教職員投票で1位が過半数、それでも2位を選出――なぜ?

教職員投票で1位が過半数、それでも2位を選出――なぜ?
教職員投票で1位が過半数、それでも2位を選出――なぜ?

何が起きた?

東京大学は2026年9月28日、次期総長予定者に大学院総合文化研究科教授の藤垣裕子氏を選出した。文部科学大臣による任命を経て、2027年4月に第32代総長へ就任する予定で、東大史上初の女性総長となる。

ところが、その日の午前に行われた教職員による「意向投票」では、別の候補が大差で1位になっていた。

2回目の投票結果は、染谷隆夫氏が1107票、51.0%、藤垣氏が553票、25.5%、山本隆司氏が451票、20.8%だった。

つまり、染谷氏は単独で過半数を獲得し、藤垣氏のおよそ2倍の票を得ていた。それでも最終的に選ばれたのは2位の藤垣氏だった。

簡単にいうと

東大総長を決める仕組みは、普通の選挙とは違う。

教職員が投票して最多票を取った人が、そのまま総長になるわけではない。

最終的に総長を選ぶのは、学内外の委員で構成される「総長選考・監察会議」である。教職員による意向投票は、候補者の所信表明、推薦書、面接などと並ぶ「判断材料の一つ」という位置付けだ。

そのため、制度上は投票1位ではない候補を選ぶことができる。

むしろ文部科学省は国立大学の学長選考について、教職員による意向投票を実施したとしても、その結果をそのまま最終結果に反映させるような選び方は適切ではない、との考え方を示している。

つまり今回の選出は、「投票結果に反したからルール違反」という話ではない。

問題は別のところにある。

なぜ藤垣氏が選ばれた?

東大の総長選考・監察会議は、藤垣氏について、文理融合の経験、学内外とのコミュニケーション、多様な知を結びつける能力、国際的な経験などを評価したと説明している。

さらに、大学を取り巻く課題やリスクに組織として対応するガバナンス能力や、部局・分野を越えて大学をまとめる力も重視されたとされる。

藤垣氏は科学技術と社会の関係を研究する「科学技術社会論」が専門で、2021年から2025年まで東大の理事・副学長も務めている。

つまり選考会議としては、

「教職員から最も多く支持された候補」ではなく、「今後の東大を運営するうえで総合的に最も適していると判断した候補」

を選んだということになる。

これは現在の国立大学の学長選考制度が想定している考え方でもある。

それでも「何のための投票?」という疑問は残る

制度上問題がないことと、十分に説明されていることは別である。

今回の意向投票では、有資格者2583人に対して2169票が投じられ、染谷氏は1107票を獲得した。

一方、藤垣氏は553票だった。

僅差で順位が逆転したわけではない。1位が過半数を取り、2位との得票差は554票あった。

しかも東大自身が掲げる「求められる総長像」には、総長には「組織構成員の幅広い支持」を受けながらリーダーシップを発揮することが求められる、と明記されている。

意向投票についても、次期総長が学内構成員との信頼関係を築き、リーダーシップを発揮できるかを確認することが目的の一つと説明されていた。

そう考えると、

「なぜ1107票を取った染谷氏ではなく、553票の藤垣氏だったのか」

については、もう一段具体的な説明があっても不思議ではない。

藤垣氏の長所は説明されている。

しかし、

「染谷氏と比較して、藤垣氏のどの能力をどの程度高く評価したのか」

までは、現時点で公表されている説明からは十分に分からない。

ここが今回の選考で最も大きな疑問である。

「初の女性総長だから選ばれた」は確認できない

藤垣氏が東大初の女性総長になることから、投票結果を覆してまで女性を選んだのではないか、という見方も出ている。

しかし、現在公表されている資料から、女性であることを理由に藤垣氏が選ばれたと確認することはできない。

東大が公式に説明している選出理由は、文理融合、コミュニケーション能力、国際経験、ガバナンス能力などであり、「女性だから」という理由は示されていない。

藤垣氏自身は、創立150周年を初の女性総長として迎えることには社会へのメッセージ性があるとの考えを示しているが、これは選出後の本人の受け止めであり、選考会議が藤垣氏を選んだ理由とは分けて考える必要がある。

むしろ選考理由が十分に具体化されないままだと、「女性初にすることが先に決まっていたのではないか」といった根拠の確認できない疑念まで広がり、藤垣氏本人にとっても望ましくない。

今回問われているのは、女性総長の是非というより、教職員の過半数が支持した候補を選ばなかったとき、選考会議がどこまで具体的に理由を説明するべきなのかという大学ガバナンスの問題である。

意向投票を単なる人気投票にしないという制度には理由がある。

一方で、1107対553という明確な結果を覆すのであれば、「投票は参考資料だから」の一言だけでは、投票した教職員が納得しにくいのも当然だろう。

今後、最終選考を行った総長選考・監察会議の議事要旨や議事録で、候補者をどのように比較したのかがどこまで明らかになるかが焦点となる。

情報源

記事URLスラッグ: