しいハイパーバイザー脆弱性がSonyに報告されたことで、予定されていた2027年のPS5 Pro対応が実現するかは不透明になった。

今回の騒動は、「AIがプログラマーの仕事を奪うか」というよくある話とは少し違う。

AIによって高度な技術への入口が広がれば、これまで専門家同士の暗黙の了解で成り立っていた世界に、まったく違う価値観を持つ人が大量に入ってくる。

PS5 Linuxをめぐる今回の衝突は、AIがコードを書く方法だけでなく、技術コミュニティのルールそのものまで変え始めている例と見ることができる。

情報源