東山紀之社長が退任へ 旧ジャニーズ問題はなぜ「オールドメディア」不信の象徴になったのか?

東山紀之社長が退任へ 旧ジャニーズ問題はなぜ「オールドメディア」不信の象徴になったのか?

何が起きた?

旧ジャニーズ事務所から社名を変更し、ジャニー喜多川氏による性加害の被害補償を担っているSMILE-UP.が、2026年9月28日に経営体制の変更を発表した。

東山紀之社長は任期満了に伴い9月30日付で退任し、10月1日からチーフ・コンプライアンス・オフィサーを務めてきた弁護士の山田将之氏が代表取締役社長兼CCOに就任する。藤島ジュリー景子氏は代表取締役として留任する。

ただし、東山氏の退任は「性加害問題への対応終了」を意味しない。

SMILE-UP.は、今後は法的手続きや専門的な判断を必要とする案件が中心になるとして経営体制を変更したもので、係争中の案件を含めて必要な手続きを最後まで続けるとしている。

9月15日時点では、補償を申し出た人は累計1,047人。このうち587人に補償内容が通知され、578人への補償金の支払いが完了している。

簡単にいうと

現在のSMILE-UP.は、かつてのジャニーズ事務所のようにタレントを育成・管理する芸能事務所ではない。

タレントのマネジメント事業などはSTARTO ENTERTAINMENTへ移され、SMILE-UP.は旧ジャニーズ事務所時代に起きた性加害問題の被害補償などを進める会社として残っている。

補償を終えた後には廃業する方針も示されており、東山氏の退任は会社にとって一つの大きな節目である。

しかし、旧ジャニーズ問題が残した問題まで終わったわけではない。

その一つが、テレビや新聞など既存メディアに対する信頼である。

なぜジャニーズ問題がメディア不信につながった?

ジャニー喜多川氏による性加害問題で強い批判を受けたのは、旧ジャニーズ事務所だけではなかった。

テレビ局などの大手メディアも、

「なぜこれほど長い間、大きく報道しなかったのか」

と問われることになった。

週刊文春は1999年からジャニー氏をめぐる性加害疑惑を報道していた。

旧ジャニーズ事務所側は名誉毀損だとして提訴したが、2003年の東京高裁では性加害に関する記事の重要部分について真実性が認められ、2004年には最高裁でその判断が確定した。

つまり、2023年になって突然初めて問題が明らかになったわけではない。

それにもかかわらず、この司法判断は当時のテレビなどで大きく報じられなかった。

TBSが2023年に実施した社内検証でも、2003年の東京高裁判決や2004年の最高裁決定を放送した事実を確認できなかったとしている。

2023年に旧ジャニーズ事務所が設置した外部専門家による再発防止特別チームも、問題が長期間続いた背景として「マスメディアの沈黙」を挙げた。

テレビ東京など各局も、その後になって自社の過去の報道姿勢を検証することになった。

さらに2023年3月、BBCがジャニー氏の性加害問題を扱ったドキュメンタリーを放送した。

その後、元所属者らによる被害の訴えが相次ぎ、日本のテレビ局も本格的に問題を取り上げるようになった。

一般の視聴者からすると、

「週刊誌では昔から報道されていた」

「裁判まで行われていた」

「司法判断も出ていた」

「それでも大手テレビでは十分に扱われなかった」

「海外メディアが大きく報じた後になって一斉に報道した」

という経緯に見える。

この構図が、「既存メディアは本当に都合の悪いことまで報道しているのか」という不信を強めた。

問われたのは「偏向」だけではない

ここで問題になったのは、単純にニュースの政治的な右・左といった意味での「偏向」だけではない。

もっと根本的なのは、報道機関と取材対象との利害関係である。

旧ジャニーズ事務所は長年、多数の人気タレントをテレビ局へ出演させていた。

テレビ局にとって旧ジャニーズ事務所は、報道で監視すべき対象になり得る一方で、ドラマ、音楽番組、バラエティー、広告などを一緒に作る重要な取引相手でもあった。

そこで生まれたのが、

「自分たちと大きな取引関係を持つ相手について、本当に厳しく報道できるのか」

という疑問である。

もちろん、すべてのテレビ局が事務所から圧力を受けたために報道しなかったと確認されたわけではない。

テレビ東京は社内検証後、報道現場が圧力を受けた結果として報道しなかった、あるいは内容をねじ曲げた事実はなかったとの見解を示している。

一方で各局の検証では、問題意識の不足、芸能ニュースを報道部門が十分扱ってこなかった組織構造、事務所との関係など、さまざまな問題が浮かび上がった。

つまりジャニーズ問題が突きつけたのは、

「報道機関は、自分たちと近い巨大組織を十分に監視できるのか」

という問題だった。

「オールドメディア」はテレビ離れから生まれた言葉ではない

ここは区別する必要がある。

「オールドメディア」という言葉そのものは、最近生まれたものではない。

インターネットなどの新しいメディアに対して、テレビ、新聞、雑誌などの従来型メディアを指す言葉として、少なくとも2000年代には日本でも使われていた。

当時は現在ほど強い批判語とは限らず、単に「従来型メディア」と「ネットメディア」を区別する意味でも使われていた。

ところが近年、日本ではニュアンスが変わってきた。

2025年には三省堂の「今年の新語」で「オールドメディア」が2位となり、2024年ごろからSNS上で新聞やテレビを批判する意味を込めて使われるようになったと説明されている。

現在の「オールドメディア」という言葉には、

「報道が偏っているのではないか」

「都合の悪い事実を報じていないのではないか」

「既得権益を持つ組織と近すぎるのではないか」

「自分たちの問題には甘いのではないか」

といった既存メディアへの不信が重なっている。

したがって、

「新聞やテレビを見る人が減ったから、オールドメディアという批判が生まれた」

と説明するのは正確ではない。

新聞離れやテレビ離れ、SNSへのニュース接触の移行は、メディア環境そのものの変化である。

一方、近年の「オールドメディア」という批判的な使われ方は、既存メディアの報道姿勢や信頼性への不満と強く結び付いている。

この二つは関連してはいるが、同じ問題ではない。

ジャニーズ問題は「オールドメディア不信」の始まりだったのか?

そこまで断定することもできない。

既存メディアへの不信は、ジャニーズ問題以前から存在していた。

また、SNSやネット上の情報が常に既存メディアより正確なわけでもない。

SNSでは誰でも情報を発信できるため、既存メディアが報じていない事実が広がることがある一方、誤情報や根拠のない噂が急速に拡散することもある。

Reuters Instituteの調査でも、日本で「ニュース全般を信頼する」と答えた人の割合は2023年の42%から2024年は43%で、ジャニーズ問題の直後にニュース全体への信頼が急落したわけではなかった。

ただし2024年版の日本についての分析では、主要メディアが「なぜジャニー喜多川氏をめぐる疑惑を長期間調査しなかったのか」という厳しい問いを突きつけられたことが明記されている。

2025年にはニュース全体への信頼度が39%へ低下し、2026年には41%まで戻している。

この数字からも分かるように、メディアへの信頼は一つの事件だけで単純に上がったり下がったりするものではない。

それでも旧ジャニーズ問題は、

「大手メディアが知ることのできる立場にいながら、巨大な取引相手を長期間十分に追及できなかったのではないか」

という疑問を社会に突きつけた。

その意味で、現在の「オールドメディア」不信を考える上で象徴的な事件の一つだったとは言える。

会社が終わっても、メディア側の問題は終わらない

SMILE-UP.はいずれ被害補償などを終え、会社そのものを廃業する方針である。

東山氏の退任によって、補償会社としての活動も一つの段階を越えつつある。

しかし、旧ジャニーズ問題によって明らかになったメディア側の問題には、会社のような明確な終了日はない。

大きな芸能事務所、企業、政府、スポンサーなど、自分たちと関係の深い組織に問題が起きたとき、報道機関はどこまで独立して取材できるのか。

重大な疑惑が週刊誌や海外メディアから出たとき、「自分たちは報じていない」という理由だけで扱わずに済ませていいのか。

そして、過去に報じなかったことについて自分たち自身を検証できるのか。

これは旧ジャニーズ事務所だけの問題ではない。

東山氏の退任によってSMILE-UP.は新しい段階に入る。

しかし、「なぜ日本の大手メディアはあれほど長く報道できなかったのか」という問いまで終わったわけではない。

むしろ、その問いにどう答え続けるかが、「オールドメディア」という言葉に込められた不信を減らせるかどうかの一つの試金石になっている。

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