日本に「リフレをやめろ」と言う米国、トランプ政権の方がリフレ的? 5000ドル給付と大型減税を検証

日本に「リフレをやめろ」と言う米国、トランプ政権の方がリフレ的? 5000ドル給付と大型減税を検証

何が起きた?

ベッセント米財務長官が2026年9月、日本について「アベノミクスは大きな成功を収めた。今はそれを走らせ、リフレを止めるべきだ」という趣旨の発言をした。

実際にベッセント氏は「stop the reflation」という表現を使っている。ただし日本の片山財務相は、米国側から日本政府に金融政策変更を正式に要求されたわけではないと説明している。

一方、その米国ではトランプ政権が大規模減税を実施しているうえ、トランプ大統領は9月9日、共和党が中間選挙で上下両院を維持した場合、成人の米国市民1人につき5000ドルを支給する「Trump Dividend」を打ち出した。

さらにトランプ氏は、米連邦準備制度理事会(FRB)に対して金利を1%以下まで下げるよう求めている。

では、日本にリフレをやめるよう促す米国の方が、実はリフレ政策を進めているのだろうか。

簡単にいうと

「リフレ」とは、景気が弱く物価も上がらないときに、政府や中央銀行がお金を回りやすくして、景気と物価を持ち上げようとする政策である。

たとえば、冷え切った部屋を暖房で温めるようなものだ。

政府が減税や給付で家計にお金を残し、中央銀行が金利を下げて借りやすくする。すると消費や投資が増え、景気や物価が上向きやすくなる。

アベノミクスで行われた大規模な金融緩和は、その代表例だった。

問題は現在のトランプ政権である。

政府は大型減税を実施し、さらに5000ドル給付を提案している。トランプ氏自身は大幅な利下げも求めている。

その政策思想だけを見ると、かなりリフレ的な方向を向いている

トランプ政権はどこが「リフレ的」なの?

まず大きいのが減税である。

2025年に成立した大型の税制・歳出法について、米議会予算局(CBO)は、2025~2034年の財政赤字を従来予測より約4.2兆ドル増やすと試算している。

税制変更だけを見ると、同期間の基礎的財政赤字を約4.6兆ドル増加させる方向に働く。

減税によって家計や企業に残るお金を増やし、消費や投資を促すためである。

IMFも、2025年に成立した税制・歳出変更が米国のGDPを2026~2027年に約0.75%押し上げると予測している。一方で財政赤字もGDP比で約1.5ポイント拡大するとしている。

つまり、単なる税制変更ではなく、景気を押し上げる財政刺激策として作用している。

そこへ5000ドル給付構想が加わる。

ホワイトハウスによると、トランプ氏は成人の米国市民全員に5000ドルを支給すると表明した。

Reutersの試算では、対象を約2億4000万人とすると必要額は約1.2兆ドルになる。

ただし、これはまだ決定した政策ではない。共和党が中間選挙で上下両院を維持することを条件にした公約であり、実際の支出には議会の承認も必要になる。

トランプ氏らは関税収入を財源として挙げているが、現在の関税収入だけで1.2兆ドルをまかなうのは難しい。

もし不足分を国債発行で補って実施すれば、さらに大規模な財政刺激になる。

トランプ氏が求める「金利1%以下」まで実現すれば?

さらに重要なのが金融政策である。

トランプ氏は9月16日、米国の金利は「1%以下」であるべきだと改めて主張した。

金利を大幅に下げれば、住宅ローンや企業融資などの金利も下がりやすくなり、消費や投資を刺激する。

つまり、

大型減税

5000ドルの現金給付

1%以下への大幅利下げ

というトランプ氏の希望をすべて組み合わせれば、かなり強力な景気刺激策になる。

政策の方向性だけなら、「日本はもうリフレをやめるべきだ」とするベッセント氏の発言とは対照的に見える。

しかも米国では、8月の消費者物価指数が前年同月比3.4%上昇しており、すでに物価上昇率が高い。

その状態でさらに財政と金融の両方から需要を刺激すれば、景気を押し上げる一方、インフレを再び強める可能性もある。

それでも「アメリカ全体がリフレ政策中」とは言えない

ここには大きな注意点がある。

トランプ大統領が利下げを求めても、実際に金利を決めるのは政府ではなくFRBである。

そしてFRBは9月16日、トランプ氏の要求とは逆に政策金利を0.25ポイント引き上げ、3.75~4.00%とした。

理由はインフレを抑えるためである。

つまり現在の米国では、

トランプ政権の財政政策
→ 減税や給付によって景気を刺激する方向

トランプ大統領が望む金融政策
→ 大幅利下げで景気を刺激する方向

実際のFRB
→ インフレを抑えるため利上げ

となっている。

政府がアクセルを踏もうとしている一方で、独立した中央銀行がブレーキを踏んでいる状態に近い。

そのため、「米国全体がリフレ政策を実行している」とまで言ってしまうと正確ではない。

一方、「トランプ政権の財政政策や、トランプ氏が求めている金融政策はかなりリフレ的だ」という説明なら、実態にかなり近い。

日本に「やめろ」と言いながら米国はなぜ刺激するの?

ベッセント氏の理屈は、日本ではアベノミクスによるデフレ脱却がすでに成功したため、デフレ時代の政策を続ける必要はなくなった、というものだ。

これは「リフレ政策そのものが悪い」という主張ではない。

「必要だった時代は終わった」という考え方である。

ただし、この基準を現在の米国に当てはめると疑問も生じる。

米国はすでにインフレ率がFRBの目標である2%を上回っている。それにもかかわらずトランプ政権は大型減税を行い、さらに巨額の現金給付を提案し、トランプ氏自身は大幅な利下げを求めている。

したがって、

「日本はもう景気刺激を続ける段階ではない」とするベッセント氏の主張と、トランプ政権自身が進める景気刺激策の間には、政策上の緊張関係がある

とはいえる。

ただしベッセント氏自身が5000ドル給付や1%以下への利下げをどこまで支持しているかは別問題であり、トランプ大統領の主張とベッセント財務長官の考えを完全に同一視することもできない。

結局、現在の米国を正確に表すなら、

「米国全体がリフレ政策をしている」のではなく、「トランプ政権の財政政策とトランプ氏自身の金融政策への要求は、かなりリフレ的。しかしFRBは逆にインフレを抑えるため金融引き締めをしている」

というのが実態に近い。

そしてこの違いこそ、「日本にはリフレをやめろと言うのに、米国では5000ドルを配ろうとしているのはなぜ?」という疑問を考えるうえで重要である。

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