北朝鮮の核実験が「眠っていた断層」を動かした可能性 なぜ8年近く地震が増えた?

北朝鮮の核実験が「眠っていた断層」を動かした可能性 なぜ8年近く地震が増えた?

何が起きた?

北朝鮮の豊渓里核実験場で行われた地下核実験が、周辺にある断層を長期間にわたって動かした可能性があることが分かった。

韓国・釜山大学や中国の研究機関による研究チームが、2026年9月17日、科学誌「Science」に研究結果を発表した。

研究チームは、韓国と中国東北部で2008年から2025年まで観測された17年間の地震波を詳しく調べ、北朝鮮・万塔山周辺で1,399回の地震を検出した。

特に大きな変化が起きたのが、北朝鮮が6回目の地下核実験を行った2017年9月だった。

通常なら地下核実験による小さな地震は数日から数週間で減っていく。ところが万塔山では、核実験から約3週間後に地震活動が増え始め、その後も何年にもわたって回数と規模が増える異例の状態が続いた。

さらに地震の場所を詳しく調べると、ランダムに発生しているのではなく、北北西方向に延びる2本の断層に沿って集中していた。

研究チームは、繰り返された核実験によって地下の岩盤が傷つき、もともと存在していた断層が再び動き始めた可能性が高いとみている。

簡単にいうと

今回の話は、「2017年の核爆発の余震が8年近く続いている」という意味ではない。

むしろ、

核実験によって地下の力のバランスが変わり、もともと限界に近かった断層が後から少しずつ動き始めた

という現象である。

たとえば、本棚に本をぎりぎりまで積んでいる状態を想像すると分かりやすい。

棚の一部を強く叩けば、その瞬間に全部が崩れなくても、荷重のかかり方が変わる。その結果、時間がたってから別の場所がずれたり壊れたりすることがある。

地中でも似たことが起きたと考えられている。

核爆発そのもののエネルギーが何年間も残って地震を起こしているのではない。

核爆発によって岩盤に亀裂や損傷が生じ、地下にかかっていた力、つまり「応力」の分布が変化した。その変化によって、以前から存在していた断層が滑りやすくなったということだ。

なぜ普通の「核実験後の地震」と違うの?

地下核実験の後に小さな地震が起こること自体は、以前から知られている。

米国のネバダ核実験場や旧ソ連のセミパラチンスク核実験場でも、爆発直後に小さな地震や地下空洞の崩壊が観測されてきた。

ただし普通は、

核爆発

周辺の岩盤が壊れる

小さな地震や崩落が起きる

数日~数週間で減っていく

という流れになる。

万塔山では、これとは逆の現象が起きた。

北朝鮮は2006年から2017年まで、この地域で6回の地下核実験を実施した。

地震活動は2013年の3回目の実験以降に確認されるようになったものの、当初は少なかった。

ところが最大規模だった2017年の6回目の実験後、地震が急増した。

しかも2025年まで減少するどころか、地震の発生頻度と規模が長期的に増える傾向が確認された。

2017年の核実験は地震波ではM6級として観測され、その直後には地下空洞などの崩壊によるとみられる別の大きな振動も検出されている。

つまり万塔山の地下では、単に爆弾が一度爆発しただけではなく、長年の核実験によって岩盤そのものがかなり大きな影響を受けた可能性がある。

核実験が地震を「作った」の?

ここは少し注意が必要である。

研究結果は、「核爆弾のエネルギーがそのまま1,399回の地震になった」という意味ではない。

今回動いたとみられるのは、もともと地下に存在していた断層である。

断層には、地殻の動きなどによって普段から力がかかっている。

その力が限界を超えると岩盤がずれ、地震になる。

今回の研究では、万塔山周辺の断層がすでに動きやすい状態にあり、核実験による岩盤の損傷や応力の変化が最後の一押しになった可能性が示されている。

つまり、

地震のエネルギーの大部分はもともと地下に蓄えられており、核実験が「引き金」になった

と考える方が近い。

これは地熱発電や地下への水の注入などによって起きる「誘発地震」と共通する考え方でもある。

実際、日本でも2017年の北海道胆振東部地震とは別に、同年の長野県ではなく、韓国・浦項で地熱発電に伴う地下への流体注入がM5.5の地震を誘発した可能性が高いとする研究がある。

人間が地下に大きな変化を加えた場合、その影響が活動を止めた直後に終わるとは限らないということだ。

大地震につながる可能性はある?

現時点で、「近いうちに大地震が起きる」と分かったわけではない。

研究で確認された地震の大半は小さく、主にM2未満の微小地震だった。近年にはM3を超えるものも確認されているが、大きな被害を出す規模ではない。

重要なのは、地震そのものの大きさよりも、長期間ほとんど動いていなかった断層が実際に動き始めているらしいという点である。

地震は約24キロにわたる断層帯に集中しているとの報道もあり、研究者は断層全体が一度に動いた場合には、より大きな地震を起こす能力を持つ可能性も指摘している。

ただし、「その断層が一度に壊れるのか」「いつ地震が起きるのか」「どの程度の確率なのか」は分かっていない。

断層の長さから計算できる最大規模と、実際にその地震が起きる可能性は別の話である。

そのため、今回の研究を「北朝鮮でM6級地震が迫っている」と解釈するのは行き過ぎである。

なぜこの研究が重要なの?

今回の研究が示したのは、地下核実験の影響が爆発直後だけで終わらない可能性である。

これまで核実験後の地震は、爆発によって壊れた岩盤が落ち着いていく短期的な現象として考えられることが多かった。

しかし万塔山では、爆発が終わった後に地下の力がゆっくり再配分され、数年かけて断層活動が目立つようになった可能性がある。

これは核実験だけの問題ではない。

地下深くへの水や二酸化炭素の注入、地熱発電、資源開発、大規模な地下施設など、人間が地下の圧力や力のバランスを変える活動にも関係する。

さらに核実験を監視するうえでも重要である。

核実験場周辺で何年も地震が続くのであれば、新しく観測された振動が自然地震なのか、過去の核実験によって誘発された地震なのか、それとも新たな地下爆発なのかを慎重に見分ける必要がある。

今回の発見で特に意外なのは、2017年に核実験が終わった後、時間とともに影響が弱まるのではなく、少なくとも2025年まで地震活動がよりはっきりしていったことである。

北朝鮮の核実験は、一瞬の巨大な爆発を起こしただけではなく、万塔山周辺の地下にある「力のかかり方」そのものを長期間変えてしまった可能性がある。

それが今回の研究で明らかになった最も重要な点である。

情報源