会社の仕事なのにAI代は自腹? 英国で年間約10億ポンド、日本でも広がる「シャドーAI」

会社の仕事なのにAI代は自腹? 英国で年間約10億ポンド、日本でも広がる「シャドーAI」

何が起きた?

英国の労働者が、仕事に使う生成AIの料金を自分で支払い、その総額が年間約9億5800万ポンドに上るとの調査結果を、Deloitte UKが2026年9月16日に発表した。

調査は英国の18~70歳の就業者2万5000人を対象に実施された。仕事で生成AIを使っている人は63%に達し、そのうち17%が少なくとも1つの生成AIサービスを自費で契約していた。

さらに、生成AI利用者の31%は、会社に知られないまま仕事でAIを使っていた。

つまり、会社がAIを用意するのを待たず、社員が自分でChatGPTやClaudeのような生成AIを仕事に持ち込む現象が広がっている。

簡単にいうと

たとえば会社員が、

「会社からAIは支給されていないけど、これを使えばメール作成が10分早く終わる」

と考えて、自分のお金で生成AIを契約するようなケースである。

会社からすると仕事の効率は上がる。しかし、そのAIを会社が管理していなければ、社員が何を入力しているのか、どのサービスを使っているのかを把握できない。

こうした会社が承認・管理していないAIの業務利用は「シャドーAI」と呼ばれる。

Deloitteの調査では、自腹でAIを使う17%と、会社に知られず使う31%は別の数字である。すべての自腹利用が無断利用というわけではなく、無料AIを会社に黙って使う人もいる。

なぜ自腹でまでAIを使うの?

Deloitteの調査を見ると、生成AIは特別な技術職だけが使っているものではない。

主な用途は、情報検索が43%、メール作成が43%、文章などの要約が31%だった。

つまり、多くの場合は毎日の普通の仕事を少し速くするために使われている。

会社未承認または自費のAIを使う理由としては、「会社が提供するAIより性能が良い」「仕事に必要なのに会社がお金を出してくれない」といった回答もあった。

AIを使えば仕事が早く終わる一方、会社のAI導入やルール整備が追いつかない。その隙間を社員自身が埋め始めているわけである。

日本でもシャドーAIは起きている?

日本でも、すでに同じ問題は確認されている。

PwC Japanが2026年2月に国内の大企業などで生成AI導入に関わる課長職以上932人を調べたところ、自分の部署で会社未承認の生成AI利用について、

「一部の従業員で散発的に発生」が31%、「一部の従業員で定常的に発生」が12%、「広範な従業員で定常的に発生」が4%だった。

合わせると47%が、自部署で何らかのシャドーAIが起きていると回答したことになる。

さらに19%は「分からない・把握できていない」と回答している。

ただし、この数字を「日本の会社員の47%が無断でAIを使っている」という意味に受け取ってはいけない。

調査対象は売上高500億円以上の企業・組織に勤め、生成AI導入に関与している課長職以上であり、「その人の部署でシャドーAIが起きているか」を尋ねた調査だからである。

また、日本の労働者が仕事用AIに年間いくら自腹で支払っているのかについて、英国Deloitteのような全国規模の推計は現時点では確認できない。

一方、AIそのものの仕事利用は急速に増えている。

NIRA総合研究開発機構の2026年2月調査では、日本の就業者の27%が生成AIを仕事で定期的に利用していた。1度でも使ったことがある人まで含めると39%だった。

2023年10月には定期利用者が12%だったため、約2年半で利用率は2倍以上になったことになる。

何が問題なの?

社員が自分のお金でAIを契約すること自体が、必ず危険というわけではない。

問題は、会社が把握していないAIへ業務情報が入力される可能性があることである。

たとえば社員が、

「この顧客名簿を整理して」

「この未発表商品の企画書を要約して」

「この契約書を確認して」

と会社未承認の生成AIへ入力すれば、顧客情報、個人情報、営業秘密などが外部サービスへ送信される可能性がある。

しかも本人には「仕事を効率化しているだけ」という意識しかないこともある。

IPAの調査では、日本企業で生成AIの業務利用について何らかのルールを定めていた割合は52.0%だった。

ほぼ半数の企業では、少なくとも調査時点で明確な利用ルールが設定されていなかったことになる。

AI利用を禁止するだけでも問題は解決しにくい。

社員にとってAIを使うことで仕事が明らかに速くなるなら、便利なツールを完全に禁止すると、かえって会社に隠れて使う動機を強める可能性もある。

重要なのは、「AIを使うな」だけではなく、どのAIなら使ってよいのか、どんな情報なら入力してよいのか、会社がどのAIを用意するのかを明確にすることである。

AIは「会社が導入するもの」ではなくなりつつある

これまで企業のITツールは、基本的に会社が選び、社員へ配るものだった。

しかし生成AIでは、その順番が逆転しつつある。

社員が個人でAIを使い始め、その便利さを知った後から、会社がルールや正式なサービスを整備するケースが増えている。

英国では、その結果として社員の自腹負担が年間約9億5800万ポンドに達したとDeloitteは推計している。

日本では自腹総額こそまだ分からないものの、大企業の管理職を対象にした調査で約半数が何らかのシャドーAIを認識している。

「会社がAIを導入するかどうか」を議論している間にも、社員側ではすでにAI利用が始まっている可能性がある。

企業にとって今後の問題は、AIを使わせるか禁止するかだけではなく、すでに使われているAIをどう安全に管理するかへ移りつつある。

情報源