「椅子が足りない、先生もいない」フランス高校生デモはなぜ全国に広がった?

何が起きた?
フランスで、高校生による学校封鎖やデモが全国に広がっています。
運動のきっかけの一つになったのは、パリ郊外クレテイユにあるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ高校です。9月17日、教職員が人手不足などを訴えてストライキを始め、翌日から高校生も参加しました。
この学校では、新学期が始まっても複数の職員や教師がそろっていませんでした。生徒の一人は、前年に数学教師がいたのは3か月ほどで、新学期も数学教師がいない状態だったと訴えています。
抗議の様子がSNSなどで広がると、「自分たちの学校も同じだ」と各地の高校生が動き始めました。
10月に入ると運動は全国規模となり、一時は1,200校以上で抗議が起きました。10月5日には、安全上の理由も含めて約400~500校で授業が全面または一部停止される状況になっています。
一部では放火や器物損壊、警察との衝突も発生し、これまでに約5,000人が拘束され、その多くが10代とされています。
ただし、抗議している高校生全体が暴力行為をしているわけではありません。教育環境の改善を求める生徒の運動と、一部で起きている破壊行為は分けて考える必要があります。
簡単にいうと
今回、高校生たちが怒っている理由を非常に簡単にすると、
「普通に学校で勉強するための人や物が足りない」
ということです。
教師が休んでも代わりが来ない。クラスには35人前後いる。ところが学校によっては机や椅子まで足りない。
壊れた設備が放置され、ゴキブリやネズミが出るという訴えまであります。
その状態で生徒には高校卒業試験や大学進学競争が待っています。
そのため今回の運動では、単なる「教育予算を増やしてほしい」という要求ではなく、学校生活の非常に具体的な問題が次々と表面化しています。
「椅子が足りない」生徒たちは何を訴えている?
特に注目されているのが、教室そのものの環境です。
サン=ドニのフレデリック・バルトルディ高校では、生徒たちが机や椅子が足りないと訴えています。
さらに、教室や廊下にはゴキブリやネズミが出るという証言もあります。
別の学校からも、壊れた椅子、使えないトイレ、雨漏り、カビ、壊れた窓、動かないパソコンやプロジェクターなど、さまざまな問題が報告されています。
もちろん、フランス全国の高校がこのような状態という意味ではありません。
実際、パリ中心部の改修された高校の生徒からは、自分たちの学校は比較的恵まれているとして、むしろ郊外の高校への支援を増やしてほしいという声も出ています。
問題になっているのは、学校や地域によって教育環境の差があまりにも大きいのではないかということです。
「先生がいない」まま試験を受ける生徒も
人手不足も大きな問題です。
パリ郊外オーベルヴィリエでは、新学期開始後も数学、英語、体育など複数の授業が教師不足によって行われなかったとされています。
17歳の生徒は、前年に十分なフランス語の授業を受けられないまま、フランス語の高校試験を受けたと証言しています。
運動発祥地となったクレテイユの高校でも、教師だけでなく、副校長にあたる管理職、職業教育を担当する職員、看護師などが不足していました。
特に職業高校では、担当職員がいなければ企業での実習手続きを進められないケースもあります。
つまり人手不足は、
「授業の質が少し下がる」
という程度ではありません。
教師がいないため授業そのものが成立しなかったり、卒業や進学に必要な試験・実習へ直接影響したりする問題になっています。
興味深いのは、最初に抗議したクレテイユの高校では、その後、学校側が求めていた人員の一部が実際に追加されたことです。
副校長にあたる職員などが配置され、生徒の企業実習も再開できるようになりました。
この「抗議したら実際に状況が変わった」という成功体験が、運動拡大の一因になったとみられています。
朝8時から夕方6時まで 時間割への不満も
高校生たちが訴えているのは、教師や設備だけではありません。
学校で過ごす時間が長すぎるという不満もあります。
リールの高校生は、朝8時から夕方6時まで学校にいる日があるとして、「普通ではない」と訴えています。
これは10時間ずっと授業を受け続けるという意味ではありません。
選択科目などによって授業と授業の間に空き時間が入り、
朝8時に授業
↓
空き時間
↓
授業
↓
さらに空き時間
↓
夕方6時に終了
という時間割になる生徒がいます。
そのため、実際の授業時間以上に長く学校へ拘束されるケースがあります。
高校生側は、こうした過密な時間割の見直しも求めています。
「昼ご飯を食べる時間がない」という声も
食堂についても、かなり生活に直結した不満が出ています。
生徒数に対して食堂の処理能力が足りず、短い昼休みに長い列ができるため、十分に食事を取れないという訴えがあります。
サン=ドニでは食堂料金の高さも問題として挙げられています。
つまり今回のデモで生徒たちが話しているのは、
教師
机
椅子
トイレ
校舎
食堂
時間割
といった、毎日の学校生活そのものです。
そのため、一般的な政治スローガンだけから今回の運動を見ると、生徒たちがなぜここまで強く反発しているのかが分かりにくくなります。
最大の不満は「同じ条件で競争していない」こと
さらに高校生にとって深刻なのが、その先に大学進学があることです。
フランスでは「Parcoursup」というシステムを使って大学などへの進学先を決めます。
高校生団体などからは、この制度について選考への強いストレスや、学校・地域による格差への不満が出ています。
特に郊外の生徒たちが訴えているのは、
「教師がいる学校と、教師が足りない学校の生徒が、最後には同じ進学競争をする」
という問題です。
授業を予定どおり受けられる学校もあれば、教師がいないため授業そのものが消えてしまう学校もある。
設備の整った学校もあれば、机や椅子が不足していると訴える学校もある。
それでも最終的には成績や試験結果などを使って進学先を争います。
そのため今回の運動では、単なる設備改善だけではなく、「住んでいる地域によって将来の可能性が変わってしまうのではないか」という教育格差への不満が大きなテーマになっています。
なぜ一気に全国へ広がった?
今回の運動が特徴的なのは、最初から全国規模の政治運動として計画されていたわけではないことです。
クレテイユの一つの高校で、
「先生が足りない」
という非常に身近な問題から始まりました。
高校生が学校を封鎖し、その映像がSNSで広がる。
すると別の高校の生徒が、
「うちも教師が足りない」
「うちはクラスがいっぱいだ」
「うちは校舎が壊れている」
と声を上げ始めました。
そして最初の高校では、実際に追加人員が認められました。
つまり、
不満がある
→ 抗議する
→ 学校側・教育当局が対応する
→ それを他校の生徒が見る
→ 自分たちも動く
という形で運動が急速に広がったわけです。
その後、学生団体や大学生、教職員組合なども参加するようになり、当初の高校生による運動から、より大きな教育・社会運動へ変化しています。
暴力事件と生徒側の要求は分けて考える必要がある
一方で、運動の拡大とともに深刻な問題も起きています。
学校への放火や破壊、警察への攻撃などが発生し、政府は一部の抗議が「都市暴力」へ変化したとしています。
24校が放火または破壊の被害を受け、教育関係者にも多数の負傷者が出ています。
警察との衝突も激化し、約5,000人が拘束されました。
ただし、一部の学校では、破壊行為を行った人物について「その学校の生徒ではなかった」とする証言もあります。
高校生側も、暴力や破壊を自分たちの要求とは切り離しています。運動の発祥校では、当初から生徒が「物を壊さないように」と呼びかけながら抗議していました。
そのため今回の出来事を見る際には、
教育環境を改善してほしいという高校生の要求
と、
抗議に伴って起きている暴力事件
を一つのものとして扱わないことが重要です。
これからどうなる?
高校生・大学生の団体は10月6日に、再び全国規模の行動を呼びかけています。
フランス政府もすでに、生徒団体や保護者団体との協議を開始しました。
教育相は、教師が休んだ際の代替を早めるための行動計画や、高校生の時間割についての検討を進める考えを示しています。
今回の運動は「椅子が足りない」という一見小さな問題から、教師不足、校舎の老朽化、長時間の学校生活、大学進学、そして地域間の教育格差までつながっています。
高校生たちが問うているのは、突き詰めれば非常に単純です。
「同じ国の公立学校なのに、なぜ普通に授業を受けられるかどうかまで、通う学校によって違うのか」
そこが、フランスで今回の抗議が短期間に全国へ広がった最大の背景です。
情報源
- 情報源
- Reuters「Hundreds of French schools stay closed ahead of nationwide day of student protests」
- Reuters「High school students in Paris’ deprived suburbs spark national protest movement」
- Le Monde「Blocage de lycées : les lycéens et les enseignants expliquent pourquoi ils manifestent」
- Le Monde「EN DIRECT, blocage de lycées : en Ile-de-France, plus de 200 lycées perturbés」
- TF1 Info「C’est nous, l’avenir : dans le lycée de Créteil d’où est partie la mobilisation」
- Boursorama・AFP「Les revendications des lycéens: des moyens supplémentaires à la suppression de Parcoursup」
- L’Union Étudiante「Appel de l’USL et UE à bloquer les lycées et facs ce jeudi 1er octobre et à une grande manifestation de la jeunesse le 6 octobre」