仮放免者の運転免許更新を拒否、裁判に 事故時の賠償はどう担保する?

何が起きた?
2026年9月11日、埼玉県内に住む外国籍の男女13人が、運転免許の更新を認められないのは違法だとして、埼玉県を相手にさいたま地裁へ提訴した。
13人はいずれも退去強制令書を受けた後、「仮放免」の状態で生活している。
原告側によると、13人のうち9人は実際に免許更新を受け付けてもらえず、残る4人も今後更新時期を迎える。
背景には、2025年10月に始まった運転免許制度の厳格化がある。
外国人について、免許更新時にも住所や在留資格を確認する仕組みとなり、在留資格のない人や短期滞在者は原則として更新できなくなった。
原告側は、道路交通法そのものには「在留資格がなければ更新できない」という条件はなく、施行規則によって事実上の条件を追加するのはおかしいと主張している。
簡単にいうと
今回の問題は、「仮放免者に車を運転させてよいか」だけではない。
車がなければ子どもの送迎や通院が難しいという生活上の事情がある一方で、事故が起きた場合に被害者への賠償をどう確保するかという問題もある。
ここで大事なのは、任意保険に入っているかどうか自体を「責任感」の基準にしないことだ。
日本人でも、自賠責だけで運転することは制度上できる。
その場合でも、事故による損害が自賠責を超えれば、加害者本人が自分の収入や資産から支払えばよい。
つまり本当の問題は、
「任意保険に入っているか」ではなく、「事故で生じた賠償責任を最後まで履行できるか」
である。
なぜ更新できなくなった?
今回の制度変更の出発点となったのは、外国の運転免許を日本免許へ切り替える「外免切替」の見直しだった。
以前は、住民票を持たない短期滞在者でも、旅券とホテルなどの一時滞在先を示す書類によって申請できる場合があった。
知識確認も10問で、70%以上正解すれば通過できた。
この仕組みが簡単すぎるとして問題視され、2025年10月から住所確認が厳格化され、知識確認も50問、90%以上の正解が必要になった。
さらに政府は、外国人がすでに持っている日本免許を更新する場合にも住所や在留資格を確認し、在留資格のない人には更新を認めない仕組みにした。
その結果、観光客による外免切替だけでなく、以前から日本の免許を持っていた仮放免者も更新できなくなった。
なお、今回提訴した13人が、もともと外免切替で日本免許を取得したのかは公表されていない。
自賠責だけでも、責任を果たすことはできる
日本では、自動車には自賠責保険への加入が義務付けられている。
自賠責では、被害者1人につき傷害は最高120万円、死亡は最高3,000万円、後遺障害は程度に応じて最高4,000万円まで補償される。
一方、物損は対象にならない。
重大事故では、自賠責だけでは損害をすべて補えないことがある。
だからといって、自賠責しか入っていない人が直ちに「無責任」なのではない。
不足分を本人が支払えば、賠償責任を果たすことはできる。
これは日本人でも外国人でも同じである。
反対に、任意保険に入っていなくて、本人にも資産や収入がなければ、裁判で賠償義務が認められても、被害者が実際には十分なお金を受け取れない場合がある。
交通事故では、「責任がある」と「実際に払える」は別の問題なのである。
仮放免では何が違う?
ここで仮放免特有の事情が出てくる。
仮放免は在留資格ではない。
出入国在留管理庁によると、仮放免された人は退去強制手続中の立場にあり、原則として就労することができない。
今回の原告は、すでに退去強制令書を受けた後に仮放免されている人たちである。
退去強制令書が出た人については、制度上は日本からの送還手続の対象となっている。
もちろん、だからといって「仮放免者にはお金がない」「賠償しない」と決めつけることはできない。
資産を持つ人もいれば、家族から支援を受けられる人、十分な保険が付いた車を運転する人もいるだろう。
実際、仮放免者の任意保険加入率や資産状況について、全体を示す公的な統計は確認できない。
ただし、制度として見ると一つ疑問が残る。
日本人が自賠責を超える損害を負った場合、本人が国内で働き続け、給与や資産から時間をかけて賠償していくことは可能である。
もちろん日本人でも無資力になれば回収できないことはある。
一方、退去強制令書を受けた仮放免者は、そもそも日本で今後も長期間働き続けることを制度上前提にした立場ではない。
原則として就労できず、将来的には送還の対象でもある。
そのため、自賠責を大きく超える損害が発生した場合に、
誰が、どのようにして残った賠償を確保するのか
という問題が通常以上に重要になる。
これは「外国人だから危険」という問題ではない。
その人が事故を起こした後も、賠償責任を実際に履行できる環境にあるのかという問題である。
では、どうすればいい?
現在の制度は、「在留資格がなければ免許を更新させない」という方法を採っている。
しかし、それだけが解決方法とは限らない。
たとえば特別な事情から更新を認める場合に、対人・対物について十分な補償のある保険や共済を確認する方法も考えられる。
仮放免の状況に合わせて免許の有効期間を短くする方法も考えられる。
一方で、こうした条件を仮放免者だけに課すのであれば、「なぜ十分な賠償能力のない日本人には同じ条件を求めないのか」という公平性の問題も出てくる。
今回の裁判で直接争われるのは、仮放免者の賠償能力ではない。
在留資格がないことを理由として、すでに持っている運転免許を更新させない仕組みに十分な法的根拠があるのかが中心となる。
ただ、制度全体を考えるなら、それとは別にもう一つ重要な問いがある。
車が必要な人の生活を守るだけでなく、万一事故が起きたとき、被害者がきちんと賠償を受けられる仕組みになっているのか。
仮放免者の免許問題では、「運転させるか、させないか」だけではなく、運転を認めるなら、その後の責任までどう担保するのかを考える必要がある。