トランプが選んだFRB議長なのに利上げ なぜ「敵対的」と不満を漏らしている?

トランプが選んだFRB議長なのに利上げ なぜ「敵対的」と不満を漏らしている?

何が起きた?

米国の中央銀行にあたるFRBは2026年9月16日、政策金利を0.25ポイント引き上げ、年3.75~4.00%とすることを決めた。利上げは2023年7月以来、およそ3年ぶりである。FRBは、米国経済が底堅い一方で、インフレが依然として高いことを理由としている。

これにトランプ大統領が反発した。トランプ氏は政策金利を「1%か、それ以下」にすべきだと主張し、FRBの理事会について「非常に敵対的」「非常に政治的だ」と批判した。

ところが、現在のFRB議長ケビン・ウォーシュ氏は、ほかならぬトランプ氏が指名した人物である。

ウォーシュ氏は2026年3月にトランプ氏から正式指名され、5月に上院の承認を受け、5月22日にFRB議長へ就任したばかりだ。

では、なぜトランプ氏が自分で選んだFRB議長が、トランプ氏の望む「利下げ」と正反対の「利上げ」をしたのだろうか。

簡単にいうと

大統領はFRB議長を選べるが、FRB議長に「金利を下げろ」と命令できるわけではないからである。

たとえるなら、政府が「審判役」を選ぶことには関われても、試合が始まった後に「こちらが勝つように判定してくれ」と命令できる仕組みにはなっていない。

FRBは政治から一定の距離を置いて金融政策を決めるよう制度設計されている。

さらに重要なのは、米国の金利を決めているのはFRB議長一人ではないということだ。

今回の利上げを決めたFOMC(連邦公開市場委員会)は12人の投票メンバーで構成されており、FRB理事7人、ニューヨーク連銀総裁、各地区連銀総裁から持ち回りで4人が参加する。

つまり、

トランプ大統領 → ウォーシュ議長 → 金利決定

という一本の命令系統ではない。

しかも今回、ウォーシュ議長自身も利上げに賛成した

さらに今回の場合、「ウォーシュ議長は反対したが、ほかの委員に押し切られた」という話でもない。

FOMCの採決結果は12対0だった。

つまり、ウォーシュ議長を含む投票メンバー全員が0.25ポイントの利上げに賛成した。

ここが今回のニュースで最も重要なところである。

トランプ氏はFRB理事会が「敵対的だ」と批判しているが、少なくとも金融政策について見る限り、今回の利上げは一部の反トランプ的な委員が押し切ったものではない。

FRB内部で、現状では利上げが必要だという判断が全会一致になったのである。

なぜFRBはトランプ氏の要求と逆方向へ動いた?

最大の理由はインフレである。

FRBには「雇用をできるだけ安定させる」と「物価を安定させる」という大きな役割がある。FRBが目安としているインフレ率は長期的に2%だが、現在は物価上昇圧力が依然として高い。

FRBは今回の声明でも、経済活動は堅調で、個人消費も底堅く、雇用も大きく崩れていない一方、「インフレは依然として高い」と説明している。

景気が弱く失業者が急増しているなら、金利を下げて経済を刺激する理由が強くなる。

しかし現在のFRBは、

「景気はまだ耐えられている。それより物価上昇を抑える必要がある」

と判断したわけである。

そのため、トランプ氏が望む大幅な利下げとは逆方向へ進んだ。

トランプ氏はウォーシュ本人を見限ったわけではない

ただし、ここには少し注意が必要だ。

トランプ氏は今回、ウォーシュ氏本人を名指しして「敵だ」と批判したわけではない。

Reutersによると、トランプ氏はウォーシュ氏と話したとしたうえで、批判の対象を主にFRBの「理事会」に向けており、ウォーシュ氏への信頼も維持していると説明している。

つまり現時点では、

「ウォーシュを選んだこと自体が失敗だった」

と認めているわけではなく、

「ウォーシュは信用しているが、FRB全体がおかしい」

という立場に近い。

ただ、今回の利上げは全会一致なので、この説明には難しい部分もある。

ウォーシュ氏自身も明確に利上げ側だからである。

大統領が議長を選ぶのに、なぜ独立している?

一見すると矛盾しているようだが、FRBの制度は意図的にそう作られている。

FRB理事は大統領が指名し、上院が承認する。しかし一度就任すると、日々の金融政策について大統領の許可を取る必要はない。

さらにFRB理事の任期は長く設定されているため、大統領が交代するたびに理事全員を自分の支持者へ入れ替える仕組みにもなっていない。

これは、選挙を控えた政権が、

「景気を良く見せたいから金利を下げろ」

「株価を上げたいからお金を大量に出せ」

と中央銀行へ圧力をかけることを難しくするためである。

短期的には低金利が景気を押し上げることがあっても、やりすぎればインフレを悪化させる可能性がある。

だから中央銀行は、政権の都合だけでなく、物価や雇用などの経済状況を見て判断する仕組みになっている。

今回は「FRBの独立性」がかなり分かりやすく表れた

今回の出来事を単純化すると、こうなる。

トランプ氏は金利を1%以下にしたい。

しかし、トランプ氏自身が選んだウォーシュ議長を含むFOMCは「今はむしろ利上げが必要だ」と全会一致で判断した。

そしてトランプ氏がFRB側を「敵対的だ」と批判した。

つまり今回の騒動は、単なるトランプ氏とウォーシュ氏の人間関係の問題ではない。

「大統領がFRB議長を選べるのに、その議長は大統領の望み通りには動かない」

という米国の中央銀行制度そのものが、非常に分かりやすい形で表面化した出来事である。

今後の焦点は、インフレが収まらずFRBがさらに利上げする場合に、トランプ政権とウォーシュFRBの対立がどこまで深まるかである。

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