「ストレスで心臓が変わる?」48万人研究で慢性炎症と心臓の構造変化に関連

「ストレスで心臓が変わる?」48万人研究で慢性炎症と心臓の構造変化に関連

何が起きた?

英Imperial College Londonなどの研究チームが、英国の大規模健康データ「UK Biobank」に参加した48万8,079人を分析し、慢性的な炎症が強い人ほど、心臓の形や働きに変化がみられるとする研究結果を発表した。

論文は2026年9月18日、医学誌「European Journal of Preventive Cardiology」に掲載された。

研究では、血液中の「GlycA」という指標を使って慢性的な炎症の程度を調べた。さらに約7万人について心臓MRIのデータを分析したところ、炎症が強い人ほど、心臓の部屋が小さい、心臓の壁が厚い、1回の拍動で送り出す血液量が少ないといった傾向が確認された。

また、炎症レベルが最も高い20%の人は、最も低い20%と比べて、心筋梗塞や脳卒中などの主要な心血管イベントを起こすリスクが43%高かった

簡単にいうと

炎症というと、傷口が赤く腫れるような状態を思い浮かべるかもしれない。

しかし体内では、目立った症状がなくても、免疫システムが弱く働き続ける「慢性炎症」が起きることがある。

たとえるなら、本来は火事のときだけ鳴るはずの火災報知器が、ずっと小さな警報を鳴らしているような状態だ。

今回の研究では、そのような炎症が強い人ほど、心臓にも少しずつ構造的な違いが現れていた。

つまり、「ストレスを感じた瞬間に心臓が変形する」という話ではない。

生活環境や心の状態、喫煙、肥満などさまざまな要因が慢性炎症と結びつき、その炎症が長期的な心臓病リスクにつながっている可能性があるという研究である。

心臓はどう変わっていた?

慢性炎症が強い人では、心臓MRIからいくつかの特徴が確認された。

代表的なのが、左心室などの心臓内部の空間が小さくなる一方で、心臓の壁が相対的に厚くなる変化だ。

さらに、心臓が広がって血液を取り込む機能や、1回の拍動で送り出す血液量も少ない傾向があった。

その不足を補うように、心拍数は高くなる傾向もみられた。

こうした変化は「心臓リモデリング」と呼ばれる。必ず病気になるという意味ではないが、長期的には心不全などにつながる可能性がある変化である。

重要なのは、本人が心臓の異常を感じるより前から、こうした違いが存在する可能性があるという点だ。

なぜ「ストレス」の話になるの?

今回の研究で直接測定した中心的なものは、心理的ストレスそのものではなく慢性炎症である。

研究チームはさらに、約47万9,000人について生活環境など177種類の要因と炎症との関係を調べた。

その結果、炎症が強いことと特に関係していたのが、

  • 体脂肪が多い
  • 喫煙している
  • 心理的苦痛が強い
  • 社会経済的に不利な状況にある

といった要因だった。

つまり、「仕事で嫌なことがあったから心臓の壁が厚くなる」という単純な仕組みが確認されたわけではない。

研究から考えられるのは、心の状態や生活環境、生活習慣などが長期間積み重なることで慢性炎症に関係し、それが心臓にも影響している可能性である。

「ストレスは気分だけの問題ではない」といわれる理由の一端が、身体の中で実際に観察できるようになってきたともいえる。

「リスク43%増」はどういう意味?

研究では、GlycAの値が最も高い20%の人は、最も低い20%の人と比べて、主要な心血管イベントのリスクが43%高かった。

ここで注意したいのは、「心筋梗塞になる確率が43%になる」という意味ではないことだ。

もともとの発症率に対する相対的なリスクが1.43倍だったという意味である。

また研究で使われた評価項目には、心筋梗塞や脳卒中だけでなく、心不全、心停止、心血管死なども含まれている。

そのため「慢性炎症が強い人は必ず心臓病になる」と考えるのも正しくない。

ストレスを減らせば元に戻るの?

そこまでは今回の研究では分かっていない。

今回の研究は大規模な観察研究であり、炎症と心臓の変化に強い関連があることは示せても、慢性炎症が直接すべての変化を引き起こしたと証明したわけではない

心臓の状態には、年齢、遺伝、体格、運動、血圧、病気など多くの要因が関係する。

研究では遺伝的な違いによって、同じような生活環境でも炎症反応の強さが変わる可能性も示された。

一方で、喫煙や肥満など炎症と関係する要因の一部は改善できる。

研究チームはさらに、IL-1やTNFと呼ばれる炎症に関係する物質が、心臓の変化に関与している可能性も示している。

こうした物質を標的とした薬はすでに研究されており、将来的には、症状が出る前に炎症を見つけて心血管疾患を防ぐ方法につながる可能性もある。

今回の研究が示しているのは、「ストレスだけで心臓が変形する」という単純な話ではない。

むしろ、私たちの生活環境や心身の状態と心臓病の間をつなぐ一つの仕組みとして、慢性炎症が重要なのではないかということである。

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