撮られていると気づけない?フランスがスマートグラスの性的嫌がらせを捜査

撮られていると気づけない?フランスがスマートグラスの性的嫌がらせを捜査

何が起きた?

フランスのパリ検察が、カメラ付きスマートグラスを使って女性を撮影し、その映像をSNSへ投稿する行為をめぐり、性的嫌がらせの疑いで刑事捜査を始めたことが2026年9月18日に分かった。

検察によると、街中で女性を本人の同意なく撮影し、その動画をネット上へ投稿する行為について苦情が寄せられている。使用されたスマートグラスのメーカーは公表されていない。

一方、フランスのネット被害相談団体e-Enfance/3018には、2026年に入ってから、カメラ付きメガネで女性が知らないうちに撮影されたという相談が約20件寄せられており、その多くでMetaのスマートグラスが明示的に関係していたという。

相談では、女性に街頭で声をかけ、撮影中だと十分知らせないまま困惑する様子などを撮影し、「いたずら」や「街頭インタビュー」としてTikTokなどへ投稿するケースが報告されている。

簡単にいうと

問題になっているのは、カメラが「カメラらしく見えなくなった」ことである。

スマートフォンで人を撮影するなら、普通はスマホを取り出して相手に向ける。そのため、撮られている側も「自分にカメラが向いている」と気づきやすい。

ところがスマートグラスでは、メガネをかけて相手を見るだけでカメラも同じ方向を向く。

たとえるなら、これまでのカメラには「撮影します」という身ぶりがあったのに、スマートグラスではその身ぶり自体がほとんど消えてしまったようなものだ。

フランスの個人情報保護当局CNILも、スマートグラスでは周囲の人に撮影を知らせ、必要な同意を得ることが大きな課題になると警告している。

スマホと何がそんなに違う?

スマートグラスそのものは、写真や動画を撮れる便利な機器であり、使うこと自体が問題なのではない。

問題は、撮られる側からカメラが見えにくいことである。

一般的なカメラ付きスマートグラスは、フレームの中に小型カメラを内蔵している。撮影中にはランプが点灯する製品もあるが、そのランプの意味を知らない人まで「いま自分が録画されている」と理解できるとは限らない。

さらに、撮影者がスマホを構える必要もない。

普通に会話していると思っていた相手が、実は最初から会話全体を録画していた、という状況が簡単に起こり得る。

これは撮影される側にとって大きな違いである。

小さな録画ランプがあれば十分なの?

ここが今回の問題の中心の一つである。

スマートグラスには撮影中であることを周囲へ知らせるランプが付いている製品がある。

しかしe-Enfanceは、ランプが見えたことと、撮影やSNSへの公開に同意したことは別問題だと指摘している。

そもそも、その小さな光が録画を意味すると知らない人もいる。

さらに、相手が録画だと気づいたころには、すでに撮影が始まっている可能性もある。

これまでなら「カメラを構えている人に近づかない」という対応ができたが、スマートグラスではそれが難しくなる。

つまり、

「撮られたくない人が自分で気づいて避けてください」

という仕組みだけで十分なのかが問われているのである。

無断撮影なら、すぐ犯罪になるの?

ここは少し注意が必要である。

フランスでも、街中で人を本人の許可なく撮影しただけで、すべて自動的に犯罪になるわけではない。

フランス刑法では、私的な場所にいる人の姿を同意なく撮影・録画・送信してプライバシーを侵害した場合、1年以下の拘禁刑や4万5000ユーロ以下の罰金が科される可能性がある。

しかし今回問題になっているのは、公道で偶然人が映り込んだという単純な話ではない。

女性を狙って声をかける。

撮影していることを十分知らせない。

困ったり恥ずかしがったりする様子を撮る。

その映像をSNSへ投稿して多くの人に見せる。

その結果、本人に中傷や脅迫まで集まる。

こうした一連の行為が問題になっている。

フランス刑法には、性的・性差別的な言動を繰り返し、相手の尊厳を傷つけたり、威圧的・敵対的な状況を作ったりする性的嫌がらせの規定もある。

今回の捜査で最終的にどの犯罪が成立するのかはまだ決まっていない。パリ検察のサイバー犯罪部門は実際にスマートグラスを入手してテストし、どのような犯罪に利用できるのかを調べている。

問題は「盗撮」だけではない

この問題は、街中の女性への嫌がらせだけでは終わらない。

CNILには、職場でのスマートグラス利用についても苦情が寄せられている。企業からは「社員によるスマートグラスの使用を禁止できるのか」という問い合わせも増えているという。

理由は分かりやすい。

会議中にスマートグラスをかけていれば、本人だけでなく、同僚の顔、会話、パソコン画面、ホワイトボード、社内資料などまで映る可能性がある。

スマートグラスが普及すれば、これまでのように、

「カメラを向けられているから撮影されている」

とは判断できなくなる。

便利なウェアラブル端末として普及する一方で、撮影される側がどうやって撮影を知り、拒否できるようにするのか。

今回のフランスの捜査は、単なる一件の嫌がらせ事件ではなく、「カメラが見えなくなっていく時代に、撮られる側の権利をどう守るのか」という新しい問題を浮き彫りにしている。

情報源